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 キャロルがメイとイリスの三人で、カレーパンを作ってから数日経った頃。

 学園内には相変わらず、あちこちでカレーの香りが漂っていた。

 まだまだカレーブームは健在で、今はそこから派生してカレーパンブームも同時に発生している。


 その原因はキャロル以外にイリスも担っていた。

 カレーパンの作り方を覚えたイリスは、それを作っては度々ルイーズに差し入れをしているのである。


「ルイーズさん。今日もとても素敵ですね。そんなあなたの事を想って、今日もカレーパンを作ってきました」

「い、イリス殿下、ありがとうございます……」


 いつも強気のルイーズだが、イリスを前にすると普段通りとはいかないらしく、少し大人しくなっている。

 ついでに顔が赤いところを見ると満更ではなさそうだ。

 イリスの想いが届く日もそう遠くはないかもしれない。


 差し入れと言えば、最近はメイもチャーリーに時々差し入れをしている姿を見るようになった。

 会いに行くと顔を真っ赤にしてかわいいの、なんてメイは言っていたっけとキャロルは思い出す。

 おっとりとしたメイだったが、どうも何か妙な扉を開きかけている気がしないでもない。


(でも、メイにも気になる人が出来たのは微笑ましい事ですわ)


 いつも自分の恋の相談を聞いてもらってばかりだった。

 だから今度は自分がメイの力になるのだとキャロルは気合を入れていたりする。

 ……とまぁ、そんな日常を送りながら、キャロルは今日もクライドのところへとやって来ていた。


「クライド、クライド。今日はお肉たっぷりのカレーパンですの!」


 キャロルも変わらず、せっせとクライドにカレーパンの差し入れを届けていた。

 そしてクライドも嬉しそうに受け取ってくれる。


「いつもありがとう、キャロル。俺は幸せ者だな」


 変わったと言えば、キャロルがカレーパンを差し入れするたびに、クライドの表情が前よりも分かりやすく変化するようになったのだ。

 今までは薄っすらと変わる程度だったのに、初対面の人が見ても浮かべている表情が分かるくらいになっている。

 それに気が付いた時キャロルは感動した。

 これはきっと『胃袋をがっちり掴もう作戦』の成果なのだ。

 やはり胃袋を掴むのは大事、母は正しかった。キャロルがしみじみと感じ入っていると、


「そう言えば、キャロルは知っているかい? 今、この学園でカレーパンにとあるジンクスが出来たんだよ」


 クライドがそんな話をしてくれた。

 カレーパンがブームになっているのは知っているが、ジンクスは知らなかった。

 キャロルは目を瞬いて、軽く首を傾げる。


「まぁ、どんな?」

「カレーパンを意中の人に渡すと、恋が叶うってジンクス。誰が広めたんだろうね」


 クライドはそう言いながら、自分の鞄に手を入れた。そして中から包みを一つ取り出す。

 そこから、ふわり、とカレーの香りがした。


「……これを君に。甘口のカレーパン。その、初めて自分で作ったから……あまり美味しくないかもだけど」


 クライドはその包みをキャロルに向かって差し出した。

 キャロルは大きく目を見開く。

 クライドが。キャロルの大好きなクライドが、自分のためにカレーパンを作ってくれたのだ。

 しかも彼の口からカレーパンのジンクスが出た後にだ。

 頬がじわじわと熱くなる。胸がドキドキする。


「…………っ!」


 キャロルはカレーパンごとクライドの手をぎゅっと握った。

 するとクライドも驚いた様子で軽く目を開く。


「嬉しい……! 嬉しいですの、クライド! 私、クライドの事、とっても大好きですの!」


 キャロルが大きな声で愛を告げると、クライドは顔を赤くして「ンンッ」と変な声を出した。

 そしてそのままぐねぐねと身体を動かし悶えている。

 もしもキャロルが手を握っていなかったなら、両手で顔を覆ってごろごろと床でも転がっていそうな勢いだ。

 彼はしばらくそうした後、はぁ、と熱のこもった息を吐いて、


「俺も、キャロルの事……いつも大好きだよ」


 と、彼にしては珍しく甘い声でそう言ってくれて。

 キャロルはボンッと、これ以上ないくらい顔を真っ赤にしていた。




◇ ◇ ◇




 さて、そんな彼女達のいちゃいちゃは目立つもので。

 顔を赤くしながら仲良く微笑み合う二人を見た学生達が、


「カレーパンのジンクスは本当だった!」


 なんて言って、カレーパンブームが加速し、あちこちで恋のお話がとんでもない勢いで増えて、ちょっとした騒動になったのだが――――それはまた、別のお話。




おしまい


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