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第9話 ヒルデブルク城へと

 ギレネス村を出たザガートは、情報収集のため西にあるヒルデブルク城へと向かう。彼にれた女性ルシルをそばに連れて歩く。


 村を離れて二日……城に向かう彼らの前に小さな森が立ちはだかる。

 森を進むと魔物に襲われる危険性があったが、かいすると遠回りになるため、二人は森を突っ切る事に決めた。


 彼らが暗い森の中を歩いていると、通り道のわきにある茂みがガサガサと音を立てて揺れだす。


「ギギギィィーーーーッ!」


 奇声を発しながら、茂みの中から一匹のゴブリンが飛び出してきた。右手にはぎ澄まされたナイフが握られている。ザガート達がここを通るとにらんで待ち伏せていたのだ。


「小娘ェッ! ココガ貴様ノ墓場トナルノダッ! 死ネェェェェエエエエエーーーーーッッ!!」


 ゴブリンは真っ先に少女を狙い、高くジャンプしてナイフを構えたまま急降下する。


「業火よ放て……火炎光矢ファイヤー・アローッ!!」


 ルシルが即座に魔物の方を向いて、両手のひらをかざす。魔法の言葉を唱えると、手のひらからなしくらいの大きさの煌々(こうこう)と燃えさかる火球が放たれた。

 火球が命中すると、ゴブリンの体が一瞬にして炎に包まれる。


「ギャアアアアッ!! 馬鹿ナッ! 小娘……オ前ハ魔法ガ使エナイハ……ズ……」


 全身を灼熱の業火で焼かれたゴブリンが地面に墜落して、悲鳴を上げてもがき苦しむ。少女が魔法を使えた事への疑問を口にしながら黒焦げになって息絶えた。


「凄いですね、この指輪……本当に私みたいなのでも魔法が使えるなんて」


 ルシルが感動の言葉を口にしながら、自分の右手に目をやる。

 彼女の右手の中指に、小さな宝石の付いた指輪がめられていた。ザガートがギレネス村の村長に渡したのと同じものだ。


「それがあれば、お前でも中級の冒険者並みに戦える……足手まといにはなるまい」


 ザガートがルシルに戦う力が得られた事を伝える。男の足を引っ張るかもしれないと不安を抱いた彼女に、懸念を払拭してやろうとこころみた。


 実際魔王にとっても、戦力の頭数が増えて護衛の手間が減るのであれば、良い事ずくめだ。少女に与えた指輪は、非戦闘要員を即席の戦闘要員に出来るだけの力があった。


「とは言え、ゴブリンへの咄嗟とっさの対応は見事だった。ルシル、お前冒険者の素質があるかもしれんぞ」


 男は少女の戦いぶりに素直に感心し、称賛の言葉を贈りながら頭を優しくでた。


「はいっ!」


 頭を撫でられたルシルが、嬉しそうにニコニコしながら元気良く返事する。

 会話が終わると、二人は再び森の出口に向かって歩き出す。ザガートは敵の死を侮辱するようにわざとゴブリンの死体を踏んでいった。


「……」


 暗闇の中に赤く光る無数の瞳が、二人を見る。

 森の中には他にも魔物の気配があったが、ゴブリンが返り討ちにったのを見て『かつに手を出せば自分もああなる』という恐怖があったのか、結局手を出さずただ二人を見送った。


  ◇    ◇    ◇


 森を抜けた二人が開けた草原を歩いていると、王城らしき建物が見えてくる。


 正方形に建てられたコンクリートの城壁、その中央にそびえ立つ巨大な城こそザガートが目的とするヒルデブルク城だと思われた。城壁の内側には大きな街があり、城を取りかこむように配置している。王国の首都だけあって総人口はかなり多いようだ。


 二人が城壁の門へと近付くと、鉄製の鎧を身にまとい、槍で武装した見張りの兵士が門の前に二人立つ。


「ムムッ! 貴方はひょっとして、ザガート様では!?」


 魔王の姿を目にして、兵士の一人が開口一番に問いかけた。


如何いかにもそうだが……俺の事を知っているのか?」


 初対面のはずの兵士が自分を知っていた事に、ザガートが首をかしげる。いくら村を救ったとはいえ、風のウワサが流れるにはタイミングが早すぎると疑念を抱く。


「実は先日、ギレネス村の村長が早馬を飛ばしまして、事の一部始終を我らに伝えたのです。それで昨晩王宮で会議が行われた結果、王は貴方様をこころよく迎える決断をされました」


 もう一人の兵士がザガートの疑問に答える。テラジが王城に使いの者を送ってよこした事、それにより魔王の活躍が城内に知れ渡った事などを、手短に教えた。


「陛下からは、貴方が到着したら謁見の間へお通しするようおおせつかってます。ささ、どうぞこちらへ」


 最初に言葉を発した兵士が、そう言って二人を城の中へと連れて行こうとする。

 もう一人は、後から来た別の兵士と一緒に見張り役として門に残る。

 ザガート達は男に案内されるがまま門の中に入っていく。


ものわかりが良くて、非常に助かる……)


 ザガートは心の中で、話がヤケにサクサク進む事をありがたいと感じた。

 何しろ彼は魔王なのだ。事情を知らない者が姿を見たら、魔族の仲間と勘違いしても何ら不思議は無い。人間に敵とみなされる事態は極力避けたかった。


 自分の正確な評判が他の街に伝わっただけでも、ギレネス村を救う価値はあったと感じた。やはり暴力で支配するより、英雄の名声を広める方が手っ取り早いと、ザガートは改めて思い直す。

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