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第73話 レイプされそうになった少女

「ハァ……ハァ……ハァ……」


 魔王から命からがら逃げ延びたガンビーノが激しく息を切らす。一旦立ち止まって後ろを振り返ると、随分ずいぶん遠くまで逃げてきたらしく、一行の姿は見えない。後を追ってくる様子も無い。あの場を切り抜けた事に、まずはホッと一安心する。

 走った疲れをいやそうと立ったまま休憩していると、九人の部下達が遅れてやって来る。


「待ってくだせえ、おかしらぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」


 大声で叫びながら全力疾走して首領の元へと追い付く。


「ハァハァ……ようやく追い付きやしたぜ、お頭っ!」

「俺達を置き去りにしたまま逃げるなんて、ひでえじゃねえですかっ!」

「今回ばかりは見損ないやしたぜっ!」


 彼らは息を切らせながらガンビーノに激しく詰め寄る。仲間を見捨てて自分だけ助かろうとした事に猛抗議する。


「う、うるせえっ! こっちだって必死だったんだ! しょうがねえだろ!!」


 ガンビーノが顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。逆ギレ気味に自分の判断を正当化する。

 そこまで平然と開き直られては反論の余地も無く、部下達もやむなく首領を責めるのをやめる。


「俺達、もうわるさできねえのかな……」


 部下の一人がボソッと小声でつぶやく。

 他の連中が彼に続くように「はぁーーっ」とため息を漏らす。

 にわかに場の空気が重苦しくなる。誰もが下を向いたまま悲しげな表情になる。


 魔王に言われた台詞セリフが岩のように重くのしかかる。もし彼の言葉が真実なら、盗賊達は悪事を働いた瞬間に死んでしまうのだ。それは死刑宣告に等しい。

 鳥が空を飛び、魚が水を泳ぐように、彼らにとって悪事を働くのは『当たり前の事』だった。他の手段で生きる考えなどじんも無かった。

 そんな彼らが悪事を禁止されるなど、鳥が翼をもがれたようなものだ。


「な、なんだテメエらっ! ヤツの言う事をに受けてんのか!? あ、あんなの口からでまかせに決まってらぁっ! 特定の条件でしか発動しない即死魔法なんて、そんなのある訳ねえ! 吸わされたのは、きっとただの海苔のりだ! 俺は盗みをやめたりなんかしねえからなっ! ガハハハハッ!!」


 ガンビーノがよどんだ空気を吹き飛ばそうと、大きな声で叫ぶ。魔王の警告を信じるにあたいしない虚言だと決め付けて、部下達を元気付けようとした。最後は大物ぶりを見せ付けるように豪快に笑い飛ばす。


「そ……そうですよねっ! さすがお頭、そうでなくっちゃ!」

「俺達、何処までもアンタに付いていきやすぜっ!」

今更いまさら俺達の生き方を変える必要なんてねえ!」


 子分達が首領の言葉で元気を取り戻す。胸の内に抱えていたもやが晴れてスッキリしたような満面の笑みになる。心の不安が取り除かれた嬉しさのあまり、大地が割れんばかりの歓声を上げた。魔王の警告に一切ひるまない首領のきもっ玉のでかさに心底れ込む。


 ……ガンビーノの態度は単なる現実逃避の強がりであったが、子分達はそれに気付きもしない。


「さて、これからどうしたものか」


 連中が今後について考えながら、辺りを見回していると……。




「フッフフッフ、フーーーン」


 山道から大きく外れた草むらで、一人の少女が呑気のんきに鼻歌をうたいながら花をんでいた。盗賊の一団がすぐ近くにいる事に気付きもしない。

 誰かがそばにいる様子も無い。こんな人里離れた山中に、本当に彼女一人でいる。


 十三歳くらいに見える少女は腰まで伸びた長めの金髪で、んだ瞳は青く、肌は雪のように白い。赤い布地にフリルのレースが付いたエプロンドレスを着て、左手にかごをぶら下げている。籠にはこれまで摘み取った草花が積まれている。

 首からは青い宝石のペンダントをぶら下げている。あまり値打ちがあるようには見えない。


「ローズマリーは病気に効くって、ばっちゃが言ってた……」


 少女が薬草の名を口にしながら植物採集を行っていると……。


「ヒャッホーーーーイ!!」


 盗賊達が奇声を発したまま、ズザザァーーッと山の斜面をすべり降りる。平地に降り立つと、またたく間に十人で少女を取りかこむ。


「へっへっへっ……」


 彼らはいやらしい笑みを浮かべながら声に出して笑う。目はギラギラしており、蛇のようにペロリと舌なめずりする。口からはダラダラとよだれらし、手の指先をムカデのようにワキワキ動かす。

 腹をかせた獣のような目で少女を見る。完全に彼女を犯す気でいる。

 魔王に言われた事などすっかり忘れてしまったかのようだ。


「あああっ……あっ……」


 屈強な男達に囲まれて、少女が顔を引きつらせた。表情はみるみるうちに青ざめて、手足の震えが止まらない。今すぐ逃げ出そうにも、足に力が入らない。蛇ににらまれたカエルのようになる。


「お頭、この女どうしやす?」


 恐怖で体が動かない少女を眺めながら、子分の一人が処遇を問う。いきなり襲いかかったりせず、首領の判断を仰ぐ。


「そうだな……奴隷商に売り飛ばしてもいいが、はしたにするのも悪かぁねえ。とりあえず一発ヤッてから決めるとするか。おっと、十人がかりでやったら一発どころじゃ済まねえな。ハハハハハッ」


 ガンビーノが冗談とも本気とも付かない言葉を発して楽しそうに笑う。性欲を満たせる期待に胸をふくらませて、すっかり上機嫌になる。ムラムラした事をアピールするように腰をシュッシュッと前後に振る。

 少女を犯す方針が決まり、十人の男がジリジリと彼女に近寄る。一歩、また一歩と距離を詰める。少女と数メートルしか離れていない場所まで来る。

 誰か一人が飛びかかれば、それをきっかけに他の九人が一斉に飛びかかる状態だ。そうなれば彼女は屈強な男達の餌食えじきになってしまう。


「いやぁ……」


 少女の心が深い悲しみに染まる。目にうっすらと涙が浮かび、今にも泣きそうになる。

 男達に服を脱がされて、エッチな事をされて、赤子をはらまされる姿を想像して、まいと吐き気をもよおす。それだけでなく、この先もずっと彼らに飼われて、一生死ぬまで彼らの性欲を満たす道具として酷使され続ける未来が頭をよぎり、目の前が真っ暗になる。


 もしこの場にナイフがあったら、いっそ死んだ方がマシだと叫んで自害しただろう。だが生憎あいにくとそんなものは無い。舌をみ切っても、現実の人間は死んだりしない。


 年端としはも行かぬ若い娘が、護衛も付けず危険な場所に足を踏み入れたらどうなるか……彼女はそれを強く思い知った。

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