表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/272

第42話 なずみとセックス

「……」


 少女の本音を聞かされて、ザガートはしばし無言になる。余計な事をしてしまった罪悪感にさいなまれて、何とも言えない気持ちになる。


 仲間を危険な目にわせたくなかった。大切な家族を守ろうと必死だった。それが活躍の機会を奪い、自信を失わせる結果に繋がったのではないかと深く悔いる。

 全て分かったつもりでいた自分の未熟さを反省する。


「すまなかった……お前の気持ちを知りもせず、出過ぎたマネをしてしまった。どうか許して欲しい」


 びの言葉を述べながら数歩前に歩く。少女の前に立つと、両肩に手を乗せる。


「お前は断じて足手まといなどではない。しっかり役に立っている。今はまだ仲間になって日も浅く、活躍の機会に恵まれないだけだ。もっと自分に自信を持て」


 相手の顔をじっと見ながら、優しく語りかける。少女の才能をめて、落ち込んだ気持ちを立ち直らせようとした。


「嘘ッス! オイラ、全然何の役にも立たないッス! 師匠にオイラの力なんて不要ッス! なのに、どうして……どうしてオイラを引き止めようとするッスか!!」


 なずみは顔を上げて半泣きになりながらなぐさめの言葉を否定する。何故魔王がそこまで自分を引き止めようとするかが分からず、疑問に感じて問いかけた。


「……お前にそばにいて欲しいからだ」


 魔王はそう言うや否や、少女を両手で包み込むようにそっと抱き締めた。


「……ッ!!」


 突然の出来事に少女が棒立ちになる。予想外の展開に頭が真っ白になり、手足が岩のようにカチコチ固まる。金縛りに遭ったように舌が動かず、驚きの声すら上がらない。調理されるのを待つだけの、まな板の上のこいと化す。


 幼い少女を抱き締める男の腕は太くてたくましい。普段は衣服に隠れて見えないが、思った以上にガッシリしている。布しでも相手の体温が伝わる。

 力強い男の抱擁ほうように、父親のような頼もしさを感じてしまい、少女は胸がドキドキしだす。今まで味わった事の無い感情を抱く。


 抱かれたまま抵抗しない少女を見て、魔王が安心したように口を開く。


「お前達三人といると、とても楽しかった。あえて口にはせずとも、心の中でずっと感謝していた。失ったものを取り戻せた気がした。ようやく本当の家族と呼べるものを得られた……そんな気がしたんだ」


 仲間と一緒にいて心が満たされた事を明かす。一言一句、いつわらざる本音を吐き出す。


「もしここで引き止めなければ、二度とお前に会えなくなる……そうなったら一生後悔するハメになる。あそこで引き止めれば良かったと、悶々(もんもん)とし続ける事になる。俺はもう人生の選択をあやまらないと、そう誓った」


 なずみと今生こんじょうの別れをしたくない事、それが全力で引き止めようとする理由だと伝える。


「俺は一度全てを失った。もう二度と、手にした大切なものを失いたくない……そのためならば手段をいとわない。お前を何処にも行かせはしない」


 切実な思いを打ち明けて、少女を絶対に手元に置こうとする決意を語る。


「なずみ……俺のモノになれ」


 そう口にすると、強引に顔を近付けて、互いのくちびるを触れさせた。


「んっ……!!」


 いきなりキスされて、なずみが深く困惑する。ふさがれた唇から言葉にならない声が漏れ出す。無意識に手足をバタつかせて暴れようとしたが、野生の熊のようにたくましい腕でガッチリ固定されており、ビクともしない。


「……んっ」


 やがて暴れるのをやめて大人しくなる。抵抗は無意味だと悟り、何をされても受け入れるしかないのだと観念する。

 もう自分は魔王のモノになるしかないと考える。それを心の何処かで嬉しいと思う気持ちがあった。男の野性的なたくましさに力ずくで奪われる事に快感すら抱く。


 互いの顔が近付いて、相手の生暖かい吐息が触れる。ドクンドクンという心臓の鼓動が伝わり、男が興奮しているのが分かる。唇がねっとり触れ合う感触が情欲をき立てて、相手を繋がりたい異性として強烈に意識する。


 しばらく唇を重ねていた二人だったが、やがてザガートがキスをやめて互いの顔が離れる。魔王は腹を空かせた狼のようなギラついた瞳になると、少女を強引に地面に押し倒す。

 少女が押し倒された地面は落ち葉が敷き詰められた天然のベッドになっており、体に傷は付かない。こうなる事を見越して準備したようだ。


 魔王は少女の服を一枚ずつ手で脱がしていく。無垢むくな乙女の柔肌やわはだが、月光に照らされてあらわになる。少し緊張したのか、汗で濡れた肌がプルプル震える。


「し、師匠……駄目ッス。オイラ、まだ心の準備が……師匠と一線を越えちゃったら、今までと同じ関係でいられなくなるッスよ……」


 全裸のまま地べたに寝そべったなずみが、大事な所を手で隠す。生まれたままの姿を魔王に見られる事に耐えられず、恥ずかしそうに顔をらす。表情に困惑の色が浮かび、性交に及ぶ覚悟が出来ていない事を伝える。


 少女は心の底から彼を尊敬していた。神にも等しい人物だと思った。決して自分には手が届かない存在だと考えた。

 雲の上のように思っていた男が、自分に好意を向け、男女として愛し合おうとする。その事への喜びと、恐れ多さとが入り混じる。自分なんかが……と謙遜けんそんする思いに駆られた。


 複雑な感情が混ざり合って、気持ちが一つにまとまらない少女に、魔王がグッと顔を近付ける。


「俺に抱かれるのは嫌か?」


 念を押すように問いかけた。おどすような口調でなく、相手の意思を尊重する優しさがある。もしここで少女が断ったら、本当に行為をやめそうな雰囲気だ。


「……」


 魔王の問いに、なずみがしばし黙り込む。目を閉じてほほを赤く染めると、気持ちを落ち着けようと深呼吸する。緊張で言葉が出ないのか、口がパクパク動く。


「……嫌じゃないッス」


 やがて絞り出したように小さな声でつぶやいた。


「分かった……なら、全て俺に任せろ」


 魔王が少女の耳にそっとささやく。

 少女は無言のままコクンとうなずくと、大事な所を隠すのをやめて、葉っぱの上に大の字に寝る。全身の力を抜いて、相手を受け入れる体勢になる。


 魔王は自らも服を脱ぐと、少女の上に全裸のまま覆い被さる。

 二つの影が重なって一つになった瞬間、満月を見上げた狼がワオーーンと鳴く。男女の行為の声を隠そうとするように……。




 その晩、ザガートとなずみは激しく愛し合った!!!!




 ――――数時間後。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 なずみが目をつむって顔を赤くしたまま激しく息を切らす。横向きに寝たまま手足をだらんとさせる。完全に精根尽き果てて疲労困憊こんぱいしており、足の指先も動かない。全身汗でグッチョリ濡れており、ほのかに湯気が立ちのぼる。汗のしずくが月明かりを反射してキラキラ光り、裸体の美しさを際立てる。


 疲れ切った少女の背中を、全裸のザガートが地べたに座ったまま見下ろす。汗で濡れた肌をからかうように指で突っつくと、敏感になっているらしく一瞬ビクッとなった後、プルプルと小刻みに震える。その様を見て少女をモノに出来た満足感に胸をおどらせた。


「師匠……オイラ、本当に全然何の役にも立たないッスよ。それでも師匠のそばにいて良いんスか……?」


 なずみが背を向けたまま口を開く。体を重ねてもなお、自分の存在意義に疑問を抱く。


「お前達が側にいてくれる……それだけで俺は力が湧いてくる。勇気をもらえる。俺は本当は弱い……命に代えても守りたいと思うものが無ければ、本気で強くなれない。お前達三人のうち、一人も欠けて欲しくない……」


 ザガートがグッと顔を近付けて、穏やかな口調で話す。娘を愛する父親のように優しい眼差しを向ける。

 自分が実は心の弱い人間であり、内面では少女達に依存していた事を明かす。言葉の節々から、どれだけ仲間を大事に思ったかが十二分に伝わる。


「これは命令ではない。お願いだ。これからもずっと側にいて、俺を支え続けて欲しい……」


 切実な思いを打ち明けて、自分の側にいるよう懇願する。


(師匠……)


 男の言葉に少女は胸を深く打たれるものがあった。

 魔王が心の内では大きな孤独を抱えていて、もしかしたら深い心の傷を負ったかもしれない事、仲間を失うのを酷く恐れていた事、その内面の弱さを包み隠さずさらけ出した事に、あわれみの感情が湧く。


 少しでも彼の孤独をいやせるなら、力になりたい……そう思いを抱く。


「……分かったッス。オイラ、これからもずっと師匠と一緒にいるッスよ!」


 顔を上げて後ろを向くと、歯を見せてニカッと笑う。心の不安が払拭されたような晴れやかな笑顔になる。

 ザガートはそんな少女の頭を優しくでると、おでこにチュッとキスした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ