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第40話 レイプをしないオーク達

 太陽が燦々(さんさん)と照り付ける、よく晴れた日の午後……鳥がチュンチュンと鳴く声が聞こえる。


 一行は何もやる事が無いので、その場で時間をつぶす。四人で空をボーッと眺めたり、雑談に花を咲かせたり、しりとりをして遊ぶ。ジャンケンもしたが、動体視力が反則級である魔王の後出しに勝てる者などいない。


 オーク達が洞窟に入ってから二時間が経過した頃……。


「……彼らが戻ってきたようだ」


 ザガートがそう言いながら、洞窟の入口へと目をやる。

 直後ザッザッと足音が鳴り、魔物の一団が洞窟から出てくる。彼らは小さな宝箱を一人で運んだり、大きな宝箱を二人で運んだり、両手にこぼれんばかりの金銀財宝を抱える。みなが何かしらの宝を手にする。


 全員が洞窟の外に出ると、手にした宝をドサッと地面に置いて一箇所に集める。

 ザガートはそれを鑑定するようにじっくり眺める。何らかの魔法を使ったのか、瞳が青く光り出す。宝に込められた記憶や魔力を読み取っているようだ。


(フーーム……魔力を帯びた品や、優れた武器防具の類は無い。せいぜい店に売り払って金に替える程度の使い道しか無さそうだ)


 旅の役に立ちそうな宝が無いと知って、残念そうにため息をつく。


「洞窟の中にあったのは、これで全部か?」


 念を押すようにオーク達に問いかけた。


「何かの役に立つかは分かりませんが……こんなものを見つけました」


 ゴブリンの一人がそう言いながら前に進み出て、手にした紙切れを渡す。相当の年代物だったのか、文字が色あせていて紙質も古い。

 ザガートは受け取った紙切れをバサッと地面に広げて、まじまじと眺める。


「これは……ッ! お前達、これを何処で見つけた!?」


 突如顔を上げて興奮気味に問いただす。よほど素晴らしい発見があったのか、見るからにテンションが上がりだす。


 紙切れに書かれたのは世界地図だった。だがただの地図ではない。十二箇所に赤い×(バツ)印が付けてあり、はしっこに、すぐには読めない古代文字が書かれている。


「迷宮の一番奥にあるケセフの部屋と思しき書斎しょさいの、さらに隠し扉の向こう側に厳重に保管されていました。それがどうかなされましたか?」


 地図を持ってきたゴブリンが答える。古ぼけた紙切れにどのような価値があるか分からないため、主君の予想外の反応に首をかしげた。


「これは、大魔王の居城に行くために必要な十二の宝玉……それを持っている幹部の配置場所が書かれたものだッ! この場にいる者では俺にしか読めないであろう古代文字で、幹部間の連絡網がしるされているッ!!」


 ザガートはその場にいる全員に見せ付けるように地図を高々と掲げると、それがどれほど重要な書類かを早口で伝える。


「これがあれば、旅の目的を明確に定められる……当てもなくブラブラする必要が無くなる! でかしたぞ、お前達ッ! これこそ今回の探索で見つけた、もっとも価値のある宝だッ!!」


 地図を手に入れた事に大喜びするあまり、ゴブリンやオークの背中を手でバンバン叩いたり、ねぎらいの言葉を掛けたりする。部下が予想外の働きを示した事に心底嬉しそうにはしゃぐ。後で彼らに褒美ほうびを与えねばなるまい……そう胸に抱く。


「おお、我らにはもったいなきお言葉……ぜひこれからも主君のご期待にそえるよう、尽力する所存にございますッ!!」


 魔物の一団が労いの言葉に深く感激する。オークもゴブリンも、みなウッウッと声に出してむせび泣く。彼らにとって、生みの親たる魔王に働きぶりを認められる以上の喜びは存在しない。ますます敬愛する主人に尽くしたい思いを強くする。


 一連のやりとりをじっと眺めていたルシルであったが、オークの一人が腕に軽い傷を負っているのに気付く。よく見てみると、他のオーク達も大なり小なり怪我をしている。ゴブリンは体が小さいためか、あるいは罠を見抜く能力によってか、負傷している者はいない。


「みんな傷だらけで、とっても痛そう……迷宮の探索で怪我をしたの?」


 何もせずただ見ているのが辛くなり、心配そうに言葉を掛ける。彼らの近くに寄ると、回復の呪文を唱えて一人ずつ順番に傷をいやし始める。


「おお、ありがたい……そうです。これは迷宮の探索中に付けられた傷です」


 傷を癒されたオークが感謝しながら質問に答える。

 となりにいたもう一人が補足するように語りだす。


「我らが入った洞窟は恐ろしい大迷宮でした……魔物こそ一人もいなかったものの、落とし穴、回転床、テレポーターなどさまざまな罠が仕掛けられていました。壁から槍が飛び出してくる罠もあり、我々の何人かはそれを喰らってしまったのです」


 迷宮が侵入者を待ち構える罠の巣窟だったと告げる。仕掛けられた罠に掛かった事が負傷の原因であった事実を明かす。

 魔物がいなかったのは、ムーア村とヒルデブルク城を襲撃するのに全兵力を使い切ったからだと推測できた。


「先に入った冒険者のものでしょう……白骨死体も転がっていました。並みの人間が足を踏み入れたら、死んでいたかもしれません」


 先人の犠牲者がいた事を口にして、洞窟が如何いかに危険な場所かを分かりやすく伝えた。


「そうか……」


 オークの話を聞いて、ザガートがものげな表情になる。しばらく思い詰めたように下を向いた後、少女達の方へと振り返る。


「やはりお前達を洞窟に向かわせなくて正解だった……いくら強くても、俺一人だけで何処までお前達を守り切れるか分からん。ましてや洞窟のあるじすでに死んでいる。ただ宝を回収するだけの事に、大事な家族を危険な目に遭わせたくなかった」


 三人を見回すと、彼女達を迷宮へと行かせなかった理由を教える。魔王にとって少女達はかけがえの無い大切な仲間であり、傷付いて欲しくないがゆえに、オーク達に代わりに探索させたのだと……。


 理由を話す魔王の眼差しは、愛する娘を見る父親のように優しく、口調は穏やかだ。彼が仲間の身をどれほど案じているか、痛いほどよく伝わる。


「そ、そうか……それなら仕方ないなッ! 今回はお前の言う事に従ってやる! お前の判断はいつでも正しいと信じているからなッ!!」


 レジーナが気恥ずかしそうに顔を赤くしながら言う。家族呼ばわりされた事に照れがあったものの、それを隠そうと必死に強がってみせた。


「ザガート様……」


 ルシルがとても嬉しそうに笑う。愛する男が自分達を気遣ってくれた事に、感激のあまり胸の内が熱くなる。


「……」


 なずみだけが浮かない顔をする。下を向いたまま落ち込んだように黙り込む。何を考えたのか、表情からは読み取れない。


「それにしても、あれだけ醜悪だったオークが、こんなに真面目になるとは……肉体が同じなだけで、本当に中身は入れ替わってしまったんだなぁ」


 レジーナが興味深そうに言いながら、オークの体を手でベタベタ触る。低俗な魔物の代表格だった豚頭の獣人が、紳士的な性格へと生まれ変わった事が不思議に思えてならない。驚いた顔をしながら彼らをまじまじと眺める。


「ええ……以前の我々は、大魔王に邪悪な魂を吹き込まれました。人間を家畜のような存在だと思い込ませて、女性をレイプし、村を蹂躙じゅうりんし、人間を虐殺する……それに生きる喜びを感じるよう仕向けられたのです。それが我々を悪事へと走らせました」


 ベタベタ触られたオークが、王女の問いに答える。かつて魔王軍の手先であった頃の心境を素直に打ち明ける。これまで自分が犯してきた罪の重さと向き合い、少し暗い表情になる。


「ですが、我々は変わりました……ザガート様が変わらせてくれたのです。もはや我々の中に悪事を働こうと思う気持ちなど一ミリも無い。これからは女性をレイプするのをやめて、畑をたがやし、村の仕事を手伝う善良なオークとして生きていく所存です」


 すぐに顔を上げて青空を眺めると、自分達がれいな存在に生まれ変わったと告げる。邪悪な魔物である事をやめて、真っ当な生き方をするのだと誓いを立てた。

 空に昇る太陽の日差しが、罪の告白をしたオークをまぶしく照らす。日光に照らし出された晴れやかな獣人の表情は、彼が改心した事を印象付けるに十分だった。


「ハハハッ……それじゃまるで、オークはレイプするのが当たり前みたいな口ぶりじゃないか」


 レジーナが冗談を口にしながら大きな声で笑う。完全に獣人と打ち解けたようにほっこり笑顔になる。王女の中に彼らを警戒する気持ちなど無い。


 彼女に釣られて他の者も笑い出す。オークもゴブリンも、ザガートもルシルも、みなが満面の笑みになる。「ハハハッ」と笑う声が辺り一帯に響いて、場がなごやかな空気に包まれる。


「……」


 その場にいた中でただ一人、なずみだけが笑っていない。彼女だけがうつむいて思い詰めた表情をする。ザガート以外、彼女の異変に気付けた者はいない。

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