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第36話 激闘! アダマン・ゴーレム vs ザガート!!

「きっ、貴様はザガート……異世界の魔王ッ!!」


 目の前に現れた男の姿を見て、ケセフが驚きながら名を口にする。


 とても信じられるものではなかった。城から村までゆうに数十キロは離れており、全力で走ったとしても数時間は掛かる計算だ。男がいくら強大な魔力の持ち主でも、遠く離れた城まで一瞬で来れるはずがない。そう確信したから偽者を使って時間を稼ぐ作戦に出た。


 だが不可能だと確信した『それ』を、男は平然とやってのけた。その事実が到底受け入れられず、ケセフは頭がおかしくなりかけた。


「ザガート様ぁーーーーーーっ!」

「ミノタウロス、無事かッ!」

「師匠、待って下さいッス!!」


 道化師が困惑していると、魔王が飛んできた方角から三人の少女が遅れて駆け付ける。方法は分からないが、彼女達もこの場へと来ていた。

 ルシルは負傷したミノタウロスの元へと駆け寄り、回復魔法で傷をいやす。他の二人は牛男をかばうように立つ。


「おおザガート様……我が魔王ッ! よくぞ……よくぞお戻りになられた!!」


 傷を癒されながら牛男が感激の言葉を漏らす。絶体絶命の危機に駆け付けた主君の頼もしさに胸を打たれて思わず泣きそうになる。


「ミノタウロス……俺が戻るまでよく持ちこたえた。その奮戦ぶり、めて遣わす。お前のような素晴らしい戦士を配下に出来て俺は幸せ者だ。その事をどうか誇りに思うと良い」


 ザガートがねぎらいの言葉を掛ける。自分が帰るまで城を守り通した牛男の忠義を素直に称賛する。


「ああ……わたくしめには過ぎたお言葉にございますッ!!」


 優しく声をかけられて、ミノタウロスが感動のあまりむせび泣く。目から大粒の涙があふれ出し、ウッウッと声に出して泣く。これまでの苦労がむくわれた気がして、嬉しくてたまらなくなる。


 新しい魂を吹き込まれた今の彼にとって、ザガートは生みの親に等しい。だがその事実が無かったとしても、アザトホースと比較して、魔王こそ忠義を尽くすにあたいする存在だと確信を抱く。かつて魔王軍にぞくした時、優しく言葉を掛けられた事など一度もありはしなかったのだから……。


 彼らがそうしたやりとりをしていると、呆気あっけに取られて棒立ちになっていたケセフがハッと正気に立ち返る。


「ザガート……貴様どうやってここへ戻ってきた!!」


 城へ帰還した方法を慌てて問いただす。


「どうやって来ただと? 簡単な事だ……転移テレポートの呪文を唱えた。一度来た場所なら、どれだけ離れていようと仲間を連れて一瞬で行ける。例外は無い」


 男の質問に魔王が答える。さも当然だと言いたげに腕組みしながらフフンッと鼻息を吹かせて、誇らしげなドヤ顔になる。


(転移の呪文だと!? そんな馬鹿げた話があるかッ! あれはわずかでも失敗すれば即座に石の中にワープするような、集中力をようする術だぞ! それを数十キロも離れた場所に、仲間を連れて正確に移動するなどという話は聞いた事も無い! 異世界の魔王……やはりこいつに不可能は無いというのかッ!!)


 魔王の返答を聞いて、ケセフは視界が真っ暗になる。あっさり不可能を可能にしてみせた男のデタラメぶりにまいがして気が遠くなりかけた。


「……ズモモモモッ」


 道化師が立ちくらみを起こした時、魔王に蹴られて地面に倒れていたゴーレムが動き出す。体が大地に埋まって動けずにいた彼であったが、みなが会話に気を取られて時間の余裕が生まれた事もあり、力を振り絞って土をどかし、自力で起き上がる。

 二本の足でしっかり大地に立つと、視界の先にいる魔王を目指してゆっくりと歩き出す。


「ほう……アダマン・ゴーレムか」


 向かってくる巨人を目にして、ザガートが思わず感心したようにうなる。希少な鉱物で作られた魔物に興味が湧いたのか、あごに手を当てて、物珍しそうにしげしげと眺める。


「ホッ……ホワッハハハハッ! そうですッ! 宇宙で一番硬い物質アダマンタイトで作られたゴーレム……それがこのアダマン・ゴーレム! 万一貴方が戻ってきた時のために、大魔王様が私に与えて下さった切り札ッ!!」


 ケセフがあごが外れんばかりの大きな口で笑う。これまで狼狽ろうばいしたのが一転して余裕に満ちた笑顔になる。男が瞬間転移した事に一度は慌てたものの、ゴーレムが負けるはずがないという考えがあり、気持ちを切り替えた。


「こいつに攻撃の呪文は一切効きませんッ! バハムートを仕留めた細胞を爆裂する呪文も、恐らく効かないでしょう! そしてミノタウロスを上回るパワーと強度の持ち主ッ!!」


 巨人がどれだけ強いのかを流暢に語る。魔王の攻撃が通用しない事に絶対の自信を抱き、嬉しさのあまりウキウキが止まらなくなる。


「魔王ザガートッ! 貴方にこいつを倒す手段など、一つも存在しないのです! つまり貴方の敗北は約束されたも同然ッ! 無駄な抵抗を諦めて、魔王軍に逆らった事を後悔しながら死んでいきなさい! ウッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!」


 死を宣告する言葉を発すると、顔をゆがませて見るからにブサイクな表情しながら下卑げびた笑いを浮かべる。口から大量のつばが飛んで地面が汚れる。ネズミのような小男が発狂したように笑う姿は見るからに滑稽こっけいだ。


「ならば……試してみるか?」


 道化師の話を聞いて、ザガートがニヤリとほくそ笑む。巨人の強さを知らされても恐れを抱く様子は全く無く、それどころか男をあざけるようにククッと声に出す。


 両者が言葉をわす間にゴーレムが魔王へと近寄る。二メートルほどしか離れない間合いに立つと、右足を高く上げて、魔王を一思いに踏みつぶそうとした。


 ザガートは右拳をググッと握り締めて力をめると、ゴーレムの腹の正面へと瞬間移動する。


「フンッ!」


 かつを入れるように一声発すると、全力の正拳突きを叩き込んだ。


 男の拳が触れた瞬間、ドォォォーーーーンッ! と大陸中に響かんばかりの爆発音が鳴る。そこから発せられた衝撃波が周囲へと伝わり、大地が激しく揺れて空気がビリビリと振動する。異変を察知したカラスの群れがギャーギャーと鳴きながら空の彼方に逃げる。


 殴った魔王も、殴られたゴーレムも微動だにしない。映像を止めたように、拳が当たった時の体勢のまま静止する。戦いを見ていた仲間達も無言のままそれを見守る。緊張感が胸に湧き上がり、ゴクリとつばを飲む。


 場ににわかに静寂が訪れて、カラカラとかわいた風が吹き抜ける音だけが鳴る。

 そのまま数秒間が過ぎ去ったかに思われたが――――。




「グオオオオオオオオッ!!」


 ゴーレムが突如悲鳴を上げて苦しみ出す。数メートル後ろへと下がると、両手でかばうように腹を押さえたままうずくまる。

 次の瞬間、殴られた箇所からビシビシと亀裂が入りだす。亀裂はまたたく間に全身へと広がっていき、ガラガラと音を立てて崩れ去る。


 無敵であったはずの巨人は、ただの物言わぬ瓦礫がれきの山と化した。


「ひぃぃぃぃ! なんて事だッ! いくら魔王が肉体強化の術を使ったとはいえ、宇宙で一番硬いゴーレムを素手で破壊するとはッ!!」


 頼みのつなの部下がやられた事に、ケセフが声に出してうろたえる。それまで抱いた余裕は一瞬で吹き飛び、心の中が焦りと恐怖で支配される。


「フンッ……何を勘違いしている? 俺は魔法で肉体強化なんかしちゃいない。素の腕力で、思いっきりぶん殴った……たったそれだけだ」


 慌てる道化師をザガートが鼻で笑う。手に付いたほこりをパンパンと叩いて払うと、侮蔑する眼差しを向けた。


 ザガートは腕力強化アタック・ブーストの呪文を使わなかった。ただ純粋に、自らの力でゴーレムを打ち砕いた。それは彼が魔術においてだけでなく、肉弾戦においても最強クラスである事を意味する。


 ケセフも、そして魔王の仲間達も、彼が魔術に特化した人物だと思い込んだ。彼が強大な魔力の持ち主であった事、これまで多くの敵を魔術でほふってきた事が、そう思わせる要因となった。


 それがとんだ思い違いだったと知らされて、ケセフは頭を抱え込んだ。

 もはや魔王に弱点など無いのか……そんな言葉が胸をよぎり、目の前が真っ暗になる。

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