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第250話 神の怒り/Dies irae

「貴様が私を裁く……だと?」


 魔王の挑発を受けて、神がそう言葉を発する。下を向いたまましばし物思いにふけるように黙り込んだが、何を考えたのか鉄仮面しでは表情を読み取れない。

 魔王の発言に怒ったようにも、ぜんとしたようも受け取れたが……。


「フフフ……フハハハハ……ハァーーーッハッハッハァ!! 面白い! なかなか面白い事を言うな、貴様!! 魔王が神を裁くなど、笑える冗談だ! 滑稽こっけいすぎて、へそで茶がきそうになるわ! そんな事がやれるというのなら、やってみせるがいい! 貴様ごときが千回……いや一万回挑戦したとしても、そんな事は天地がひっくり返ったとしても、絶対に起こりはしないだろうがな!!」


 突如顔を上げて相手の方を見ると、気が狂ったように大きな声で笑いだす。物語の悪役のような『三段笑い』をして、おかしくなったテンションのまま喧嘩けんかを売る言葉を早口でわめき散らす。正気を失ったような態度は、怒りながら笑っているようだ。


「神の力、その目に焼き付けて死ぬがいい!!」


 最後は一転して笑うのをやめると、相手への揺るぎない殺意をき出しにする。


「……光輪捕縛ルミナス・リングッ!!」


 開いた両手のひらを胸の前で向き合わせた状態で、技名らしき言葉を叫ぶ。

 すると両手のひらの間にある空間に、バレーボールくらいの大きさの光の玉が生まれる。神はそれを右手でワシづかみにすると、魔王の頭上めがけて勢いよく投げ付けた。


 光の玉は魔王の頭上まで来ると、フラフープのような形状へと変化する。そのまま真下に落下して魔王をスポッと包み込むと、円が急速に閉じていって、円の内側にいる相手をギリギリと締め付けようとする。

 フラフープはかなり強固な材質で、締め付ける力は強い。古代の恐竜ティラノサウルスさえも内蔵を押しつぶされて殺されるほどのパワーだ。


「その光輪は少しでもよこしまな心があれば、絶対外れないようになっている!! 全ての神と万物のことわりを創造した『宇宙の因果律』が、そう決めたからだ!! その光輪は徐々に内側に締まっていって、捕らえた者を圧殺し……」


 技の性能について自信満々に解説する神であったが……。


「ふんっ!」


 言い終わらないうちに魔王が鼻息を吹かせながら両腕に力を込める。するとブチィッ! と音が鳴ってフラフープがやわひものようにあっけなく千切ちぎれた。最後はしなびたロープとなって床に落下し、粒子状に分解された砂になる。


「なっ……何ィィィィィィイイイイイイイイーーーーーーーーッ!!」


 目の前で起こった出来事にヤハヴェがあごが外れんばかりの勢いで驚く。一瞬何を見せられたのか全く理解できず、深いショックを受けたあまり頭が真っ白になる。


「ば……馬鹿な!! そんな馬鹿な!! ありえない!! こんなの絶対ありえない!! その光輪は少しでもよこしまな心があれば、絶対壊せないように出来ているのだぞ!! にも関わらず、こうもあっさり壊されるとは、これは一体どういう事だ!? わ、私は何か悪い夢でも見ているというのか!?」


 最後は気が動転して周りが見えなくなり、目の前の現実を受け入れられない言葉が次から次へと飛び出す。両手で頭を抱えてその場にうずくまったまま「ありえない、ありえない」とうわごとのようにわめき続ける。想定外の出来事に心をへし折られて、頭がおかしくなったようだ。


「さあな……だが『宇宙の因果律』とやらは、俺によこしまな心が無いと、そう判断したらしい」


 目の前で発狂する神を見ながら、ザガートが小馬鹿にするように鼻で笑う。神の渾身の技が自身に効かなかった理由を、推測をまじえて答える。


 魔王の言葉すら耳に入らないように正気を失い続けた神であったが……。


「……まだだ」


 聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でそうささやく。発狂するのをやめて落ち着きを取り戻すと、ゆっくりと立ち上がって魔王の方へと向き直る。


「まだだ……まだ終わらんぞ、ザガート! 神の力は、まだこんなものではない!!」


 仕切り直すように宣戦布告する言葉を吐いて、自身の力がこの程度では済まないと負け惜しみのように言う。


「五体をバラバラに切り裂かれて息絶えるがいい! 八つ裂き光輪ッ!!」


 技名らしき名前を叫ぶと、右手のひらにふちがギザギザした丸ノコギリのような光の輪を生成する。それを魔王めがけてブーメランのように投げ付けた。

 光輪は空中で分裂して三つに増えると、それぞれ別の方角に飛んでいって、三方向から魔王へと襲いかかる。神の意思によって自在に動く刃で、相手をバラバラに切り裂こうともくろむ。


「ふんっ!」


 魔王が鼻息を吹かせながら正面に右手をかざすと、半透明に青くけたガラスのようなバリアが、男を中心としてドーム状に張りめぐらされた。

 神が放った光輪は障壁に触れると、ガシャァーーーン! と音を立ててもろく砕ける。最初の一つが砕けた後、残りの二つも後に続くように障壁に突進したが、やはりいともたやすく砕ける。


「なにっ!!」


 渾身の大技を防がれた光景に神がにわかに色めき立つ。二度もたやすく技を防がれた事実に動揺を隠しきれない。


「ヤハヴェ……いつまでも離れた場所からネチネチと飛び道具で攻めるのは、もうやめにしたらどうだ」


 ザガートが腕組みしたままふんぞり返りながら言う。技を防がれて狼狽ろうばいする神を鼻で笑い、近接戦を挑もうとしない姿勢に苦言をていする。


「お前も男だったら小細工を捨てて、正々堂々とこぶしでかかってこい!!」


 ググッと握り締めた右拳を自身の顔の前に持ってきて、肉弾戦を挑むよう相手を挑発する。

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