表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

227/272

第227話 互いの奥義

 ……地面に埋まったまま考え事にひたっていたブレイズだったが、このまま考えていてもらちが明かないと冷静に思い直す。力を振り絞って立ち上がると、体中に付いた泥と砂を左手でパンパンッと叩いて払う。相手の方に向き直ると、右手に持っていた刀を両手で握り直す。


(一撃で傷が付かぬのなら、傷が付くまで何撃でも加えるのみ!!)


 相手の命を奪うまで何度でも斬る決心を固める。根気強くはがねの肉体を斬り続けていれば、いつかは致命傷を与えられるだろうと思い立つ。

 今後の方針が決まると、大地を強く蹴って敵に向かって駆け出す。さっきと同様に相手の脇腹を斬る算段だ。


「……そう来ると思ったぜ」


 不死騎王の行動を目にしてバルザックがニヤリと笑う。邪悪なたくらみをした悪魔のようにククッと声に出す。この流れは彼にとって予測済みだったようで、想定通りの展開になった事に胸をおどらせた。


 狂戦士は剣のつかから左手を離すと、手のひらを正面に向ける。聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呪文のような言葉を唱えだす。


「地獄の鎖よ、我が敵を捕縛せよ……鮮血鉄鎖ブラッド・チェインッ!!」


 魔法名らしき言葉を大声で叫ぶ。すると不死騎王の真下にある大地に円形の魔法陣が浮かび上がり、そこから血のような赤色をした六本の鉄製の鎖が飛び出す。

 鎖はブレイズの体にグルグルと蛇のように巻き付く。そのままガッチリと固定して、獲物を捕らえたように離そうとしない。


(何ッ!? この男、まさか呪文を……)


 狂戦士が魔法を使用した事に不死騎王が驚きを隠せない。パワー偏重主義だと思っていた男が高度な呪文を使用した事実に虚を突かれた思いがした。

 不死騎王は鎖を力ずくで振りほどこうとしたが、彼の怪力をもってしても鎖を破壊するのは容易ではない。それもそのはず、『鮮血鉄鎖ブラッド・チェイン』の強度は術者の腕力に比例するのだ。狂戦士の方がパワーで上回っていれば、鎖を外せないのが道理だ。


 不死騎王が術を解けないのを見て、バルザックが千載一遇の好機とみなす。

 この機を逃すまいと右手に持っていた剣を両手で握り直すと、剣先を地面に付けた状態で構える。そのまま力をめ込むように数秒間固まった後、両目をグワッと見開く。


「大地よ割れろ……龍爪羅刹斬りゅうそう・らせつざんッ!!」


 技名らしき言葉を大声で叫ぶと、地面に下ろした剣をスイングするように豪快に振り上げた。ブォンッ! と風を切る音が鳴ると、剣を振った地点から一陣の突風が吹き抜ける。風が通り抜けた場所の大地が二つに割れて、巨大な底無しの裂け目が出来上がっていく。技名の叫び通りに、剣から放たれた風圧で大地を割ったのだ。


 風は鎖で縛られて動けないブレイズが立っていた場所を通り抜ける。そのまま彼の真下に底無しの裂け目が生まれる。


『うおおおおおおおおッ!!』


 魔法の効果である鎖は消えて、ブレイズは真下に生まれた裂け目へとなすすべなく落ちていった。裂け目は本当に底無しだったらしく、いつまでっても地面に激突した音が鳴らない。「ウオーーーッ、オーーーッ、オーーッ」という悲鳴が反響しながら何度も鳴るだけだ。その声も次第にフェードアウトして、最後はピタリとむ。


 不死騎王が穴に落ちて数秒が経過したが、裂け目から出てくる気配は無い。ただかわいた荒野の風が吹き抜ける音がビュウビュウ鳴るだけだ。


「まさかこれでオシマイってこたぁ……ねえよな?」


 敵が大地の裂け目にまれた姿を見て、狂戦士がつぶやく。彼にとって渾身の大技であったと思われる一撃だが、勝利を確信してはいない。むしろ相手がこの程度で死ぬはずは無いという臆測すら抱いた。


 男の期待に応えるように、大地の裂け目からブレイズと思しき人影がカエルのようにジャンプする。裂け目から離れた場所にスタッと着地すると、狂戦士の方に向き直る。右手にはしっかり刀が握られており、深手を負った様子も無い。


「……そう来なくっちゃ」


 不死騎王が無事だった姿を見て、バルザックがニタァッと口元をゆがませた。相手の生存を心から歓迎しており、まだ死闘を楽しめる喜びに胸をおどらせてワクワクさせた。

 この男は本気で相手を殺しにかかってなお、互角の勝負を続けたいのだ。一見矛盾したように見える発想は彼が戦闘狂ならばこそだ。


龍爪羅刹斬りゅうそう・らせつざん……見事な技であった。もし食らったのが生身の時のそれがしであったなら、今の一撃で確実に命をたれただろう』


 当の不死騎王は自身を奈落に突き落とした技の威力に感嘆する。命を奪われこそしなかったものの、大地を割った剣の風圧はまことに驚嘆すべきものがあり、それを繰り出した男の怪力を素直に称賛する。


『ならばそれがしも、この技をもって貴殿の思いに応えよう!!』


 そう叫ぶやいなや、右手に握った刀を天高く掲げる。刀のさきは騎士の真上にある空を指している。


『冥王剣……ツルギアメッ!!』


 技名らしき言葉を叫ぶと、バルザックの頭上にある空に魔力と思しき青い光が集まっていって、一つの大きなかたまりが出来る。次の瞬間、そこからオーラで出来た青い光の剣が、真下にいるバルザックめがけて雨のように降り注ぐ。


「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーッ!!」


 何十本、何百本と降り注ぐ剣の雨を浴びて、バルザックが大きな悲鳴を上げる。剣はドガガガガガガッと音を立てて地面に突き刺さり、モクモクと煙が立ちのぼる。男の姿が煙に隠れて見えなくなる。

 剣の発生源である魔力の塊は時間とともに小さくなっていって、やがて完全に消えてなくなる。それにともない剣の落下がピタリとむ。男がどうなったかは分からない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ