第221話 対決! ジジイ vs ババア!!
……魔王が四つに分けた空間、その二つめの場所での出来事。
ザムザ達が戦ったのと同じような荒野の大地に、二人の男女が十メートルほど離れて立ったまま睨み合う。一人は老魔道士ツェデックで、もう一人は鬼姫だ。
ツェデックは彼愛用の木の杖を持っていたが、鬼姫はまだ異空間から刀を取り出していない素手の状態だ。
二人はこの場に来てから一歩も動いていない。両者共に相手の出方を窺うようにじっとしていたが、痺れを切らしたのかツェデックが先に口を開く。
「ムフフフフッ……鬼姫よ、お前さんの事は聞いておる。なんでも数百年生きた妖怪の王だとな……じゃがワシは相手がロリババアならぬエロババアでも気にせんよ。何しろワシは元いた世界では人間ではない多数の女の魔物ともハメハメしまくった、ハメハメハ大王じゃからのう」
いやらしい笑みを浮かべてだらんと鼻の下を伸ばす。口から垂れた涎をじゅるりと飲み込んで、ムフーーッ、ムフーーッと牛のように鼻息を荒くする。
七つの大罪の『色欲』を絵に描いたようなエロ爺は、女の姿をした魔物とも交わっており、鬼姫にもそれをしようという魂胆だ。
「たわけめ。我は枯れ木のようなジジイと交わる趣味など持っておらぬ。貴様の醜い○○○○を切り落として、難民キャンプの入口で曝しものにしてくれるわ」
鬼姫が規制されたピー音を交えて男のセクハラに煽り返す。彼の大事なモノを切り落として見せものにしてやるぞと脅しを掛けた。
「妾を犯そうと企てた事……あの世で後悔するがいい!!」
明確な殺意を抱くと、正面に右手のひらをかざして呪文の詠唱を始める。
ツェデックも一瞬遅れて、彼女に続くように呪文を唱えだす。
鬼姫は手のひらに、ツェデックは女に向けた杖の先端に、魔力を集中させたように炎が集まっていく。炎は凝縮されて一つの火球となり、メラメラと激しく燃えさかる。
「我が力よ……炎の龍となりて全てを焼き尽くせ」
「我が力よ……炎の龍となりて全てを焼き尽くせ」
両者共に術の詠唱を声に出して行ったが、発せられた詠唱の言葉は全く同じものだった。
二人は同じ呪文を唱えようとしているのだ。
「火炎龍嵐ッ!!」
「火炎龍嵐ッ!!」
それぞれ異なる言語で詠唱を終えると、彼らの前に生成された火球が巨大な炎の龍へと姿を変えた。
「グオオオオオオーーーーーーッ!」
猛り狂う炎の龍が雄叫びを上げながら、正面の敵めがけて飛んでいく。目の前の敵を紅蓮の炎で焼き尽くそうとする。
二匹の龍は空中で衝突すると、蛇のようにグルグルと相手の体に巻き付く。そのままギリギリと締め付けて相手の龍を殺そうとする。
二匹の龍は縄のように絡み合ったまま敵を力ずくで絞め殺そうとしたが、突然カッと眩い光を放つと、ドォォォーーーンッ! と大きな音を立てて爆発する。
二匹の龍はどちらか一方が勝った訳ではなく、互角の力でぶつかり合い、相討ちになって命を散らせたようだ。
目の前で花火のような爆発が起こり、それによって飛び散った火の粉が、鬼姫の頭上へと雨のように降り注ぐ。
「うわぁぁぁぁああああああーーーーーーっ!」
女が大きな声で叫びながら、慌てて自分の顔を手で覆い隠す。この展開は彼女にとって予想外だったらしく、冷静ではいられない。敵がどうなったか気にかける余裕すら無い。
やがて火の粉の落下が止み、状況が落ち着いたと判断した彼女が正面に目をやると、視界の先にいるはずの男の姿が見当たらない。
その時彼女の背後から「フーーッ、フーーッ」と生暖かい鼻息のようなものが吹きかけられた。火の粉に気を取られている間に、魔道士が女の背後へと回り込んだのだ。
魔道士は何処かにやったのか杖を持っておらず、素手の状態だ。
「……ッ!!」
生命の危機を感じた鬼姫は反射的に後ろを振り返ろうとしたが、ツェデックが右手による手刀を繰り出して、女の右脇腹に強烈な水平チョップを叩き込む。ドガッと鈍い音が鳴り、女の脇腹に大きな激痛が走る。
「ぐあっ!」
女が激痛に顔を歪ませて一瞬動けなくなる。魔道士がその隙をつくように膝カックンすると、女はバランスを崩して地べたに両膝をついてしまう。
魔道士は女が動けなくなった隙を見計らい、彼女の体に手を伸ばすと、とてもここでは書けないような事をした!!!
「ああーーーーーーっ!!」
鬼姫の切ない悲鳴が荒野に響き渡る。
十八歳未満には見せられない恐ろしい行為が、卑猥な老人によって繰り広げられた……繰り広げられてしまった。
「うらぁっ!」
女は慌てて後ろを振り返ると、老人の頬に強烈なビンタを食らわせる。バチィィーーーーンッ! ととても良い音が鳴り、顔面の肉がブルルルッと激しく震えた。
「へぶるぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁああああああああっっ!!」
老人が滑稽な奇声を発しながら豪快に吹っ飛ぶ。強い衝撃で地べたに叩き付けられてゴムボールのように何度もバウンドした挙句、うつぶせに大の字に倒れたまま手足をピクピクさせた。
鬼姫は乱れた着衣を慌てて着直すが、顔は真っ赤で、目は涙目になっている。表情は怒りの色に染まっており、ハァハァと全力疾走したように呼吸が乱れている。魔道士のセクハラに激怒した様子が一目で分かる。
「……よくも」
そんな言葉が口を衝いて出た。下を向いたまま感情を抑えるように黙っていたが、両肩がわなわな震えており、怒りは爆発寸前だ。魔道士にされた仕打ちに完全にプッツンしていた。
「よくも……よくも妾にこのような不埒なマネをしてくれたなッ! 許さぬ! 絶対に許さぬぞ!! 他の連中はどうか知らぬが、貴様だけは絶対に生かして帰さぬ!! 二度と妾にこのようなマネが出来ぬよう、ボコボコに痛め付けて、じわじわとなぶり殺しにしてくれるわぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーッッ!!」
顔を上げて目をグワッと見開くと、腹の底から湧き上がる憤激を声に出してブチまけた。揺るぎない殺意に満ちた言葉が次から次へと飛び出す。もはや一分一秒たりとも老人を生かしておけない気持ちになり、何としてもはらわたを抉りだしてやるのだと息巻く。
美女と見れば誰彼かまわず合体したがる性欲魔神の老人は、もはや女の敵となった。




