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第22話 スライム襲来

 オークの群れを討伐し、滅亡の危機にひんしたヒルデブルク王国を救ったザガート……人々から英雄としてもてはやされる。国王タルケンから新たな村の情報を聞き出し、目的地を目指して旅立つのだった。


 レジーナを加えた一行は、王城の西にある樹海へと足を踏み入れる。その森の面積はかなり広く、地図に書かれた大きさと、これまで歩いた距離から計算して、ざっと十キロメートル四方はありそうだ。はるか視界の彼方まで木々がびっしり生えていて、地平を見渡す事が出来ない。

 魔族ではない野生動物がいるらしく、時折ときおり「チュンチュン」「ギャーギャー」と鳴く声が聞こえて、木の枝が音を立てて揺れる。


 地図に書かれた村は森の中央に位置しており、一行はそこを目指す。


 うっそうとしげった森を、ただ黙々と歩く三人……無駄話を一切しない。

 先頭に立つザガートが魔法探知を使っているのか、方角に迷う事なくまっすぐに進み続ける。地面に積み重なった落ち葉を踏む音がカサカサと鳴る。


「あの……ザガート様、一つ聞いても良いでしょうか」


 やがて沈黙に耐え切れず、ルシルが恐る恐る口を開く。


「何だ? 歩きながらで良ければ答えよう。遠慮せず好きに聞くがいい」


 ザガートが後ろを振り返らずに言葉だけ返す。少女に声をかけられても足を止めずにズカズカと先に進む姿からは、日が暮れるまでに目的地に着かんとする気迫が十二分に伝わる。


「それじゃお言葉に甘えて……私、あれからずっと気になってたんです。ミノタウロスを再生できたなら、バハムートも同じようにやれたんじゃないかって。どうしてそれをしなかったんだろうって」


 少女がぼくな疑問をぶつける。王城での戦いの時、ザガートは『生命創造クリエート・ライフ』によって牛頭の怪物を再生させて、部下として使役した。だがバハムートに対してはそれを行わなかった。大陸全土を焼き尽くす最強の魔王竜を味方に付ければ心強いのに、何故そうしなかったのか。少女はそれが気になった。


「フム……」


 ルシルの問いに魔王がしばし物思いにふける。あごに手を当てて眉間みけんしわを寄せて気難しい表情になりながら、あれこれ考える。

 少女が疑問を抱くのはもっともだと感じて、どう答えるべきか思い悩む。


「実はそう思って、戦いの後何度か試してみたんだ。だがバハムートだけは何度やっても肉体の修復に成功しなかった。『生命創造クリエート・ライフ』のような汎用はんよう魔術とは異なる、アザトホースのオリジナル呪文スペルが使われたのかもしれん」


 やがて考えがまとまったように口を開く。実際に竜王の蘇生をこころみた事、それに成功しなかった事実を伝える。上位魔族は大魔王本人でなければ創造できないのではないかと仮説を立てた。


「惜しい事だ……バハムートさえ味方に付ければ、ヤツの圧倒的な力で、残りの魔族を皆殺しに出来たかもしれんのだがな」


 残念そうにため息を漏らしながら、竜王を使役できない事を悔しがった。


「……バハムートなど味方にせずとも、お前一人の力だけで、魔族など余裕で滅ぼせるだろう」


 レジーナがあきれたように小声でつぶやく。オークの大群が殲滅せんめつさせられた光景を思い出し、敵を倒すのに竜の力など必要無いと毒づく。


「ハハハッ……それもそうだな。俺の力をよく分かっているじゃないか。えらいぞ」


 実力をめられた事に気を良くして、ザガートが嬉しそうに笑う。上機嫌にさせたご褒美ほうびとばかりに王女の頭をナデナデする。


「やめろっ! 私はお前の子供じゃない! そう気安く何度も頭を触るなっ!」


 レジーナが声を荒らげて男の手を払いのけた。いつまでっても大人の女として見てもらえず、子供のように扱われた事にあからさまに不機嫌になる。


「すまない……無神経な事をした。女の心を分かったつもりでいたが、俺もまだまだ未熟だったようだ」


 魔王が頭を下げて素直に謝る。軽率な行動を取ったと感じて、自分の無知を深くじる。


「……キスしてくれたら、許してやる」


 王女がほほを赤く染めながら、恥ずかしそうに言う。


「……お前がそれを望むなら」


 ザガートは了承したようにコクンとうなずくと、王女の両肩に手を乗せる。自分の方へと抱き寄せると、彼女の怒りをしずめるためにくちびるにキスしようとした。


 ルシルの口から思わず「ああっ」と声が漏れる。

 二人の唇が数ミリの距離まで近付いて、触れ合おうとした瞬間……。


「BZRRRRRRRrrrrrrr!!」


 何処からともなく声が発せられた。とても文字に書き起こせない奇妙な音は、一度聞いただけでは動物の声か、肉を激しく打ち鳴らした音か判別できない。だがいずれにせよ、それが異変の予兆である事に違いはない。


 ただならぬ気配を感じて、慌てて二人の体が離れる。

 キスが未遂に終わった事にルシルがホッと一安心する。

 魔族の襲来を察知して、三人が身構えていると……。


「BUBBAAAAAAAaaaaaa!!」

「OZO! OZOZOzozozo!!」

「GERRGEGEEEEEeeeeee!!」


 不気味な音を鳴らしながら、前方の茂みから何かが飛び出してきた。

 それも一体や二体ではない。ざっと見た限りでは二十体はいそうだ。しかも後方から続々と援軍が駆け付けている。


 そこに現れたのは子犬くらいの大きさをした、ゼリー状の丸い物体だった。半透明にけた水色をしており、内部に眼球のような形状をしたコアがある。弾力あるグミのようにボヨンボヨンと跳ねたり、ナメクジのようにズルズルと地面をいずったりする。

 言葉を発したというのに、何処に口があるかも分からない。


 その奇妙な生命体の群れは、三人を獲物と見定めたようにジリジリと迫る。どう見ても友好的な関係を築こうとしているように思えず、明らかな敵意に満ちている。

 彼らの襲撃を恐れて逃げたのか、気が付けば森から他の動物の気配が消えている。


「……スライム!!」


 魔族と思しきゼリー状の物体を目にして、ザガートがそう名を呼んだ。

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