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第21話 王女とセックス

「………」


 王女がへこんだ姿を見せられて、ザガートはいたたまれない気持ちになる。何とかして彼女を勇気付けなければならない使命感に駆られた。


「そう自分を卑下ひげするな……お前は役立たずなんかじゃない」


 なぐさめの言葉を掛けながら、王女の頭を優しくでた。


「気休めはよしてくれ……」


 ふてくされ気味にねた表情しながら、レジーナが男の手を払いのける。完全に自暴自棄におちいっており、この世から消えてしまいたい願望すら抱く。


「……気休めなどではない」


 男はそう口にするやいなや、王女の両肩をつかんで強引に自分に振り向かせて、腰に手を回して抱き寄せるとくちびるにキスした。


「んんんっ……!!」


 いきなり唇を奪われて、王女が反射的に暴れようとする。男の事は嫌いでは無かったが、突然の行為にビックリしてつい体が動く。

 だが男はとても魔術師タイプと思えないようなガッシリした腕で相手を抱き締めて束縛する。王女がいくら体をバタつかせても、ビクともしない。


「んっ……」


 やがて王女が首根っこを掴まれた猫のように大人しくなる。抵抗は無駄だと諦めて観念し、全てをあるがままに受け入れる。

 むしろ無理やりされた事を口実にして、魔王と口付けを交わせた事を内心喜んですらいた。たくましい腕でぎゅうっと抱かれる事に、支配される快楽すら覚えた。


 二人はしばらく唇を重ねたまま抱き合ったが、やがて男がキスをやめて互いの顔が離れる。魔王の瞳が、腹をかせたケモノのようにギラギラと輝く。


「お前がいいオンナだという事を……俺が証明してやる」


 ザガートは王女の顔をじっと見ながら小声でささやくと、突然彼女を地面に押し倒して、着衣のまま体をまさぐろうとする。


「やめろっ! やめてくれぇっ!!」


 レジーナが声に出しておびえながら、ジタバタと暴れる。男に犯される心の準備が出来ておらず、狼に襲われた子羊のように震える。


「分かった。ならやめよう」


 王女が嫌がる姿を見て、ザガートが唐突に乱暴しようとした手を止める。そのまま立ち上がると、何も言わずに立ち去ろうとする。


「ま、待てっ! 本当に……やめるつもりなのか!?」


 男が行為をやめた事に驚いて、王女が慌てて彼を止める。確かにやめるよう言ったが、まさか本当にやめるなどとは思わず、深く動揺する。


「やめて欲しくないのか?」


 魔王が王女に振り向いて、ニタァッと邪悪に笑う。彼女にイジワルしてみたい衝動がムクムクと湧き上がり、あえてはずかしめるような質問をぶつけた。


「そっ、それを……私の口から言わせないでくれ」


 レジーナが真っ赤にした顔をプルプルさせながら、涙目で懇願する。本音ではして欲しくても、それを自分からは言い出せないもどかしさが感じられた。王族のプライドが邪魔して、気持ちを素直に表せない葛藤が表情に浮かぶ。


「分かった……ならばその罪、俺がかぶろう。お前は何もしなくて良い……全て俺に任せろ」


 王女の心情を察して、ザガートが穏やかな口調で言い聞かせた。力ずくで犯されたていにする事で、彼女のプライドを傷付けまいと配慮する。


「……」


 魔王の提案に王女が無言のままコクンとうなずく。抵抗するのをやめて、全て受け入れる覚悟を固めたようにそっと目を閉じる。

 ザガートも、そんな彼女を包み込むように抱き締めながら地面に押し倒す。さっきのような乱暴さとは打って変わって、相手をいたわるように優しく体を触る。


 空に浮かぶ満月を見上げた狼が、ワオーーンと大きな声で鳴く夜……月明かりに照らされて地面に浮かぶ二つの影が、重なり合って一つになる。

 そして……。




 その晩、ザガートとレジーナは激しく愛し合った!!!!




 ――――数時間後。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 レジーナが目をつぶって激しく息を切らせたままグッタリと横たわる。完全に疲れ切った表情をして、精も根も尽き果てたように疲労困憊こんぱいする。

 着衣は乱れてドレスの太腿ふとももと胸元があらわになる。肌は汗でじっとり濡れていて、真っ赤に火照ほてって蒸気が立ちのぼる。

 ドレスは裂かれていないが、体中汗と泥で汚れており、行為の激しさを物語る。屋外セックスとなったが、草むらが天然のベッドとして機能し、体に傷は付いていない。


 ザガートは裸のまま王女のそばに寄りい、彼女のほほを指でツーーッとなぞる。時折ときおりからかうようにツンツンと突っつく。敏感になった王女の肌が、指で触れた刺激に反応してピクピク動く。その反応が熟睡した猫みたいで、魔王を楽しませた。

 魔王がクンクンと犬のように鼻を動かして王女のニオイをぐ。汗と混ざったオンナの体臭がむわっと鼻につく。


(良い香りだ……)


 塩分とあぶらが混ざった料理のような香ばしさを堪能して、一国の王女を自分のモノに出来た実感が湧き上がり、ザガートは喜びで胸をおどらせた。

 しばらく達成感にひたるように王女を眺めたが、それにも飽きると立ち上がってそそくさと服を着直す。


「レジーナ……お前は自分が思うほどダメな女じゃない」


 身だしなみを整えると、背を向けたまま王女に語りかける。


「お前には戦士として十分に才能がある。今はまだ未熟でも、磨けば必ずモノになる……レッサーデーモンを刺した一撃を見て、そう確信した。俺が約束しよう」


 王女に隠れた才能があると見抜いて、その根拠を伝える。何の根拠も無いお世辞せじでなく、冷静に、客観的に感じた事を教える。


「他人と自分を比較して、自分をさげすもうとするな。自分の中にある未来の可能性を信じろ。自分を信じられないなら、俺を信じろ。お前の可能性を信じる、俺の言葉を」


 自分を卑下しようとする王女に、可能性を信じろと念を押す。


「それでも信じられないなら、それでも良い。その時は俺の胸に飛び込んで、好きなだけ泣け。強くなれないなら、強くならなくて良い。弱いままのお前を、俺が全力で受け止めてやる。それでもお前に価値があるんだと、俺が胸を張って言い続けてやる」


 王女の方へと視線を向けて、優しく言葉を掛けた。

 あえて成長の無理いはせず、彼女がどんな決断をしても、ありのまま受け入れる覚悟を示す。


「美しい女には、いつでも笑顔でいて欲しい……それが俺の願いだ」


 再び王女に背を向けると、マントをバサッと閉じてカツカツと歩き出す。そのまま中庭を出て、城の廊下へと戻っていった。


「………」


 一人取り残されたレジーナは草むらに寝そべったままボーッとする。魔王に言われた言葉を頭の中で反芻はんすうして、今後について思いをせた。


「全力で受け止めてやる……か」


 ボソッと小声でつぶやく。魔王の優しさ、男としての器の大きさに胸を打たれて、心臓が激しく高鳴る。たとえキスや性交せずとも、彼にれただろうと思いを抱く。

 彼に抱かれた事実に胸がおどりだし、「フフッ」と自然に口元がゆるんだ。


 もうあの男なしでは生きられない……そんな感情が、彼女の中にあった。


  ◇    ◇    ◇


 ザガートが、祭りの喧騒けんそうから離れて静まり返った廊下を一人で歩いていると……。


「あっ! ザガート様ーーーーっ!」


 背後から一人の少女が彼の名を呼びながら、廊下を走ってくる。

 声のした方角に男が振り向くと、そこにいたのは他ならぬルシルだった。いつまでっても主人が戻って来ないので、探しに歩いたのだ。


「もう、今まで何処に行ってたんですかっ! 散々人を待たせたんだから、正直に話してもらいますよっ! むうっ!」


 ルシルが腕組みをして、ほっぺたをもちのようにむくれさせたまま問い詰める。数時間置き去りにされた事に怒りをあらわにし、何としても納得の行く理由を聞き出そうとした。


「ああ……レジーナを慰めて、一発ヤッた」


 ザガートは一切隠し事をせずに平然と話す。王女と性交した事まで素直に白状する。


「えっ……ええええええええええーーーーーーーーっっ!!」


 真実を告げられて、大地が割れんばかりの声でルシルが叫ぶ。その声は城全体に響くいかずちのような声量で、城壁にまっていたカラスの群れがギャーギャーと鳴き、祭りにきょうじていた兵士達は、何事かとにわかに慌ただしくなる。


 ルシルは下を向いたまま黙り込む。目に涙を浮かべて顔を真っ赤にし、肩をプルプル震わせたが……。


「ザガート様の……バカーーーーーーっ!!」


 腹の底から絞り出したような大声で叫んだ。


「バカバカバカっ! スケベっ! イケメン! ドエロ悪魔っ! 女たらしっ! ヤリチン! デカチン! ジャンボフランク! 夜の魔王っ!!」


 ありったけの罵詈雑言を早口でわめきながら、魔王の頭を両手でポカポカ叩く。いじめっ子に反撃しようとして腕をブンブン振り回す子供のようになる。

 自分をのけ者にして、他の女で性欲を満たした主人を許せない気持ちになる。


「ま、待てルシルっ! 落ち着け! 落ち着くんだっ! 置き去りにした事を怒ったなら謝る! この埋め合わせは必ずする! 他の女を抱いたからといって、お前をないがしろにするつもりはじんも無い! だから、どうかほこを収めて欲しい! 頼むっ!!」


 ザガートが慌てて釈明する。誠心誠意謝罪する言葉を並べ立てて、少女の怒りをしずめようとした。

 だが少女の怒りが収まる事は無く、時間にしておよそ二十分近く、男は頭を叩かれ続けたという。それはバハムートの炎で焼かれるよりも辛い仕打ちだったと、後に彼は述懐じゅっかいする。


  ◇    ◇    ◇


 ……太陽が昇り、周囲がすっかり明るくなった翌朝。


 開けた城門の前に、出発の準備を終えたザガートとルシルが立つ。

 彼らを見送るべく、国王タルケンと城中の兵士や王侯貴族、従者達がずらっと並ぶ。その中にはミノタウロスもいた。

 だがレジーナの姿だけが見当たらない。


「ミノタウロスはここに残していく。並みの魔物が攻めてきた程度なら、彼一人で十分に迎え撃てるだろう。それで無理そうな相手なら、俺がすぐに飛んで駆け付ける。この城をヤツらに落とさせはしない」


 牛頭の怪物を城に残す方針をザガートが伝える。敵の侵攻への備えを万全にする事で、城の住人を安心させようとした。

 ギレネス村の村長に指輪を送った事もそうだが、自分が去った後の村や城が魔王軍に攻め滅ぼされては何の意味も無いと男は考えた。


「はっ、ザガート様! 王国と民の安全はわたくしめにお任せをっ! このミノタウロス、偉大な主君の顔に泥を塗らぬよう、命にえても必ずや使命を果たす所存にございます!!」


 ミノタウロスが握った拳で胸をドンッと叩きながら、強い意気込みを語る。主君から与えられた命令を何としてもやり遂げるのだと激しく息巻く。

 巨漢の怪物が国を守る使命に燃え上がる姿は見るからに頼もしく、兵士達が歓声で沸き立つ。


「ここから西に向かった所にある大きな森……その森の奥深くに、ムーア村がある。そこの村長が古き言い伝えを知る。伝説の勇者が大魔王の城に渡った方法を知っているというウワサじゃ。そこに行きなされ……きっとみのりのある話が聞けましょうぞ」


 タルケンが新たな村の情報を教える。次の目的地を指し示して、わずかでも旅の助けになろうとした。


「礼を言う、国王……大臣は魔物が化けていたが、城の民はみなこころよく俺を迎えてくれた。その事に深く感謝する。この国を守れて本当に良かった……心優しき王と民が、末永く無事でいられる事を願ってまない。達者でな」


 ザガートが感謝の言葉を述べて、国王とガッチリ握手を交わす。別れを惜しむあまり、厚い友情で結ばれたように強く抱き合う。


 一通りの挨拶あいさつを終わらせて、男が門の外に向かって歩き出した時……。


「待てっ!」


 レジーナが大声で呼び止めながら、群衆の中から姿を現す。早足で駆け出して男の前に先回りすると、行く手をはばむように立ち止まる。

 決闘した時と同様に、腰に剣をして鎧を着た騎士の格好をしていた。


「ハァ……ハァ……ザガートっ! 昨晩私にあんな事までしておいて、そのままお別れだなんて、そんなの無しだぞっ!」


 激しく息を切らして前かがみになると、置き去りにされる事への不満を漏らす。よほど慌てて旅の準備を整えたのか、かなり焦った様子だ。


「お前には、私の大事なものを奪った責任を取ってもらう! 私もお前の旅に同行する! 嫌だと言っても、絶対付いていくからなっ!!」


 背筋をピンと伸ばして腰に手を当てたドヤ顔になると、旅に付いていく方針を伝えた。


「……好きにするがいい」


 ザガートはただ一言そう口にすると、止めた足を動かしてカツカツと歩き出す。

 あえて王女の要求をはねのけたりはしない。それどころか、彼女の同行を歓迎するように口元がフッと笑う。


「ああ、好きにさせてもらう!!」


 レジーナはそう言葉を返すと、男の背中を追う。その表情は懸念が払拭されたように晴れやかだった。同行を断られるかもしれない不安は吹き飛び、愛する者と旅が出来る喜びに胸をおどらせる。


(……女が一人増えた)


 恋のライバルが増えた事にルシルが内心不満を抱く。王女の事は嫌いでは無かったが、それでも主人を独占したい気持ちがあり、胸がモヤモヤする。

 だが表立って不満を口にはせず、しぶしぶ二人の後に付いていく。


 かくしてレジーナを加えて三人となった一行は、新たな目的地を目指して旅立つのだった。

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