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第208話 異界の神、ゼウス現る

 ソドムの村があった場所に建てられた難民収容のためのキャンプ……そこにある二十を超える数のテントの中で、一番大きなものの中に彼らはいた。


 キャンプ地の中央にある、集会所として使われていた巨大テントの中で、ゼウスとザガートが向き合いながらあぐらをかいて座る。他の仲間達が二人を取りかこむように配置しながら、同じようにあぐらをかいて座る。ルシルはひざを折りたたんで礼儀正しく正座する。

 村長達は難しい話には参加できないので、テントの外に出ていた。


「改めて自己紹介させて頂く……ワシが第六世界、すなわちザガートが元いた世界の統治神にして、彼をこの世界に送ってよこした者……天候をつかさどる神ゼウスじゃよ。第六世界では全知全能の神、雷帝とも呼ばれておる」


 ゼウスが右手に杖を持って座ったまま自ら名乗る。ザガート達が今いる第七世界とは異なる世界の神であり、救世主をこの世界に降臨させた張本人である事実を明かす。


「この人の良さそうなおじいちゃんにしか見えない人が、本当にヤハヴェと互角に渡り合える神様なんスか?」


 なずみが疑問を口にしながら首をかしげた。見た目は温和な老人にしか見えない人物が、ヤハヴェと同等の存在である事を強く疑う。


「このご老人は、俺をこの世界に送ってよこした、いわばこの世界にとって恩人のようなお方だ。人を見た目で判断しちゃいけない……」


 ザガートが少女のそんな態度をやんわりたしなめた。ゼウスが素晴らしい功績を成し遂げた事実を教えて、見た目で相手を判断する事の愚かさをく。


「俺がこの世界で多くの人を救ったとしても、それは彼がいたからた事……彼がいなければ、俺はこの世界に来る事すら無かった。その事に深く感謝せねばなるまい」


 今の自分がいるのは彼のおかげだと、切実な感謝の思いを口にした。


「ホッホッホッ……感謝などせずともよい。ワシはあくまでそなたに力を与えて、この地に送ってよこしたに過ぎない……それからこの地でそなたが行った事は、全てそなた自身の手柄じゃ」


 ゼウスが恩を感じる必要はないむねを伝える。自身はきっかけを作ったに過ぎず、第七世界で多くの人を助けたザガートの英雄的な行いを称賛する。


「本当に……本当によくここまでやってくれた。そなたはワシが見込んだ通りの英雄じゃった……」


 魔王が期待通りの働きをしてくれた事への感慨を口にした。むしろ礼を言わねばならないのはこちらの方だと言いたげな雰囲気が嫌というほど伝わる。


 ゼウスの中には一つの懸念があった。それは魔王が身勝手な振る舞いをするかもしれなかった事だ。魔物に倒される程度ならまだマシで、もし神に匹敵する力を得た男が、自分の欲望を満たすために悪事を行ったら始末に負えなかった。

 町や村を焼いて、世界中の女に自分の子を産ませて、民を苦しめる圧政を行う暴君に成り果てたかもしれない。そうなったら彼を送った意味が全く無くなる。


 だが魔王はそのような悪事を行わず、当初の目的通り世界を救う救世主となった。

 彼が正しき道を歩んだ事に、ゼウスは心の中で深く感謝の念にえない。


『だがこうして駆け付けられたのなら、もっと早く来るべきだったではないか。異界の神よ、今まで何をしておられたのだ?』


 ブレイズが頭の中に湧き上がった疑問を口にする。これまで姿を現さなかった神が、このタイミングで唐突に現れた事に違和感を覚えて、理由を問いただす。


「実はのう……ザガートをこっちの世界に送ってよこした後、ヤハヴェがワシがこっちの世界に来られぬよう、バリアを張ったのじゃ。おかげでワシは念話によるアドバイスを送る事も出来なかった。ワシはバリアを破るために呪文を唱え続けて、ようやくさっきバリアを破るのに成功した……というワケじゃ」


 ゼウスが不死騎王の問いに答える。唯一神による強力な妨害工作があった事、それによりザガートを手助け出来ずにいた事、ついに神の結界を破るのに成功したため、こうして駆け付けられた事……それらの事実を明かす。


「じゃがバリアを破るのに力を使い過ぎたため、今のワシは本来の半分程度の強さしか出せん……今のワシがヤハヴェと戦ったとしても、ザガートが戦うより良い結果を出せないじゃろう……」


 言いにくそうに肩を落とすと、唯一神を止める力が今の自分には残っていない事実を伝えた。見るからにショボくれた顔をして、残念そうにため息を漏らす。おのれの無力さにもどかしさを感じたように下くちびるを噛む。

 唯一神を倒す事を期待されるだろうと予測しており、その期待に応えられない事への苦悩をにじませた。


「それでもこうしてせ参じたのは、今のワシでもそなた達の力になれるかもしれないと思ったからじゃ。ザガートよ、して欲しい事があれば何でも言ってくれ。ワシに出来る事なら協力は惜しまぬつもりじゃ」


 顔を上げて真剣な顔付きになると、魔王達を全力でサポートする意思を伝える。魔王を送り込んだだけで満足した訳ではなく、この世界の人類を救済するためならあらゆる手を尽くすと思いを強くする。


「ではゼウスよ……アンタに聞きたい事がある」


 ザガートが早速さっそくとばかりに口を開く。前々から気になっていた情報があったようで、それを確かめる良い機会だと気付く。


「ヤハヴェという神について詳しく聞きたい。アザトホースからある程度の事は聞いたが、まだ俺達が知らない、神だけが知っている情報があるはずだ。それを知りたい」


 唯一神に関するより詳細な情報提供を求める。大魔王から聞いた話が彼の全てではなく、ゼウスから新たな話が聞けるかもしれないと考えた。


 ゼウスは頭の中で情報を整理するように数秒間黙った後、意を決したように口を開く。


「フム……ならば教えよう。人類を創造した聖書の神ヤハヴェ……かつて多神教の一柱であった彼が、他の神とたもとを分かった、その経緯いきさつを!!」

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