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第207話 魔王が死ななかった理由

「それは……」


 ザガートが王女の質問に答えようとした時、右手の中指にめていた金色の指輪が急にまぶしく光りだす。目で見られないほど強い輝きを放った瞬間、ガシャァーーーンッ! と音を立ててガラスのようにもろく砕けた。細かい金属片になった後パラパラと地面に落下して、ただのチリになる。


「これは一体……何が起こったんだ?」


 ザガートが嵌めていた指輪が何の脈絡もなく砕けた事に王女が困惑する。突然の出来事にぜんとなるあまり、さっきした質問の内容を忘れかけた。


「……今のが王女の質問に対する答えだ」


 魔王が唐突にそう言い出す。指輪が砕けた事が男の復活に関係しているというのだ。


「今砕けたのは『命の指輪』……装備者が致命傷を受けると、時間差で蘇生術リザレクションを発動させて、指輪が砕けるのと引き換えに一度だけ装備者を生き返らせる……これが俺が一度死んだ後に生き返ったカラクリだったという訳だ」


 指輪の効能について詳細に話す。あえてその場ではなく、十分後に生き返った事によって、勇者に死んだと思わせるのに成功したたくらみだと教える。


「ならその指輪を大量に持ち歩けば、いくら殺されても死なないという事になるではないか」


 鬼姫が思い付いたアイデアを述べる。指輪を消耗して生き返れるなら、指輪を数十個持ち歩けば、数十回殺されても平気ではないかと、そう安直に考えた。


「いや……命の指輪はあれ一つしか無い。予備の指輪は存在しない。もし俺があれを新たに作り直そうとすれば、最低三ヶ月は掛かる……つまりこれから先の戦いで負ければ、俺は今度こそ本当に死ぬという事だ」


 魔王が重苦しい表情を浮かべて女の疑問に答える。絶大な効果を持つ指輪だけに大量にあるものではなく、手元にあったのは使い切ってしまったと話す。コピー品を作り出せたとしても、それは今すぐ出来た事ではなく、今回の神との戦いでは実用不可だという。


(とは言え、彼女がそう考えるのは至極もっともだ……もし神との戦いの『次』があるなら、それまでに指輪を作れるだけ作っておきたい所だ)


 一方では鬼姫の提案に同意を示し、今回は無理だったとしても、次の戦いでは複数回死んでも平気なように備えておきたい構想を胸の内に秘めておく。


「そんなぁーーーー」


 魔王の言葉を聞かされて、鬼姫となずみが声を揃えて落胆する。男が不死身になると期待しただけに、そうならなかった事に心底ガッカリする。世の中うまい話は無いと悲嘆して肩を落とす。


「だがクリムトという僧侶が死んで、頭数が一人減ったんだろう? ならもう一度連中とやり合えば、次は勝てるんじゃないか」


 レジーナが落ち込む二人とは対照的に前向きな言葉を吐く。一連の戦いを映像しに見ていため僧侶が自爆した事を知っており、彼らが戦力ダウンしたのではないかと考える。

 五対一では勝てなかったとしても、四対一なら勝てるんじゃないか……そういう計算が頭の中にあった。


 ザガートは王女の言葉を聞いた後、目を閉じて下を向いて、眉間みけんしわを寄せて気難しい表情になると、右手の人差し指をひたいに当てたまま数秒間固まる。そのまま一言も喋らずに黙り込む。詳細は不明だが、意識を集中させて『何か』をしているようだ。


 やがて意識を集中するのをやめると、目を開けて言葉を発する。


「いや……無理だな」


 王女の言葉を即答で否定する。何の根拠もなく言い放った訳ではなく、彼なりに考えた結果その結論に行き着いたらしく、少し残念そうな顔をして首を左右に振る。


「さっき得たデータをもとに、一瞬の間に脳内で千回シミュレートを行ってみた。結果、四対一では百回やって俺は一度も勝てなかった。どうにか二人までは仕留められたとしても、最後は必ず勇者にとどめを刺されて死ぬ……その結末はくつがえらない」


 目を閉じている間に超速で仮想戦闘を行った事、それにより多対一では絶対勇者に勝てないと確信した事……それらの事実を明かす。

 魔王がわざわざ命を失うリスクをおかしてまで威力偵察を行ったのは、連中の能力を確かめる事によって、今後の作戦を立てるのに生かしたかったようだ。


「勇者と一対一の勝負になった段階で、ようやく勝率が五割程度まで上がる……つまり連中相手に多対一の戦いを挑む考えは、最初から捨てなければならないという事になる」


 一対一で戦った場合のみ勝てる可能性があると、未来に希望がある話を付け加えた。


(一瞬の間に脳内で千回って……どんな能力だ!!)


 魔王がサラッととんでもない能力を言ってのけた事にレジーナがドン引きした。声に出して言いかけたツッコミを慌ててゴクンと飲み込む。彼がおかしな能力を持っているのは今に始まった事じゃないと諦め顔になり、胸の内にしまっておく。


(とは言ったものの、勇者とサシで勝負するためには他の連中を引き付けておく必要がある……そのためには仲間の力を借りなければならないが、問題はその強さだ。彼らを個々に引き離したとしても、ブレイズ以外ではまともに相手にならないだろう)


 王女の困惑など気にもめず、魔王が今後について思い悩む。勇者を倒すための現実的な対策を考えようとしたものの、こちら側の戦力が向こうに比べておとっている事実が魔王を大いに悩ませた。

 勇者パーティを分断させるだけでなく、孤立した彼らを各個撃破できる事が好ましい。だが現状それが出来そうなのはブレイズただ一人だ。他の仲間は一人になった彼らに挑んだとしても太刀打ちできない。かといって女達を今すぐ強化する方法も魔王には考え付かない。


 さて、どうしたものか……と作戦に行き詰まりを感じ始めた時。




 魔王達から離れた場所にある空間が突然バチバチッとスパークする。何度も青白い光を放った後、空間に亀裂が入り、ガラスが割れたような裂け目が生じる。

 裂け目は次第に大きくなって人が通れるくらいのデカさになると、そこから人影らしきものがピョーーンとジャンプしてきた。人影が地面に降り立つと、裂け目は時間を巻き戻したように閉じていって、何も無い空間へと戻る。


 空間の裂け目から出てきたもの……それは禿げ頭の老人だった。サンタクロースのような白いひげを生やしており、白いローブを羽織はおり、魔法使いのような木の杖を右手に持っている。温和な笑顔を浮かべてニコニコと笑う。

 どちらかと言えば仮面を被った騎士であるヤハヴェより、こちらの方が人々がイメージする神の姿に近い……そんな見た目をしていた。


「おのれ、ヤハヴェの手下か!!」


 怪しげな風貌の老人が現れた事に警戒し、レジーナが敵意をあらわにする。完全に老人を敵とみなしており、腰にしてあったさやから剣を抜いて構える。


「待て、彼は敵じゃない!!」


 ザガートが右手をサッと横に振って、警戒する王女を慌てて止める。謎の老人が敵でない事をその場にいた者に伝える。

 他の者は初対面だが、ザガートだけはその男に見覚えがあった。


「お前、いやアンタは……異界の神ゼウス!!」

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