第201話 激突! 勇者パーティとの死闘!!
家を焼かれた村人のために難民キャンプを設置したザガート……今後について考えていると、勇者パーティから果たし状が送られる。
手紙を読み終えると、自分の命を犠牲にした威力偵察が必要だという結論に達する。仲間に別れを告げて、一人で死地へと向かう。敵に悟られないようにするため、真意を明かさずに……。
手紙に書かれた場所に向かうと、五人の男が待っていた。その真ん中にいたリーダー格の男アランが挨拶する。
ザガートは男が神に騙されたのではないかと懸念を抱くが、男はそうではない事を伝える。この世界で起こった出来事を知っており、自分の世界を救う戦いをするという。男の覚悟を知らされて、魔王は心置きなく戦える事を喜ぶ。
「お前達を全身全霊を賭して戦うべきライバルとみなし、全力でぶつかっていく!!」
一人の戦士として決闘に臨む意思を高らかに告げる。
最強の勇者と、最強の魔王……互いに譲れないものを賭けた死闘がここに勃発する。
ザムザが右手をサッと横に振り払う仕草をすると、彼の手に乗っていた鷹が、バサバサと翼を動かして大空へと飛び立つ。連中から十メートルほど真上にある空を、クルクルと円を描くように飛びながら戦場全体を見渡す。
鷹がクワーーッ、クワーーッと鳴く声を合図として戦闘が開始される。
アラン、バルザック、ザムザは鞘から剣を抜いて、両手で握って構える。バルザックは彼の頭身に合わせたサイズのバスタードソードを、ザムザは普通の長さの日本刀を、それぞれ握っている。
アランが手にした剣は他の二人に比べてかなり異質だ。サイズや形は通常のロングソードに近かったが、全身が透き通るような水色に染まっており、光を反射してキラキラと輝く。氷の水晶で造られた剣という印象を、見る者に与える。
「聖剣エクスカリバーよ……我に加護を与えたまえ」
アランが刀身を見つめながら祈るように呟く。この伝説の勇者が手にした剣こそ、噂に名高い聖剣のようだ。
ザガートは一旦後ろに下がって彼らと距離を開く。二十メートルほど離れた場所まで来て足を止める。
(連中がどれほどの強さか……まずは小手調べと行こうか)
勇者パーティの能力を確かめる為に先制攻撃を仕掛けようと思い立つ。
「跪け……暗黒重力ッ!!」
正面に右手をかざして魔法の言葉を叫ぶ。ドォォーーーーンッ! と巨大な象が落下したような音が鳴り、勇者パーティが立っていた地面が数センチ下に沈む。重力結界が発生した音がゴゴゴと鳴り、空を飛ぶトンボも、宙を舞う砂埃も、あらゆるものが地上に落下する。
勇者パーティは重力魔法の餌食になった。
そう確信した魔王であったが……。
「……何ッ!?」
視界に飛び込んだ光景に驚きの言葉を発する。信じられないものを見たと言いたげに声を上擦らせた。
魔王の瞳に映ったもの……それは超重力の中にありながら、平然と立つ五人の姿だった。彼らは痩せ我慢している様子がなく、何事も無かったように涼しい顔をする。勇者以外の四人は「ヘヘヘッ」「フフフッ」と不敵な笑みを浮かべており、勇者も自分の優位を確信したようにニヤリと笑う。
空を飛ぶ鷹も、重力の影響を全く受けない。悠々と空を飛び続けたまま「クワッカッカッカッ」と笑うような鳴き方をしており、驚く魔王を見て嘲笑っているようだ。
彼らが千倍の重力に自力で耐えたようには到底見えない。大魔王ですら成し得なかった事を、生身の人間が行えるはずがない。仮にそれをやったとしたら、涼しい顔などしていられない。
どちらかというと、千倍の重力の中にありながら、彼ら自身は等倍の重力を受けているように見えた。原理は不明だが、彼らには重力魔法が効かないのだ。
ザガートは重力魔法が無駄だと知り、正面にかざしていた右手を後ろに下げる。それにより勇者の足元に発生した重力結界が消失する。
「ならばこれはどうだ……全身の血を抜かれて息絶えるがいいッ! 全体死ッ!!」
今度は右手の人差し指を勇者に向けて即死魔法を唱える。魔王の指先から紫に輝く光線が放たれて勇者に命中する。すると彼の頭上に、ボロボロのローブを羽織って巨大な鎌を手にした上半身だけの骸骨がスゥーーッと浮かび上がる。
骸骨は真下にいる勇者を眺めながらカタカタと歯を動かして不気味に笑う。極上の獲物を前にして喜んだようにジュルリと舌なめずりする。
「カッ!!」
喝を入れるように一声発すると、手にした大鎌を勇者めがけて振り下ろす。
ブゥンッと風を切る音を鳴らしながら振られた刃は、勇者の体をスッと通り抜けてしまう。立体映像を斬ったようで、まるで手応えが感じられない。むろん勇者は全くダメージを受けていない。
「グオオオオオオッ……!!」
逆に斬りかかった側であるはずの死神が声を上げて苦しみだす。両手に握っていた鎌から手を離すと、呼吸が出来なくなったように喉を両手で押さえたままジタバタ暴れる。まるで勇者に与えたダメージが自身へと跳ね返ったようだ。
「オオオッ……」
口惜しそうに呻き声を漏らすと、スゥーーッと薄れて消えていく。地面に落とした鎌も一緒に消失する。それが死神の最期となった。
(重力魔法も即死魔法も通用しないとは……直接ダメージを与える以外の手段では致命傷にならないという事になる。恐らく状態異常や能力低下の魔法も効かないだろう。さすがは異世界を救った勇者パーティ……この程度の脅威など、とうに対策済みという訳か)
即死攻撃を苦もなく無効化してみせた勇者の実力に魔王が驚嘆する。自身に匹敵するかもしれない耐性の高さに、油断ならない相手だという警戒心が湧く。
実力が高いのは当たり前だ。彼らは元いた世界の魔王を討ち滅ぼした英雄なのだ。それは裏を返せば、ザガートやアザトホースに匹敵する強さの相手に勝った事実の証明となる。
ある程度覚悟はしていたが、彼らの実力を目の当たりにしてザガートは「やれやれ、厄介な敵と戦う事になった」と頭が痛くなった。
「魔王よ、今度はこちらから行かせてもらうぞッ!」
魔道士ツェデックが攻撃する意思を伝えながら数歩前へと進む。ピタリと足を止めると、杖の先端を正面に向けて呪文の詠唱を始める。
「青き光よ、雷撃となりて我が敵を薙ぎ払え! 雷撃龍嵐ッ!!」
攻撃呪文を唱えると、杖から青く光る一筋の雷が魔王に向けて放たれた。
「汝より放たれし力、呪詛となりて汝へと還らん……魔法反射ッ!!」
ザガートはすかさず両手で印を結んで防御魔法を唱える。彼を中心として青く透けたガラスのようなバリアがドーム状に張り巡らされた。
雷撃魔法はバリアにぶつかると、飛んできた方向へと跳ね返された。そのまま術の唱え主であるツェデックめがけて飛んでいく。
魔道士は自らが放った雷撃に焼かれて黒焦げになる……そう確信を抱くザガートだったが。
「……!?」
次の瞬間目にした光景に、驚くあまり瞼をパチクリさせた。
ツェデックが正面に左手をかざすと、彼の手にブラックホールがあったかのように雷が吸い込まれていく。そのまま跡形もなく消滅する。
雷が完全に消失すると、ツェデックの体が一瞬だけ青く光る。失った分の魔力が回復したように体の動きが良くなり、ニコニコ笑顔で鼻歌を唄いながらスキップする。
単に魔法を防いだというだけでなく、自身の体内に魔力を吸収させたようだ。
「ザガートよ……ワシに攻撃魔法は一切効かん。それがアザトホースを屠った極大魔法であろうと……な」
老魔道士が恐ろしい言葉を口にしてニヤリと笑う。




