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第18話 レッサーデーモン死す

「オノレ、ザガート……ヨクモ……ヨクモヤッテクレタナ。ユルサン……殺ス……貴様ダケハ絶対コノ場デ、確実ニ殺スッ!!」


 デーモンが殺意に満ちた言葉を吐きながら、地面に手を付いて上半身を起こす。体中に付着した泥と砂をパンパンッと払いのけると、二本の足でしっかりと立ち上がった。

 そのまま視線の先にいる魔王めがけて、ヨロヨロと歩き出す。深手は負っていなかったものの、二度も殴り飛ばされた事により体力を消耗したようだ。


 ゆっくり歩いてくる敵を眺めながら、ザガートがあごに手を当ててしばし考え込む。どうやって相手を始末すべきか思い悩む。


ためしにあれを使ってみるか……)


 そんな言葉が彼の頭をよぎる。

 答えが決まると、自分の真横にある空間を手刀で切り裂いて、次元の裂け目を生じさせた。そこから重い砂のようなものがギッシリと詰まった袋を取り出して、空に向かって放り投げる。


「一度は滅びた肉体よ、新たな魂を得て、我に仕えよ……生命創造クリエート・ライフッ!!」


 両手を組んでいんを結ぶと、呪文めいた言葉を唱える。

 すると投げ出した袋から、黒い灰のようなものがブワッと空に舞い散る。

 灰は自ら意思を持つように空を飛んで一箇所に集まった後、地面に降り積もって巨大な人の形を取る。一瞬カッとまばゆい光に包まれた後、それは生きた魔物へと変わっていた。


「ああっ! あれは……」


 光の中から現れた魔物の姿を目にして、ルシルが驚きの言葉を発する。

 それもそのはず、そこに立っていたのは二足歩行する屈強な牛頭の怪物……かつて彼女の村を襲った、他ならぬミノタウロスだったからだ。


「ミノタウロス……かつて大魔王の手下であったお前は、今我が魔力によってよみがえった。これからは新たなあるじたる我に仕えよ。まずはそこにいるレッサーデーモンを片付けるのだ」


 ザガートが正面に右手をサッと掲げながら、牛頭の怪物に命令を下す。


「ははっ、全ては偉大なる我らが魔王ザガート様の命じるままに……」


 ミノタウロスが魔王の前にひざまずいて、こうべれて忠誠を誓う。敵対した以前とは異なり、完全に男の配下となった様子がうかがえる。


「うおおおおおおっ!」


 すぐに立ち上がって反転すると、デーモンに向かって一直線に駆け出す。そのまま相撲のようにガッと組み合って、互いに力の押し合いになる。


「ミノタウロス、貴様正気カ!? 大魔王サマヲ裏切リ、事モアロウニ、ソノ男ニ寝返ルトイウノカッ! オノレ、魔族ノ誇リヲ捨テタハジサラシメ!!」


 デーモンが牛頭の男と組み合ったまま、相手の裏切りを厳しくきゅうだんする。同じ魔王軍であったにも関わらず、主君にそむいて敵側に付いた事を許せない気持ちになる。


「残念だったな……レッサーデーモンよ」


 悪魔の問いかけに、ミノタウロスがさも当然と言いたげにニヤリと笑う。


「俺は貴様らの同胞であった、かつてのミノタウロス本人ではないッ! 一度は死んだ肉体に、ザガート様が創造なされた、新たな魂を吹き込まれて生まれた存在……その名もネオミノタウロスッ!!」


 肉体は同一でも魂は別個体である事を伝えて、敵に寝返った指摘に反論してみせた。その言葉に一切迷いが無い事を見せ付けるように腕に力がもり、グイグイ相手を押す。悪魔が力で押し負けたようにジリジリと後方に押されていく。


 戦いを見ていた兵士達が「オオッ」と歓声を上げた。本来恐れるべき魔族がザガートの配下となり、人類の味方となった喜びに胸が沸き立つ。

 ルシルもまた、ミノタウロスが仲間になった事に深く安堵と感激を覚えた。


「ミノタウロスっ! ミノタウロスっ!」


 牛頭の名を呼ぶコールが盛大に巻き起こり、城内が彼への声援一色に染まる。

 デーモンは場の空気に圧倒されてしまい、にわかに焦りだす。


(グウウッ! 力比ベデハガ悪イ! ソレニ魔王ザガート……マサカ俺ヨリ格上ノ魔族ヲ、コウモヤスク再生サセルトハ! コノ男ハマギレモナク、大魔王様ト同等ノ存在ッ! 到底トウテイ俺ノ手ニ負エル相手デハ無カッタ!!)


 事ここに至って、ようやく自身の不利を悟る。精神的に追い詰められて弱気になる。

 これまで散々あなどっていたザガートという男の強大さを思い知らされた。

 異世界の魔王だという彼の実力は本物だと理解し、格上の相手に勝負を挑んでしまった自分の浅はかさを深く後悔した。


「クッ……ココハ一旦退カセテモラウ! サラバ!!」


 牛頭との組み合いをやめて大きく距離を開けると、翼を大きく羽ばたかせて、空を飛んで逃げようとした。


「逃がさんっ! はらわたをブチけて死ぬがいい! 死光線デス・ビームッ!!」


 ザガートが呪文を唱えながら、空を飛ぶデーモンに人差し指を向ける。

 すると指先から紫に輝く一筋の閃光が放たれて、敵の心臓を背後から撃ち抜く。


「グアアアアアアッ!」


 悪魔が悲鳴を上げながら落下して、ドスゥゥーーーンッと音を立てて地面に叩き付けられた。大の字に倒れたまま起き上がれず、手足をピクピクさせる。

 如何いかに傷を自力再生できても、心臓を撃ち抜かれては無事ではいられず、傷口から真っ赤な血がとめどなくあふれ出す。


「俺ヲ殺シテモ、モウ遅イ……今コノ城ニ、オークノ軍勢ガ向カッテイル。ソノ数、オヨソ十万ジュウマン。貴様ラガ何ヲシヨウト、死ノ運命カラハ逃ラレンノダ。ハハハハハッ……ガハァッ!!」


 負け惜しみのようにつぶやくと、口から大量の血を吐いてガクッと倒れて息絶えた。

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