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第177話 ドラゴン vs 黒騎士

「フハハハハッ! マズハ一人、ヤッツケタゾ!!」


 敵を仕留めた喜びで、ドラゴンがあごが外れんばかりに大笑いする。魔王の仲間の一人、それも名の知れた強豪を始末できた達成感は大きく、嬉しさのあまり鼻歌交じりでうたいだす。魔物らしくなくテンションが高まったウキウキ顔になる。

 すっかり有頂天になって浮かれていた龍だったが……。


「……ン?」


 ある異変に気付く。不死騎王が死んだ場所に目をやると、洞窟内に散らばった氷が自ら意思を持ったように動きだし、磁力で引き寄せられたように一箇所に集まる。隙間をふさぐようにビッタリくっつき合うと破損箇所がみるみる修復されていき、砕かれる前の状態へと戻る。さらに氷があっという間に溶け出すと、五体満足な黒騎士がそこに立っていた。


『残念であったな……不死は貴殿の専売特許にあらず』


 ブレイズがそう言葉を発してニヤリと笑う。自らが絶対なる不死の存在であると明かし、龍だけが不死身ではない事実を突き付けた。敵にとってはお株を奪われた形となる。


「……グヌヌゥゥ」


 ドラゴンが思わず声に出して悔しがる。ギリギリと割れんばかりの勢いで歯ぎしりして、目をグワッと見開いた阿修羅の顔になる。完全に戦勝ムードに水を差された形となり、はらわたが煮えくり返る思いがした。


「……オノレ、不死騎王ッ! 貴様ガ何度デモ生キ返ルトイウナラ、何度ダッテ殺シテクレルワァァァァァアアアアアアアッッ!!」


 胸の内に湧き上がる怒りを声に出してブチまけた。何としても相手を生かしておけない気持ちになり、揺るぎない殺意を剥き出しにする。

 龍はまたも大きく口を開けて息を吸い込むと、口の中の空気が急激に冷え込んでキラキラ輝く。


「死ネェェェェエエエエエエーーーーーーッ!!」


 死を宣告する言葉を発すると、全てを凍て付かせる冷気のガスを吐く。


『同じ技を二度も喰らいはせぬ!!』


 ブレイズはそう叫ぶと、自身に向けて放たれたブレスをサッと横に動いて難なくかわす。そのままぐるりとかいするように走っていって、敵の背後に回り込む。

 龍は巨体で小回りが利かないためすぐには後ろを向けず、敵に背後をさらけ出した形となる。不死騎王は渾身の一撃を当てるなら今しかないと考えた。


『冥王剣……地獄車ッ!!』


 技名らしき言葉を叫ぶと、ブレイズは両手でつかを握って刃を垂直に構えたまま高くジャンプする。空中で一旦停止すると車のタイヤのようにギュィィーーーンッと高速で縦回転しだす。存在そのものが巨大な手裏剣と化した黒騎士が斜めに急降下して龍に襲いかかる。

 龍の真横を通り抜けた瞬間ズバズバと何かを切り裂いた音が鳴る。回転が止むとスタッと両足で大地に着地する。


「グァァァァアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」


 次の瞬間ドラゴンが悲鳴を上げてもだえる。刀傷と思しき一本の白い線がピッと体を通った後、体のあちこちに白い線が次々に入りだす。やがて体中があみの目のような線だらけになると、そこを切断面として龍の体がバラバラに崩れ落ちる。


 こまれの肉片、いや氷片となったドラゴンが数秒間沈黙する。場がシーーンと静まり返り、魔物が動く気配は無い。これで決着が付いたのではないか……そう期待させる空気が、戦いを見ていた少女達の中にあったが……。


『……ッ!!』


 次の瞬間起こった出来事にブレイズがぜんとなる。地面に散らばっていた氷の破片が一箇所へと集まり、みるみるうちにドラゴンの姿へと戻ったのだ。想定していた事ではあったが、それでもショックを隠し切れない。


「フフフッ……ナカナカ面白オモシロイ技ダッタゾ、不死騎王。ラッタノガ俺デナケレバ、間違イナク死ンデイタダロウナ。サスガ現地人デハ最強ト呼バレタダケアル……」


 ドラゴンがククッと声に出して笑う。黒騎士の実力の高さに素直に感心し、自身を殺した技の威力をたたえる余裕すら見せた。


(この技でもダメだったか……ならば!!)


 不死騎王が即座に気持ちを切り替える。渾身の技が効かなかった事に一度は慌てたものの、すぐに次の手を打とうと思い立つ。手に持っていた刀を一旦さやへと収める。


『地獄の鎖よ、我が敵を捕縛せよ……鮮血鉄鎖ブラッド・チェインッ!!』


 両手でいんを結んで魔法の言葉を唱えると、龍の真下にある大地に巨大な円形の魔法陣が浮かび上がる。そこから血のような赤色をした、六本の鉄製の鎖が飛び出してきた。

 鎖は龍の体にグルグルと蛇のように巻き付く。そのままガッチリ固定して動きを封じようとする。


「フンッ!」


 だが龍が全身に力を込めると、鎖はバリィィーーーンッと音を鳴らしながら豪快に引き千切られてしまう。ズタズタになった鎖の破片は洞窟内に散らばると、スゥーーッと薄れて消えていく。術の効果が切れたように魔法陣も消失し、後には何もない地面だけが残る。


『ヌゥ……それがしの鮮血鉄鎖ブラッド・チェインはクラーケンを完全に捕縛した技ッ! それがこうもあっさり破られようとは……』


 自身の技を破ってみせた龍のパワーにブレイズが驚嘆する。過去に戦った敵を引き合いに出して、それとの格の違いを見せた相手の強さに驚きを隠せない。


「タワケッ! 俺ノチカラハ、竜王バハムートニ匹敵スル……クラーケンゴトキナドト、一緒ニサレテハコマル!!」


 ドラゴンが黒騎士の言葉に声を荒らげて反論する。自身の強さにかなりのプライドがあったらしく、格下とみなした同僚と比較された事への怒りをにじませた。

 同じ魔王軍の幹部同士であっても、彼らの間には階級ヒエラルキーがあったようだ。ドラゴンがかなり上位にいた事は間違いない。


「俺ガ強イ魔物ダトイウ事ヲ、トクトソノ身デ味ワエ!!」


 龍は憤激に満ちた言葉を吐くと、尻尾によるビンタを繰り出す。ブゥンッと音を鳴らしながら振られた尻尾の先端が触れると、騎士の体がバチィィーーーンッという音とともに豪快に吹っ飛ぶ。


『ヌォォォォオオオオオオーーーーーーッッ!!』


 ブレイズの体があっけなく宙を舞う。ハエ叩きで叩かれたハエのように猛スピードで飛んでいって壁に激突すると、全身を数メートルめり込ませた。体を強打した痛みがあったためか、壁に埋まったまま動かない。


「不死騎王ッ! お主、大丈夫か!?」


 仲間が負傷した姿を見て、鬼姫が慌てて駆け寄る。黒騎士が埋まった壁の前まで来て、必死に声を掛けた。普段あまり親しげな間柄ではないが、この時ばかりは心配せずにいられない。龍のブレスで凍らされそうになった時かばわれたから、尚更なおさらだ。


『心配はらぬ……不死身であるそれがしにとって、この程度はかすり傷にもならぬ』


 ブレイズが人型にいた壁穴からゆっくり出てくる。足元がふらついていたが、目立ったダメージは無い。仲間に余計な心配掛けたくない心情もあっただろうが、単なる強がりでは無さそうだ。


(とは言え、いつまでも悠長に時間を稼げる相手ではない……我が主よ、一刻も早く弱点を突き止められよ!!)


 それでも自分達の置かれた状況がかんばしくないと悟る。このまま戦い続ければ劣勢に追い込まれる事は避けられないと考え、魔王の作業が無事に終わるよう願う。

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