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第176話 スノードラゴンとの戦い

「おい、どういう事じゃ魔王ッ! 此奴こやつもクラーケンという魔物と同様、本体であるコアを破壊せねば死なぬスライムのような魔物なのか!?」


 敵の再生能力の凄さに鬼姫が血相を変える。勝ちが全く見えない状況にても立ってもいられず、パニックにおちいったように慌てながら真相を問いただす。


「スライムなら、絶対圧縮爆裂アブソリュート・ディスラプトを受けたら確実に死ぬ……万が一本体を切り離していたら、俺が見逃すはずは無い」


 女の問いを魔王が即答で否定する。少なくともスライムと同種の魔物ではないという。


(恐らく本体を叩かねば死なぬ魔物というのは本当なのだろうが……クソッ! 洞窟内に渦巻く瘴気が探知魔法を邪魔していて、敵の正体がつかめない!!)


 仲間の言葉を半分正解だとしながらも、それだけでは龍の弱点を知る事は出来ないと悟る。

 ここに来る途中で魔王が懸念した通り、洞窟内には邪悪な力が働いていて、敵の本体が何処に潜んでいるか分からなくしていた。それが魔王に事態の行き詰まりのような焦燥感をもたらす。まんまと敵の戦闘領域バトル・フィールドに誘い込まれた……そんな思いすら湧く。


「ルシル、レジーナ、なずみ! 俺は今から敵の本体を突き止めるために意識を集中させる……その間無防備になった俺を、お前達三人で周囲を固めて守れ!!」


 魔王は今後の方針が決まると仲間にテキパキ指示を出す。龍の本体を探る行為に専念すると伝えて、その間の自分の護衛を三人の少女に託す。


「分かりました!」

「任せてくれ!」

「師匠には指一本触れさせないッス!!」


 少女達が魔王の指令をこころよく引き受ける。


「ブレイズ、鬼姫! お前達は数分の間、龍の注意を引き付けろ!!」


 魔王は次に二人の猛者もさに、魔物が自分達の方へと向かわないためのおとりになるよう頼む。


『御意に!』

「安心して任せるがよい! なんならわらわがあやつを倒してしまっても構わぬぞ!!」


 黒騎士と女が主人の依頼を快諾する。かなり危険な役目だが、実力者である二人だからこそ信頼して仕事を任せられる……男はそう考えた。


 指示を終えるとザガートは地べたにあぐらをかいて座り、両手を組んでぜんの構えを取る。目をつむって大きく息を吸い込んで深呼吸すると、敵の本体を探るために意識を集中させる。

 三人の女達は魔王を取りかこむように配置して、彼に流れ弾が飛んでこないように身構える。黒騎士と鬼女は敵に戦いを挑まんと走っていく。


「スノードラゴンとやら、光栄に思うがよい! この鬼族の王たるわれが相手してやる!!」


 龍の前に立ちはだかると鬼姫が威勢の良い言葉を吐く。右手に持った刀のさきを相手に向けながら、上から目線の物言いをする。


「鬼姫……貴様ノ事ハ、魔族ノ間デハウワサニナッテイルゾ」


 ドラゴンが女を前にしてニタァッと笑う。相手を見下した悪魔のような笑みを浮かべると、グワッと開いた右手を高々と振り上げた。


「常ニワレラニ苦戦スル……有名ナマセイヌダトナァッ!!」


 目いっぱい女を侮辱する台詞セリフを吐くと、彼女めがけて右手を振り下ろす。鋭いツメで相手の肉を引き裂こうとした。


 ドラゴンの爪が触れた瞬間、女の姿が霧となって散っていく。ガスか何かの気体を攻撃したようで、肉をえぐった感触が全く無い。


「ナニッ!?」


 女が消えた事に龍が困惑する。敵に一杯食わされた考えが頭をよぎり、慌てて周囲を見回すと、鬼姫の数が三体に増えていた。むろん本物が増殖した訳は無く、彼女が生み出したまやかしである事は明白だ。


「噛ませ犬かどうか……その身で確かめるがよい!!」


 鬼姫は反論の言葉を口にすると、龍めがけて走り出す。三人の女が同時に喋り、同じタイミングで敵に向かっていく。龍にはどれが本物か判別が付かない。


「クソガッ! 見分ミワケガカナイナラ、三人一遍イッペンハラエバ良イダケノ事!!」


 ドラゴンが腹立たしげに吐き捨てる。何としても相手の思い通りになってたまるかと対抗意識をき出しにすると、右手をブゥンッと横薙ぎに振って、三人を一度に吹き飛ばそうとした。

 破れかぶれの一撃が命中すると、三人の体が霧となって消滅する。肉を攻撃した感触が全く無い。


(三体全テ、マヤカシダト!? ナラバ本物ハ一体何処ニ!!)


 敵の姿を見失った事に龍が慌てる。想定外の事態にうろたえたあまり周囲をキョロキョロ見回した時、背後から何かが飛んでくる姿が地面の影に映る。

 ドラゴンが咄嗟とっさに後ろを振り返ると、本物の鬼姫が彼のいる方へとジャンプしていた。


「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」


 女は気迫の篭った雄叫びを発すると、龍の首めがけて急降下しながら両手で握った一振りの刀を縦に振る。ドラゴンの首を一刀のもとに斬り捨てると、ザザァーーーッと滑るように両足で大地に着地する。

 胴体から切り離された龍の頭がゴロンッと地面に転がり落ちる。


「やった!!」


 渾身の一撃を当てられた事に女が気を良くした。作戦を成功させられた満足感で思わずガッツポーズを決める。


 だが勝利の喜びにひたったのもつかの間、龍の頭がフワリと宙に浮かんで胴体のある方へと飛んでいく。切断面がビッタリくっつき合うと傷口が急速にふさがって、攻撃を受ける前の状態へと戻る。


「馬鹿メ……体ヲ粉々ニ粉砕サレテモ死ナナイ龍ガ、首ヲ落トサレタ程度デ死ヌト、本気デ思ッタノカ!?」


 復活を遂げたドラゴンが早口でののしる。女の判断のあやまりを指摘して、心底相手を見下した視線を向ける。


オノレノ浅ハカサヲ、ソノ身ニ焼キ付ケテ死ネ!!」


 死を宣告する言葉を発すると、大きく口を開けて息を吸い込む。龍の口の中に吸い込まれた空気が急激に冷え込んで、洞窟内を照らす魔法の光を反射してキラキラと輝く。


『危ない!!』


 仲間の身に危険が迫ったと感じたブレイズが、横から走ってきて鬼姫を突き飛ばす。女の体が数メートル離れた地面に倒れて、女がさっき立っていた場所に不死騎王が立った瞬間、龍の口から白いガスのようなものが放たれた。


『……ッ!!』


 ガスをまともに受けた騎士の体がビキビキと凍りだす。全身をまたたく間に分厚い氷に覆われて、ガラスの彫刻に閉じ込められたように動けなくなる。

 龍の口から放たれたのは液体窒素に匹敵する冷気のブレスだった。


「フンッ!」


 龍はかつを入れるように鼻息を吹かすと、尻尾によるビンタを繰り出す。周囲のものを薙ぎ払うように横一閃いっせんに振られた尻尾が直撃すると、不死騎王が閉じ込められた氷ごと木っ端微塵に砕かれる。ゴシャァッと岩が割れたような音が鳴り、氷の破片がバラバラと洞窟内に散らばる。


「きっ……騎士のあにさぁぁぁぁああああああーーーーーーーーんッ!!」


 なずみが悲痛な声で叫ぶ。仲間が倒された光景を目にして深い悲しみにまれる。彼ほどの猛者もさでもダメだったか……そう思わずにいられない。

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