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第175話 氷の龍……その名はスノードラゴンっ!

 最後の宝玉を求めて雪山に足を踏み入れた一行……洞窟の中で巨大なドラゴンと遭遇する。全身が氷で出来た龍は自らスノードラゴンと名乗り、魔王軍の最後の幹部であると告げた。この山を凍らせた恐ろしい龍こそ、一行が探し求めた相手に他ならない。


「コノ山ハ、精霊ノチカラチテイタ……ソレヲ奪イ取リ、タルベキ決戦ニ備エテ、力ヲタクワエテイタノヨ……」


 龍が山にいた目的について語る。この場所が特殊な魔力に満ちており、それを吸い上げて自分のものにしていたというのだ。かつて緑あふれる大地だった山が急に雪に覆われだしたのは、龍が力を吸い上げたからだろう事が容易に想像付く。


「今ガソノ決戦トイウ訳ダ……死ネ、ザガート!!」


 そう叫ぶや否や、龍が魔王めがけて猛然と突っ込んでいく。大きく口を開けたまま体当たりし、鋭い牙で相手を噛み砕こうとする。


「フンッ!」


 魔王は小馬鹿にするように鼻息を吹かすと、正面に右手をかざしてバリアを張る。手のひらを中心として半透明にけたガラスのような結界がドーム状に張り巡らされて、男を完全に覆う。

 バリアにぶつかるとドォォーーーンッ! と激しい衝突音が鳴り、龍の体が強い力で後ろに弾かれた。


「グアアアアアアアアッ!」


 思わぬ反撃に遭いドラゴンが悲鳴を上げた。洞窟の壁に激突して全身を強く打ち付けられると、一瞬脳震盪のうしんとうを起こしたようにフラついた後、首を左右にブンブン振って正気を取り戻す。慌てて体制を立て直すと憎々しげに魔王をじっとにらむ。


「敵が氷で出来た龍なら……やる事は一つ!」


 ザガートが大声で叫びながら手のひらを敵に向ける。


「ゲヘナの火に焼かれて消し炭となれ……火炎光弾ファイヤー・ボルトッ!!」


 攻撃魔法を唱えると大量の炎が手のひらへと集まっていく。炎は圧縮されて一つの火球になると、正面にいる敵めがけて一直線に撃ち出された。轟々(ごうごう)と激しく燃えさかる火球は龍に触れると火がいたダイナマイトのように爆発し、魔物の体が一瞬にして巨大な炎に包まれる。


「ギャァァァァアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」


 灼熱の業火で焼かれる痛みにドラゴンが悲鳴を上げた。どうにかして炎を鎮火させようとジタバタ暴れたものの、炎は消える事なく龍の体を焼き続ける。氷で出来た体がドロドロに溶け出し、完全な液体になるとまたたく間に蒸発する。火球を受けてから一分とたないうちに龍は水蒸気となって消え去った。


「やった! ドラゴンを倒したぞッ!!」


 跡形もなく消滅した敵の姿を見てレジーナが大はしゃぎする。魔王が間違いなく勝利を得たと確信し、嬉しさのあまり鼻歌をうたいながらスキップする。他の仲間達も魔王が勝った事に大喜びしてバンザイする。場が歓喜ムード一色に染まる。


(やけに呆気あっけないな……これが本当に魔王軍最後の将の実力なのか?)


 ただ一人浮かない顔をしたザガートが、敵の弱さに拍子抜けした瞬間……。




 一度は大気に散った水蒸気が、ドラゴンが死んだ場所へと集まる。洞窟内の気温が急激に下がると空気中の水分がビキビキと凍りだし、水蒸気が何かの形の氷へと変わっていく。


 一箇所に集まった水蒸気が完全に凍り付いた時……そこに一匹のドラゴンがいた。


「なん……だと!?」


 目の前で起こった出来事にザガートが驚愕する。

 それはにわかには信じられない光景だった。倒したはずのドラゴンがたった数秒で復活を遂げたのだ。自分で蘇生術リザレクションを唱えた訳ではなく、スライムの超再生能力とも感覚が違う。

 間違いなく息の根を止められたはずの魔物が、時間を巻き戻したように生き返った姿は、筆舌ひつぜつに尽くしがたいものがあった。


「俺ハ不死身ダ……ドンナ攻撃ダロウト、俺ヲ殺ス事ナド出来デキハシナイ」


 ドラゴンが自分の不死身ぶりを得意げに語る。魔王に精神的ショックを与えられた事に気を良くしたのか、とても機嫌が良さそうなニコニコ顔になる。


「ならば……試してみるか」


 ザガートがそう口にしてニヤリと笑う。敵が復活した事に一度は慌てたものの、すぐにいつもの冷静さを取り戻す。


ぜよッ! なんじの身に宿りし力、外へ向かう風とならん!」


 正面に右手をかざして呪文の詠唱を行う。男の手のひらに魔力と思しき青白い光が集まっていき、凝縮されて一つの光球になる。


「……絶対圧縮爆裂アブソリュート・ディスラプトッ!!」


 魔法の言葉を叫ぶと、手のひらにあった光球が龍めがけて一直線に撃ち出された。ダチョウの卵くらいの光の玉がグングン加速していって音速を超えた速さになる。

 攻撃魔法が眼前に迫っても龍は避ける素振りを全く見せない。最初から受け切る気でいたような棒立ちになる。


 光弾が命中すると、龍の体が空気を注入した風船のようにふくらんでいく。これ以上膨らんだら破裂する事が目で見て分かるくらいパンッパンになる。


「カッ……」


 何か言いかけた瞬間、龍の体がバァンッ! と音を立てて破裂した。粉々に砕けた氷の破片が四方八方へと飛び散り、洞窟の大地に散乱する。氷はピクリとも動かず、完全に息絶えたようにシーーンと黙り込む。


(こいつに生という概念があるなら……この魔法を受ければ確実に死ぬ!!)


 ザガートが術の効果に絶対の自信を抱く。相手が生きた生物なら、これで仕留めたはず……そう確信した瞬間。


 大地に散らばった氷が、自ら意思を持ったようにモゾモゾと動きだす。百を超える破片が一箇所に集まり、隙間を塞ぐように互いにくっつき合うと、破損箇所がみるみる修復されていって元のドラゴンへと戻る。


「……ッ!!」


 敵が二度目の復活を遂げた光景を見て、魔王が思わず絶句した。想定をはるかに上回る相手の生命力に裏をかかれた形となり、冷静ではいられない。胸が激しくざわついて、まいがして気が遠くなりかけた。


「クククッ……」


 深く動揺する男の姿を見てドラゴンがニタァッと笑う。戦闘状況において優位に立てた満足感で胸がおどりだす。


「言ッタハズダ……俺ハ不死身ダト」


 改めて自分が完全なる不死であると告げるのだった。

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