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第168話 砂漠の支配者……その名はアビスウォームっ!

 サンドウォームが全滅して戦いが終わった空気が漂い始めた時……。


「……ん?」


 何らかの違和感を覚えたザガートが、ふと地平の彼方に目をやる。

 次の瞬間、魔王が見た方角からドドドッと激しい地鳴りが聞こえた。

 音は最初小さかったが、だんだん大きくなる。それにともない、音の発生源が一行のいる場所へと近付いて来ているのが分かる。


 音は地中から聞こえた。何かが物凄い勢いで土中を掘り進んでいたのだ。


(来る……サンドウォームよりも体の大きい何かが!!)


 ザガートは新たな敵の出現を予感してサッと身構える。他の仲間達も武器を手に取り魔物の襲来に備える。戦いが終わったムードは一瞬で吹き飛び、皆の心に緊張が走る。心臓がドクンドクンと高鳴る。


 土中を掘り進む音はザガート達から十メートルほど離れた場所まで来て止まり、場がシーーンと静まり返る。十秒間の静寂の後、音が止まった場所の地面をブチ抜いて巨大な何かが顔を出す。


 地中から姿を現したのはサンドウォームとよく似た巨大ミミズだ。ただ彼らより体が一回ひとまわり大きく、全身の皮膚が毒々しい暗めの紫に染まる。水気のない砂漠だというのに口からダラダラとよだれらす。「フフフッ」と笑い声のようなものが漏れており、相手を挑発するように舌をヒラヒラ動かす。


 見るからに他の個体より強そうなサンドウォームは、武器屋の店主が言っていた魔物のボスだと容易に悟らせた。


「……お前がサンドウォームの親玉か」


 ザガートが相手の素性を確かめようと問いかける。


如何イカニモ……ワシハ、アビスウォームッ! 魔王軍十二将ノ一人ニシテ、コノ砂漠ノ支配ヲ任サレシ者!!」


 紫のミミズが魔王の問いに答える。マイクから発せられたようなくもった音声で、しゃがれた老人の声で喋る。流暢に言葉を話す辺りからは知能の高さがうかがえた。


「クラーケンガ倒サレタト聞イテ、必ズココヲ通ルダロウト思ッテ待チセテイタノヨッ! フォフォフォ……十体ノ子分ニ勝テタ事ハメテヤロウ。ダガオ前達ノ実力デハ、ワシニ勝テン! 貴様ラハココデ死ヌ運命サダメニアル!!」


 男の進行ルートを予測して待機していた事を明かす。部下を全滅させた相手の実力を認めながらも、自分には遠く及ばないのだと声高に告げる。


「千ノ刃ニ切リ刻マレテ、チリカエルガイイ……災厄ノ渦巻(メイル・シュトローム)ッ!!」


 挨拶あいさつ代わりとばかりに攻撃呪文を唱える。数秒が経過した後、空がまたたく間に暗雲に包まれて、雷が落ちようとするようにゴロゴロと鳴る。肌を刺すような冷たい風が吹き抜けて、周囲の気温が急激に下がる。

 それからしばらくつと、アビスウォームの背後にある地平から黒い巨大な竜巻が姿を現す。黒い竜巻はビュオオオオッと音を立てて豪快に砂ぼこりを巻き上げながら、ザガート達のいる方へと真っ直ぐ向かっている。


 サンドウォームの死骸が竜巻にみ込まれて空高く舞い上がる。次の瞬間ズバズバと何かを切り裂いた音が鳴り、彼であったと思われるこまれにされた肉片がパラパラと地上に落下する。術者であるアビスウォーム自身は影響を受けないようだ。


『あれはただの竜巻ではない……百を超える数の真空の刃が内部を渦巻いていて、呑み込んだ者をズタズタに切り裂く、まさに死の竜巻ッ!!』


 魔物の肉が千切りにされた光景を見て、ブレイズが起こった出来事を詳細に語る。紫のミミズが呼び寄せた竜巻が恐ろしい攻撃呪文であった事を伝える。


 竜巻はなおも一行めがけて進む。このまま呑み込まれたら少女の血肉がバラバラになる事は明白だ。


「風の精霊よ……我が力となりて、皆を守りたまえ! 領域結界フィールド・バリアッ!!」


 ザガートが両手でいんを結んで魔法の言葉を唱える。青い光がドーム状に放たれて、バリアとなって皆を覆う。バリアはスゥーーッと薄れていき、目に見えない結界となる。


 その数秒後、巨大な竜巻が一行を呑み込む。竜巻は黒くにごっていて中が見えないため、彼らがどうなったかは分からない。龍のような竜巻が全てをぎ払おうとするようにゴゴゴと音を立てて、ゆっくりと地面を通り過ぎるだけだ。紫のミミズはその光景をただ見守る。




 ……数分が経過して竜巻が完全に通り過ぎると、激しい風の音が止む。

 竜巻を発生させた術の効果が切れたのか、空を覆っていた暗雲が晴れていき、太陽の光がし込む。冷えていた気温が急激に上がり、元の暖かさを取り戻す。再び砂漠に本来の静寂が訪れる。


 竜巻が通り抜けた場所には、ザガート達が変わらぬ姿のまま立っていた。魔王は術を唱えたポーズのまま固まっており、黒騎士はこうなる事が分かっていたように平然と立つ。女達はある者は敵の術の恐ろしさに恐怖し、ある者は自分達が無事だった事に安堵する。いずれにせよ負傷した者はいない。


「ホウ……風属性ノ最上位階魔法ヲ、無傷デ耐エシノグトハナ」


 一行が無事だった姿を見てアビスウォームが思わず声に出してうなる。渾身の技を防がれた事に焦りを抱く様子はなく、敵ながらあっぱれと言いたげに深く感心する。


災厄の渦巻(メイル・シュトローム)……恐ろしい技だ。俺だから防ぎ切れたものの、並みの術者だったらバリアを張ったとしてもあっさりがされるのがオチだ。世界を救う勇者でなければ倒せない……それほどのバケモノだ)


 余裕ありげな虫とは対照的に、ザガートが敵の魔法の威力に戦慄を覚えた。自身に効かなかったからといって油断はしない。もしバリアの強度が足りなければ少女達がバラバラにされていたかもしれないと考え、心臓がヒヤッとなる。


 敵の強さに驚愕したあまり茫然ぼうぜんと立ち尽くしていた魔王であったが、それでも自分がやられる事は無いのだと冷静に思い直す。気持ちを切り替えると、改めて宣戦布告するように敵の方へと向き直る。


「アビスウォーム、貴様が強い魔物だという事はよく分かった。ならばこちらも全力で行かせてもらう!!」


 マントをバサっと開いて風にたなびかせると、相手を倒す意思を強い口調で伝えるのだった。

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