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第159話 魔の島に巣食うモノ……その名はサハギンっ!

 クラーケンを追って船旅を続けたザガート達は彼の住処すみかと思しき孤島へと辿たどり着く。一行は魔物を探すために船を下りて、ボルツ達は彼らの帰りを待つべく船に残る。


 クラーケンの巣穴らしき洞窟を見つけた一行は迷わず中へ入る。ダンカンの遺品を探す手がかりになるかもしれないと思い、奥へ奥へと進んでいく。そうしてしばらく歩き続けた時、魔物の群れに遭遇する。

 彼らの前に現れた半魚人の化け物……それはサハギンと呼ばれる有名な亜人種だった。上半身を水面から出して、下半身を水にかせたまま、川をスゥーーッと滑るように移動する。


「ギヨヨォォォーーーーーーッ!」


 最初に現れた一体が奇声を発しながらザガートに襲いかかる。金属製のもりを相手に向かって突き出し、くし刺しにしようともくろむ。


「フンッ!」


 ザガートは少しもひるまず銛の先端を素手でつかむ。そのまま銛を握っていたサハギンごと片手で持ち上げて、洞窟の岩壁に向かって放り投げた。ドガァッ! と大きな音が鳴り、洞窟全体が激しく揺れる。


「ギャアアアアアアアアッ!」


 壁に叩き付けられたサハギンが悲鳴を上げてのたうち回る。全身を強打した痛みのあまりジタバタともがき苦しんだが、やがてガクッと力尽きて息絶えた。


「ウォォォォオオオオオオーーーーーーーーッ!!」


 最初の一体がやられてもサハギン達は動揺しない。それどころか仲間をやられた事に激高したように目を血走らせて、眉間みけんしわが寄った阿修羅のような顔になる。ひたいに血管がビキビキと浮き出て、息遣いが荒くなり、何としても敵を殺すのだという憎悪に満ちている。

 やがて彼らのうち一体が洞窟中に響かんばかりの咆哮ほうこうを上げると、全員が一斉に六人めがけて襲いかかる。


『ヌォォォォオオオオオオッッ!!』


 ブレイズと鬼姫が勇ましい雄叫びを上げながら両手で握った刀を振り回す。陸に上がろうとしたサハギンをズバズバと斬る。


火炎光矢ファイヤー・アローッ! 火炎光矢ッ! 火炎光矢ッ!」


 ルシルとザガートが火球を放って離れた場所にいる敵を攻撃する。魔王が放ったものは一撃で敵を火だるまにし、少女が放ったものは相手の顔面に命中して目潰しになる。

 レジーナは自分に迫ってきたもりをキンキンと剣で弾いて、なずみは彼女の後ろに隠れながらくないを投げる。


 サハギンの群れは統率された行動を取らず、自分の近くにいる相手に手当たり次第に襲いかかる。六人も自分に襲いかかってきた敵をひたすら返り討ちにする。敵も味方も全員がバラバラに行動するだけの無秩序な戦闘が繰り広げられた。


 戦いが始まって数分がつと、サハギンの半数が討たれた状態になる。だが討たれたのと同数のサハギンが川底から上がってきて、最初と同じ数になる。敵の総数はかなりの規模らしく、倒してもすぐに増援が湧く。いくら倒してもキリが無い。


「みんな、かつに川に足を踏み入れるな! 水の上ではヤツらの方が圧倒的に有利だ!!」


 ザガートが相手の土俵に乗らないようくぎを刺す。膠着こうちゃく状態にしびれを切らした仲間が無茶な戦いをしないように忠告する。


「じゃがこのままでは槍でブスブスと刺されてしまうぞ! 魔王、お主なんとかせえ!!」


 鬼姫が半ギレ気味になりながら魔王の言葉に反論する。どれだけ敵を倒しても戦況が好転しない事にイライラをつのらせており、男に状況の打開案を求めた。


「……仕方あるまい」


 魔王がやれやれと言いたげにフゥーーッとため息を吐く。目を閉じて下を向くと、残念そうに首を左右に振る。出来ればこの手は使いたくなかった……そんな心情が顔に出る。

 一転して気持ちを切り替えたように顔を上げると、目をグワッと見開いて気迫に満ちた表情になる。


「地獄の魂よ……我が力となりて、全ての敵を呪い殺せ! 致死亡霊デッドリー・レイスッ!!」


 正面に右手をかざして魔法の言葉を唱えた。すると彼の手のひらから紫の炎に包まれた人型の骸骨スケルトンが飛び出す。怨霊と思しきそれは空を泳ぐように飛んでいき、サハギンの一体に襲いかかる。


「ギャァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」


 骸骨に触れられた瞬間、サハギンの口からこの世の終わりと思えるほどの絶叫が放たれた。全身が強酸を浴びたようにドロドロに溶けていき、肉も内蔵も残らず骨だけになる。

 骸骨は最初の一体を仕留めると次々に他の魔物に襲いかかる。骸骨に触れられた順に体が溶けて白骨死体になる。


「ギャアアアアアアアアッッ!!」

「ウギャァァァァアアアアアアーーーーーーーーッ!」

「ウボアアアアアアアーーーーーーーーッ!」


 洞窟内に断末魔の悲鳴が響き渡る。声はいくにも重なり絶望のハーモニーをかなでる。魔物達は必死の抵抗をこころみたものの、もりは亡霊を突き抜けてしまう。立ち向かおうとした者が先に死んだだけだ。魔界の神に祈るようにおきょうらしきものを唱えた者もいたが無意味だった。紫の骸骨は情け容赦なく彼らを死へといざなう。


「ギヨヨッ!」


 勝ち目のなさを悟った残りのサハギンが水中に潜る。そのまま川底深くへと沈んでいく。さしもの骸骨も水の中までは追って来れないだろうと、そう考えた。


 だが彼らの期待を裏切るように骸骨が水の中に入る。暗い川底へと潜っていって姿が見えなくなって数秒が経過すると、ブクブクと大量の泡が水面に浮上する。水中で殺されたサハギンの悲鳴が空気となって漏れ出たのか。


 それからさらに数秒が経過すると、彼らと思しき白骨死体がプカァ……と水面に浮き上がる。殺された順番に上がっていったらしき死体は百体ほどで打ち止めとなり、その後はピタリと止む。敵を執拗しつように追い続ける骸骨が仕留め損なったとは到底考えられないので、全滅しただろうと判断できる。


「恐ろしい相手ではあったが……こうなると流石さすがに哀れだな」


 川を埋め尽くす白骨死体の山を眺めながらレジーナが小声でつぶやく。全身が溶ける苦痛を味わい無惨に殺された彼らに敵ながらあわれみの念を抱く。


「ヤツらは今まで散々多くの人間を手にかけた……これでおあいこというものだ」


 ザガートがゴミを見るような目で白骨死体を眺めながら冷たく言い放つ。人間を襲う魔族に同情など不要と言わんばかりの態度を取る。種族単位で絶滅させられたとしても一ミリもかわいそうなどと思わない。

 道端の小石をどけるように眼前の敵を排除すると、再び洞窟の奥を目指して歩くのだった。

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