第153話 魔王の○○○○
メタモルファを倒して九つめの宝玉を手にした魔王一行は、次なる目的地を目指して旅を続ける。魔瘴の森を抜けると開けた平原が広がっており、そこを進んでいく事となる。
何もない平地を西に向かって歩き続けると、ポツンと一軒家が建っているのが見えた。
それは一家が暮らすには少し大きめな、三階建ての木造家屋だ。どちらかというと屋敷かマンションと呼ぶに相応しい。今も使われ続けているらしく、朽ちた様子は無い。
入口らしき扉の横に『宿屋』と書かれた看板がぶら下がっている。
「こんな人気のない場所に宿屋があるとはッ! これも敵の罠か!?」
魔族の策略ではないかと疑いレジーナが右往左往する。いつ敵に襲われても不思議じゃない場所に一軒家が建っているのを不自然ではないかと勘ぐる。
「いや……むしろ逆だ。魔族の侵入を許さない不可視の結界が、建物を取り囲むように張り巡らされている。幸いにも俺達の中に大魔王が生み出した魔法生物はいないから、問題なく結界に入れるだろう」
ザガートが王女の言葉を否定する。魔族の侵入を阻む仕掛けが施されている事を伝えて、自分達はその影響を受けない事実を述べる。
「それなら今日はここに泊まっていきましょう」
ルシルが提案の言葉を発して、皆がそれに同意する。
扉を開けて中へ入ると、店のカウンターにいた一人の男性が駆け寄ってくる。この宿の主人と思われた。
「おお、貴方がたは……例の魔王様御一行でございますね? お噂はかねがね伺っております。最果ての宿へ、ようこそいらっしゃいました」
五十代半ばに見える小太りの男性が頭を下げて挨拶する。ニコニコと温和な笑顔を浮かべており、人柄が良さそうな雰囲気を醸し出す。頭に角が生えた男の姿を見て、有名な救世主であろうと一目で見抜く。
「主人、いきなりで何だが一つ質問したい。こんな何もない場所に宿屋が建っているのは何故なんだ?」
ザガートが胸の内に湧き上がった疑問をぶつける。王女ほどではないが彼もまた辺境の地に一軒家が建っている事を不思議がっており、直に聞いて確かめようとした。
魔王が疑問を抱くのも最もだと言いたげに主人が頷きながら口を開く。
「この辺り一帯には町が存在せず、旅人が休める場所がありません。東のアマンダの村から西の港町へ向かおうとすると、長旅を強いられます。その事を不便に感じた異世界から来た勇者が、四方に柱を埋めて魔族が入れない結界を張り、宿屋を作ったのです。以来、ここは旅人の中継地点として利用されています。人気のない場所に建ってますが、利用者は多いんですよ」
宿屋が建てられた経緯について話す。異世界の勇者が建てたものであった事、辺鄙な場所にありながら利用客が多い事を教える。
「フム……事情は分かった。早速だが一晩泊まっていきたい。部屋を用意してくれ」
主人の説明を聞いてザガートが納得し、宿に泊まりたい意思を伝える。
「では二階に部屋を三つ用意しましょう。案内します」
主人が魔王の頼みを承諾して、ギシギシと階段を上がる。四人の女が彼の後に続いてぞろぞろと歩き出す。
列の最後尾にいた不死騎王が階段を上がろうとした時、魔王が呼び止める。
「ブレイズ……お前には一つやってもらいたい事がある」
そう言うと、ごにょごにょと小さな声で耳打ちする。他人には聞かれたくない話のようだ。
『……承知した』
ブレイズは魔王の頼みを聞き入れると、宿の入口に向かって足早に駆け出す。
『主人……それがしは大事な用があって出かける。明日の朝には戻る。それがしは不死ゆえ、食事は不要……五人分だけ用意なされよ』
急用が出来た事を告げると、ドアを開けて建物の外に出る。そのまま忍者のように駆けて行って、何処かへと姿を消した。
◇ ◇ ◇
すっかり日が落ちた真夜中……時計の針が十二時を指した頃。
ルシルと相部屋で寝ていたレジーナが目を覚ます。隣のベッドを見ると、ルシルは目を閉じてスゥスゥと気持ちよさそうに寝息を立てている。
次に壁に耳を当てて、なずみと鬼姫が寝ている部屋の様子を窺う。物音は聞こえない。
「よし……みんな寝ているようだな」
王女がそう口にしてニヤリと笑う。良からぬ企みをした悪魔のような笑みになる。ネグリジェという寝姿のまま裸足にスリッパを履いて部屋の外に出る。
(みんなには悪いが、抜けがけさせてもらう……今日は私がザガートとお楽しみする番だ!! 何しろここ最近ずっとご無沙汰だったからな……ムフフッ)
何としても魔王と性交に及ぶのだと息巻く。皆が寝静まっている隙を見計らって、男を誘惑しようという算段だ。
シーーンと静まり返った宿の中を、物音を立てないよう慎重に歩く。魔王が寝ている部屋の前まで来て足を止める。
「ザガートッ! 今夜は私と一緒に寝てもらうぞ!!」
大声で叫びながら部屋の扉を開けた瞬間……。
「ああっ!!」
視界に映り込んだ光景に思わず声を上擦らせた。
彼女が目にしたもの……それは服を着たままベッドに寝るザガートの上に全裸の鬼姫が四つん這いになって覆い被さり、チュウしようとしている場面だった。鬼姫は乗り気だったが、魔王は微妙にめんどくさそうな顔をしている。
「貴様ッ! 私を差し置いて魔王を押し倒そうとするとは、なんて破廉恥な女だッ! 恥を知れ!!」
王女が慌ててベッドに駆け寄り、女を力ずくで引き剥がす。自分より先に男に手を出そうとした行為を強い口調で罵る。
「何じゃお主、いきなりしゃしゃり出おって! 我は今日魔王とまぐわうと約束しておったのじゃぞ!!」
鬼姫がチュウを邪魔された事に憤慨する。事前に約束を取り付けていたと語り、自身が魔王とエッチする行為の正当性を主張する。
「何ッ! ザガート、そうなのか!?」
女の発言に王女が思わずたじろぐ。もし約束していたのが事実なら自分に割って入る権利は無い考えが頭にあり、魔王に聞いて確かめようとした。
「いや、約束などしていない。鬼姫の言っている事は嘘だ」
ザガートが女の言葉をあっさり否定する。彼女がその場凌ぎの嘘をついた事を、忖度せず正直に話してしまう。
魔王に嘘をバラされたため、鬼姫が一瞬気まずそうな顔をして舌打ちした後、すっとぼけた表情して天井を眺めながらピューピュー口笛を吹く。
「貴様ッ! 抜けがけするだけでは飽き足らず、事もあろうに嘘をつくとは、なんて女だ! 絶対に許さん!!」
事実を知らされた王女が烈火の如く怒りだす。危うくだまされる所だったと気付いて、一瞬でも女の言葉を信じた自分が間違っていたと後悔する。
「ええい、やかましい! 愛する男とヤるために嘘をついて、何がいけないのじゃ! 欲しいものを手に入れるために手段を選ばぬのは女の特権じゃ!!」
鬼姫が図星を突かれて逆ギレする。嘘がバレた事を完全に開き直っており、自分は悪くないと言いたげに早口で喚き散らす。王女に譲る気は一ミリも無い。
「なんだと! この性悪女め!!」
「だまらぬか! ポンコツ白人王女!!」
終いには二人の女が悪口を言い合ってケンカを始める。
「さっきから一体何ですか……あっ!」
「ルシル姉さんっ! 鬼の姐さんとレジーナ姐さんが、どっちが師匠とヤるかで揉めてるッス!!」
宿中に響かんばかりの声を聞いて目が覚めたらしく、ルシルとなずみが部屋に駆け付ける。ネグリジェ姿の王女と裸の女が言い争う光景を見て、即座に状況を理解する。
「ザガート様はみんなのモノですッ! 抜けがけは許しません!!」
「師匠の独り占めはさせないッス!」
後から来た二人も加わって、四人でケンカを始めてしまう。互いに相手の悪口を言って、ギャーギャーとヒステリックに喚き散らす。獲物を取られそうになった野獣の本性を剥き出しにする。口喧嘩はどんどんエスカレートしていき、一向に収まる気配が無い。
「ええいお前達、ケンカをやめないかッ! 俺の意向を無視して、お前達だけで言い争うのはよせ!!」
このままでは収拾が付かないと考えて、魔王が慌ててベッドから起き上がる。自分の言い分を聞くよう訴えて、不毛な争いを止めようとした。
彼の言う事も最もだと考えて、四人が矛を収める。魔王なら平和的に解決できるだろうと考えて、彼の言葉に従う事にする。
「誰が俺とヤるかが、ケンカの原因になったのだろう? なら答えは簡単だ……俺がこの場にいる全員とヤればいい!!」
魔王が自分の意見を率直に伝える。獲物の取り合いにならなければケンカしなくて済むと、そう結論付けた。
「お前達四人とも、服を脱いでベッドに横になれッ! 俺がじっくりたっぷり、ねぶるように愛して、お前達を嫌というほど気持ちよくさせてやる!!」
女達に服を脱ぐよう命じると、自らも服を脱ぎ捨てて裸になる。飢えた野獣のように目をギラつかせると、目にも止まらぬ速さで肉に襲いかかる。
一匹の狼と四匹の牝鹿による、狂乱の宴が始まった。そして……。
その晩、ザガートは四人の女と激しく愛し合った!!!!
――――数時間後。
チュンチュンと小鳥が鳴く朝……太陽が昇り始め、カーテンの隙間から光が射し込んだ頃。
四人の女が裸のままベッドに寝転がる。皆目をつぶったまま「ハァハァ」と激しく息をしており、疲労困憊した様子が窺える。全身汗まみれになってグッタリしており、髪は乱れている。しばらく起き上がる気力も無さそうだ。
ゴミ箱には使用済みのティッシュが山のように積まれており、たっぷり楽しんだ事が分かる。彼女達もさぞや満足しただろう。
当のザガートは裸のまま、腰に手を当てて誇らしげに立つ。くたくたになった女達を眺めて、彼女達を満足させられた達成感に胸を躍らせた。
(さすがに四人の女を相手にするのは疲れた……俺の○○○○も、ただの○○○になってしまった)
自分の股間に目をやり、性的に疲れた事を規制されたピー音によって表現する。
魔王が行為の余韻に浸っていると、ブレイズが彼の背後に忍者のようにシュタッと着地して、片膝をつく。
『……ゆうべはお楽しみになられたようで』
何処かで聞いた台詞を吐いて主人をからかう。兜から表情は読み取れないが、声は微かに笑っている。寡黙な武人のイメージがあったが、素の性格はザガートに似ているのかもしれない。
「からかいはよせ……それより例の件はどうだった」
ザガートが後ろを振り返らないままククッと笑う。部下のジョークを満更でもなさそうに聞き流して、日が暮れる前に与えた使命の成果を問う。
『はっ……ここら一帯にいる魔族を片っ端から締め上げて尋問したものの、皆答えは変わらず……この大陸に宝玉を持つ魔王軍の幹部は残っていない様子』
不死騎王が魔王の問いに答える。宿の周囲にいる魔物から情報を集めた事、その内容を伝える。
「そうか……」
ザガートがやはり、と言いたげに腑に落ちた表情になる。フゥーーッと残念そうにため息をつくと、ベッドの下から紙の地図を取り出して、テーブルの上に広げる。
「三つの宝玉のうち一つは海上に……残りの二つは海を挟んだ西の大陸にある」
宝玉のありかが記された×印を指差して、自分達が今いる大陸には目的の宝玉が残っていない事を口にする。不死騎王に情報を集めさせたのは、万が一にもこの大陸に渡った幹部がいるかもしれないと希望を抱いたからだが、当てが外れた形となる。
『……船が必要になりますな』
ブレイズがボソッと小声で呟く。
「宿の主人が、ここから西に向かえば港町があると言っていた。そこを目指そう」
ザガートが相槌を打つようにコクンと頷く。店主が港町の存在に触れた下りを思い出し、そこを次なる目的地と定める。
かくして会談を終えた男二人は晴れやかな朝を迎えるのだった。




