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第150話 相手の姿に化ける者……その名はメタモルファっ!

「みんな、無事かっ!」


 ザガートが仲間の安否を確かめようと声を掛ける。


「オイラは平気ッス!」

『おお我が主、無事であらせられたか!』


 なずみとブレイズが魔王の呼びかけに真っ先に答える。自分が無事である事を伝えようと、元気に手を振る。

 彼らも自分の姿をした幻影に襲われ、金属の針を飛ばされたはずだが、的確に対処したのか傷を負った様子は無い。その点はさすがと言うべきか。


「私は大丈夫ですが、鬼姫と王女様が……」


 ルシルが不安そうに顔をくもらせた。

 みなの視線が向けられると、鬼姫とレジーナは体のあちこちに針が刺さっていて、傷口から血が出ていた。肉が厚かったせいか致命傷にはなっていないが、それでもかなり痛そうだ。


「うう……やられてしまった」

「こんな手に引っかかるとは……我ながら情けないのう」


 口々に敵の能力を見破れなかった自分の不甲斐ふがいなさを嘆く。他の四人が的確に対処したのに、自分達だけが食らってしまった事を情けなく感じる。


「どうか自分を責めないで下さい……今傷を治します」


 ルシルがなぐさめの言葉を掛けながら二人に駆け寄る。


「精霊よ、傷をいやせ……治癒魔法ヒール・ウーンズッ!!」


 回復の呪文を唱えると、二人の全身が青い光に包まれる。体中に刺さった針が肉に押し出されたようにひとりでに抜け落ちて、流れていた血が止まる。傷口がみるみるうちにふさがっていき、いつものれいな肌に戻る。皮膚から押し出された数本の針は無造作に地面に転がる。

 二人は傷を治してくれた行為に感謝し、ルシルは謙遜けんそんするように頭を下げる。


「敵の姿が見えぬが……もう倒してしまったのかの?」


 鬼姫が森の中を見回しながら問いかける。


「いや……まだだ」


 魔王がそう口にしながら、ある一点に視線を向ける。明らかに何かにかん付いたように身構えており、警戒心をあらわにする。ブレイズも『それ』に気付いたらしく、魔王と同じ方角を見る。

 二人が見ていた場所には何も無い。ただの地面があるだけだ。だがもっとも能力の高い二人が意味のない事をするはずがないので、他の四人もその場所を注視する。


 数秒が経過した後、魔王が見ていた地面から黒いスライムのような物体がモコモコと地上にい出る。今まで地中に隠れていたが、居場所を見抜かれたのでモグラのように姿を現したようだ。

 スライムは自ら意思を持った存在である事をアピールするようにウネウネと不気味にうごめく。かつて魔王に倒されたデス・スライムと呼ばれた怪物によく似ていたが、サイズはかなり小さい。


 黒いスライムはしばらくこちらの様子をうかがうようにじっとしていたが、やがて人間と同じサイズまでふくれ上がっていき、ブヨブヨ体の表面がうごめく。何かの形になったまま固まると、全身がカラフルに輝いて、体のあちこちに色が付く。

 一連の動作が終わった時、スライムはある人間の姿へと変わっていた。


「ああっ!!」


 スライムが化けた男の姿を見て、女達が声に出して驚く。それもそのはず、そこに立っていたのはまぎれもなく魔王ザガートその人だ。本物よりも色調が暗かったために一目で敵が化けたと見抜けるが、それでも本物を忠実に再現している。霧の中で遭遇した幻影と違って、ちゃんと実体がある。


「スライムが魔王の姿に化けた……だと!?」


 レジーナが思わず口に出す。頼もしい仲間と同じ姿をした敵が現れた事に戦慄せずにいられない。幻影が襲ってきた時もかなり手強かったが、今目の前にある脅威はそれ以上だ。敵が何をしでかすか分からない恐怖が胸の内にあり、無意識のうちにジリジリと後ずさる。


「幻術を破った事はめてやろう。だが本当の戦いはこれからだ」


 魔王に化けたスライムがニヤリと笑う。最初の罠を破った事を称賛しながらも、それが前哨戦に過ぎないと告げる。

 片言でない流暢な言葉を喋る辺りからは、知能の高さがうかがえる。幻術に襲わせた事から推測するに、かなり狡猾こうかつな性格のようだ。


「俺は魔王軍十二将の一人、メタモルファ……大魔王様からこの地を任された幹部よッ!!」


 自らの素性を声高に述べる。宝玉を託された魔物の一体である事が確定的となる。


「他のスライム属は捕食した相手の能力を取り込む……だが俺は違うッ! わざわざ捕食せずとも、見ただけで相手の能力・記憶・性格をコピーする。目の前にいる相手と同じ強さになる……それがメタモルファの恐ろしさよッ!!」


 同種族を引き合いに出して、自分が彼らとは別種の強さを持っていると伝える。


「化けた相手と同じ強さになる……か。事実だとすれば、恐ろしい話だ。だがメタモルファよ、どうするつもりだ? いくら俺と同じ強さになったとしても、お前は一人……こっちは強い戦士が三人いる。このまま戦いを始めれば、三人がかりでお前をボコボコにするハメになる」


 ザガートが相手の能力に関心を寄せながらも、頭の中に湧き上がった疑問を口にする。数の優劣がある限り、勝敗はくつがえらないと教える。

 魔王の言葉に呼応するように、ブレイズと鬼姫が彼の両側に立つ。三人の猛者もさが横並びになったまま偽の魔王を眺める。他の三人の女達は彼らから離れた後方で待機する。


「一人なら……な」


 偽の魔王が意味ありげな言葉を吐いてふくみ笑いした。

 次の瞬間、彼の左右にある大地の土がモコモコと盛り上がり、そこから二体の黒いスライムが顔を出す。スライムはそれぞれ鬼姫とブレイズの姿に化ける。やはり色調が暗かったが、それ以外は本物と変わらない。


「メタモルファが三体……だと」


 ザガートが思わず声に出す。さしもの魔王もこの展開は予想外だったらしく、驚きの感情が顔に出る。


「フフフッ……」


 魔王に化けたスライムが不敵に笑い出す。男に精神的ショックを与えられた満足感が表情となって表に出る。

 他の二体に化けたスライムも「ヒヒヒッ」「ハハハッ」と笑う。本物とかけ離れた下品な笑い方をする。性格をコピーしたと言っていたが、彼らの素の性格は品性下劣だったようだ。


「そっちが三体なら、こちらも三体でやらせてもらう……これで数の優劣は無しだ!!」


 彼らのリーダー格となった偽魔王が、戦力が互角となった事を告げるのだった。

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