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第134話 親友だから

「カナミちゃんっ!」


 友の体に電流が走った事にマイが慌てふためく。反射的に手を伸ばして、またもバチッと感電してしまう。


「これは一体ッ!?」


 突然の出来事にレジーナが困惑する。少女に電流が流される光景を見たのはマイは二度目だが、他の連中はこれが初めてだ。そのため全く状況がつかめず、どうすればいいか分からず悲嘆に暮れる。


「そうか……分かったぞ!」


 一行の中で真っ先に状況を把握したらしき魔王が言葉を発する。


「左手の薬指にめた指輪からカナミに電流を流す……その電流でカナミがもがき苦しむ事により生まれた精神エネルギー、それがヤツの魔力の源ッ! ヤツはカナミから得た膨大な魔力を、探知魔法を阻害する結界を維持する事に使っていたんだ!!」


 魔女が少女を痛め付ける行為によって魔力を得ていた事、それこそが魔女が自身の居場所を隠匿する力の正体であった事実を瞬時に突き止めた。


「……なんて事をッ!!」


 拷問の理由を知らされてルシルが激昂する。いたいけな少女を自身の野望の踏み台にする敵の行いを許せない気持ちになる。はらわたがグツグツと煮えくり返り、怒りで脳の血管がブチ切れそうになる。


「ヒヒヒッ……悔シイカイ? デモアタシヲメルノハ、オ門違カドチガイダヨッ! コレハ、ソノ子自身ガ望ンダ事……アタシトソノ子ハ、ソウイウ契約ヲワシタンダカラネッ!!」


 深くいきどおるルシルをワルプルギスが小馬鹿にするように笑う。一連の出来事をカナミが望んでいたと主張して、自分は悪くないと言いたげに開き直る。


「アタシハ、ソノ子ノ願イヲカナエタ……ソノ見返リトシテ、ソノ子ハアタシノ奴隷ニナッタ。一生アタシニ搾取サクシュサレ続ケルダケノ、アワレナ奴隷ニネ……イーーーッヒッヒッヒッ!!」


 少女を魔力供給の源にしたのは等価交換の結果だと明かして、心の底から愉快そうに大笑いした。


「カナミちゃん……」


 マイが悲しそうな顔をする。電流を流され続ける友をあわれむような目で見る。魔女の便利な道具としてこき使われた彼女の境遇をびんに感じる。


「ごめんね、マイ……私、ずっと黙ってた」


 カナミが電流を流され続けたまま口を開く。全身を駆け回る痛みに苦しんではいたが、気を失うほどではなく、言葉を交わす余裕もあった。


「私、悪い子なの……学校に行くのが嫌で、学校なんて無くなっちゃえって魔女にお願いしちゃった。そしたらおっきな爆発が起きて、パパもママも、村のみんなも、全部消えちゃった。私のせいで……私が悪いお願いしちゃったせいで!!」


 魔女に願い事をした事、それが村の崩壊に繋がった事を教える。


「私、バカだった……頭の悪い、小さな子供だった。悪い魔女だって本に書かれてたのに、無視して封印を解いた。私、村が滅びて欲しかった訳じゃない……ただ学校に行きたくないって……そう思っちゃっただけなのに」


 取り返しの付かない事をしたと後悔する念に駆られて、声に出してすすり泣く。瞳から大粒の涙がボロボロとあふれ出し、ウッウッとえつが漏れ出す。年端も行かぬ少女が自分を責めて泣く姿は見るからに痛ましい。


「みんなが死んだのは私の責任だから……責任取らなくちゃ。だから私、決めたの。これから一生、魔女の奴隷になるって。魔女に痛め付けられて、自分に罰を与えて、罪を償わなきゃいけないんだって……」


 魔女に電流を流されるのは彼女自身が望んだ事、自分に苦痛を与え続ける事が、やらかした罪の償いになると考えた事を伝えて話を終わらせた。


「……」


 少女の話を聞かされてみなが黙り込む。彼女の苦しみを取り除きたいと願ったものの、掛ける言葉が見つからない。


 少女は何も悪い事などしていない。ほんのちょっとしたイタズラ心が湧いただけだ。年端も行かぬ子供なら、誰もが一度は頭をよぎる事……それを魔女に願った事が大惨事を引き起こした。

 いたいけな子供が、悪い魔女の甘言かんげんに踊らされただけだ。誰が彼女を責められようか。


 少女は二十年間苦しみ続けた。村人を死に追いやった事に責任を感じて、電流を流される事がせめてもの償いになると考えて、ずっと一人で苦しんでいた。

 取り返しの付かない事をしたと責任を感じる胸の痛みは、ひょっとしたら、電流を流されるよりも辛い事だったかもしれない。


(……カナミちゃん)


 少女の深い悲しみを知って、マイは胸が詰まる思いがした。彼女が今までどれだけ辛い思いをしたか、それを想像しただけで心臓がズキズキと痛む。何としても彼女を辛い苦しみから解放せねばなるまい……そう思いを抱く。


「……カナミちゃんっ! その薬指にめてる指輪、あたしが引っペがしてあげるっ! そうしたらもうカナミちゃんが痛い思いをしなくて済むからっ!!」


 胸の内に湧き上がった思いを声に出す。彼女の手から指輪を外せば電流を流されずに済むと、そう結論付けた。


「うおおおおおおおおっ!」


 倒れた少女に駆け寄って左手に手を伸ばすと、力ずくで指輪を引き抜こうとした。


「うっ……うああああああああああっっ!!」


 案の定、少女の手に触れたマイに電流が流れ出す。屍人なら耐えられる痛みも、生きた人間が味わえばかなりの激痛になる事は間違いない。


「マイ、バカな事するのはやめてッ! このままだと貴方、死んじゃうかもしれないんだよ!?」


 友の無謀極まりない行動にカナミが大慌てになる。彼女からすれば、マイの取った選択はあまりに理解不能だ。普通の人間が電流を浴びれば死ぬ危険性だってあったのだ。そのリスクを言葉で伝えて、ちょとつ猛進な行いをやめるよう忠告する。


「嫌だ、絶対離さない! 絶対離さないって、そう決めたもんッ!!」


 カナミにくぎを刺されても、マイは決して手を離そうとはしない。体中を焼けるような痛みが駆け回っても、必死に耐えてせ我慢する。


「悩みも、苦しみも、痛みも、もうカナミ一人に全部背負わせない! 私が一緒に背負う! 私が一緒に背負って、辛い事も、苦しい事も、半分こにするっ! どんな辛い事も、二人一緒なら乗り越えられるっ! だって私達……親友だもんっ!!」


 痛みを背負う覚悟を強い口調で伝えた。本来一瞬触れただけでバチッと激痛を味わうほどの電流に長時間耐え続ける精神力は、まさに友を思う気迫と執念がせる技だった。


「でぇぇぇぇぇぇやぁぁぁぁぁぁあああああああああっっ!!」


 腹の底から絞り出したような大声で叫ぶと、カナミの左手の薬指に嵌めてあった指輪を両手で引き抜く。


「こんな指輪、無くなっちゃえ!!」


 ポイッと地面に投げ捨てると、間髪入れずに足で踏み付けた。グシャァッとガラスが踏まれたような音が鳴り、金属製の指輪が粉々に砕ける。その瞬間二人に流れていた電流が止まる。


「ナッ!? 馬鹿ナ……アタシノチカラノ源ガ……ウワアアアアアアアアアッ!!」


 魔力の供給を絶たれた事に困惑したワルプルギスが大きな声で叫ぶ。目の前に映し出されていた魔女の幻影がスゥーーッと薄れて消えてゆく。

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