第132話 災厄の魔女……その名はワルプルギスっ!
両親が魔王と会ってる間に家を抜け出したマイは再び廃墟を訪れる。どんな危険を冒してでもカナミと一緒にいたい思いを伝える。
友の気持ちを知らされてカナミが泣きそうになった時、彼女を屍人に変えた魔女が魔物の正体を現す。それは見るもおぞましい骸骨の化け物だった。
魔女はカナミに電流を流して痛め付ける。マイは必死に止めようとしたが何も出来ない。
少女が悲嘆に暮れた時、何処からか火炎光弾が放たれて魔女を攻撃する。魔女は咄嗟に攻撃をかわし、電流を流す作業が止まる。
二人の窮地を救った者……それは他ならぬザガートその人だった。
「イッ、異世界ノ魔王……何故ココニ!?」
男の姿を目にして魔女が驚くあまり声を上擦らせた。予想外の展開にショックを受けたあまり口をあんぐりさせて、全身をわなわな震わせる。表情に焦りの色が浮かび、呼吸が荒くなる。「アワワ」と声に出してうろたえる。
それは彼女にとって決してあってはならない事だ。この辺境の田舎に自分の邪魔をする者などいないと思って今まで好き勝手やってきた。そこによりにもよって、救世主と呼ばれた男が現れたのだ。正に餌場に土足で踏み入られた心地がした。
「俺は貴様のような悪党がいる場所なら、何処へだって駆け付ける……」
ザガートがあえて恰好付けた言い回しをする。宝玉のありかが書かれた地図を頼りに旅してきた事は言わない。
「フンッ……マァ良イサ! ドノミチ大魔王様カラハ、アンタヲ見カケタラ殺スヨウ命ジラレタカラネ! チョウド良イ! コノ場デ始末シテヤルヨッ!!」
魔女が何としても魔王を返り討ちにせんと息巻く。上司から男の抹殺を命じられた事を教えて、興奮気味に鼻息を荒くさせた。
「モウ知ッテルダロウケド、改メテ名乗ラセテモラウヨ。アタシハ、ワルプルギス……魔王軍十二将ノ一人ニシテ、カツテ災厄ノ魔女ト恐レラレタ女サ」
挨拶代わりに自己紹介する。魔王軍の幹部の一人だったと教えて、伝説の魔女として恐れられた事を誇らしげに自慢する。
「……」
マイは二人のやり取りを呆気に取られて聞いていた。予想外の展開に思考が追い付かず、フリーズしたように頭が真っ白になる。まさか本当に救世主が駆け付けるなどとは夢にも思わず、口を開けたままポカンとさせた。
しばらく茫然自失になっていたが、カナミの電流が解かれた事に気付いてハッと我に返る。
「カナミちゃんっ!」
慌てて駆け寄り少女を助け起こすと、両手で抱き抱えたまま魔王達の方へと走り出す。彼らの側にいれば安全だろうと判断する。
魔王の仲間達と合流すると、両手で抱えた少女を一旦地面に下ろして寝かせる。
「うっ……」
カナミが目を開けて言葉を発する。マイの姿が視界に入り、安心したようにニッコリ笑う。既に屍人だからというのもあるが、電流を流された事による負傷はそれほど大きなものでは無いようだ。
「お二方はオイラが全力で守るッス! あの醜い骨婆さんには一切手出しさせないッス!!」
短刀を構えたなずみが少女達に背を向けて立つ。いたいけな少女を悪しき魔女の犠牲にさせまいと思いを強くする。
「キィィーーーーーッ! アタシヲ醜イ骨ババアトハ、ヨクモ言ッテクレタネ! コノ東洋人ノ不愉快ナ雌ガキ! アタシャ、アンタヲ絶対許サナイヨッ!!」
魔女が容姿を悪く言われた事に激しく憤慨する。金切り声を発してヒステリックに喚き散らす。プライドを傷付けた子供を許せない気持ちになる。
「ハラワタヲ ブチ撒ケテ死ヌガイイ! 死光線ッ!!」
正面に右手の人差し指を向けて呪文の詠唱を行う。指先に紫の光が集まっていって小さな塊になると、そこから一筋の光線がなずみめがけて放たれた。
「フンッ!」
ザガートは一瞬でなずみの前までワープすると、飛んできた光線を手で弾く。
「ワルプルギス、挨拶代わりに受け取れッ! ゲヘナの火に焼かれて消し炭となれ……火炎光弾ッ!!」
間髪入れず反撃の魔法を唱える。男の手のひらに魔力の炎が集まっていき、圧縮されて一つの火球になると、正面にいる魔女めがけて一直線に撃ち出された。
轟々と燃えさかる灼熱の業火が目にも止まらぬ速さで飛んでいく。魔女は自分に向けて放たれた火球を避けようともしない。何の回避行動も取らず、ただ棒立ちになる。そのまま攻撃魔法の餌食になるかに思われたが……。
「……何ッ!?」
次の瞬間目にした光景にザガートが驚きの言葉を発する。
火球は魔女の体をスゥッと通り抜けてしまい、背後にある空間へと飛んでいく。そのまま地面に落下して爆発する。
よく見ると最初に会った時は実体があった魔女の姿が、今はうっすらと半透明に透けてボヤけている。まるで立体映像か幽霊になったようだ。
(どういう事だ……?)
攻撃魔法が当たらなかった事にザガートが困惑する。あれこれ推測を巡らせたものの、すぐには答えが出ない。
「考エ事ヲシテイル暇ハ無イヨッ! 死ネ! 死光線ッ!!」
魔王が物思いに耽た時、魔女が男の隙を突くように攻撃呪文を唱える。半透明になったにも関わらず、魔女の指先からはしっかり光線が放たれる。
男に光線が迫った時、鬼姫がすかさず彼の前に立ち、手に持っていた刀で光線を弾く。
「何をボーッと突っ立っとる! お主らしくないぞッ!!」
戦闘中に考え事をした魔王を鬼姫が叱り付ける。もし彼女が庇わなければ、効いたかどうかはともかく、魔王は確実に光線を食らっていた。それは普段の彼らしからぬ失態だ。
「ああ……すまない」
魔王が自身の不注意を詫びる。一瞬どうすべきか悩んだ素振りを見せた後……。
「鬼姫……ついでに一つ頼まれてくれないか。俺は敵の能力を探るために、今から一分半ほど無防備になる。その間、敵の攻撃を全力で受け切ってもらいたい」
女の肩に手を乗せて頼み事をする。自身が一切の行動を取れなくなると伝えて、魔女の攻撃に耐え続けるようお願いする。
「なっ……何じゃとぉぉぉぉおおおおおおーーーーーーーーッッ!!」




