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第130話 魔王、アマンダの村を訪れる。

 十二の宝玉を探して旅を続けていたザガート達一行はアマンダの村へと来ていた。

 一見何の変哲もない辺境の村に足を運んだのは、この地に新たな宝玉を得る手がかりがあると踏んだからだ。


 ザガート達が村へ入ると、彼の姿を一目見ようと数十人の人だかりが出来る。マイの両親もその中にいる。


「異世界の魔王様、ご高名はかねがねうかがっております。アマンダの村へようこそおいで下さいました……何もない辺鄙へんぴな所ですが、ごゆっくりくつろいで下さいませ」


 人だかりの先頭にいた五十代の中年男性が村人を代表して挨拶あいさつする。ペコペコ頭を下げてへりくだった態度を見せて、村を訪れた救世主に歓迎の意を示す。


「フム……ゆっくりしたいのは山々だが、そういう訳にも行かん。いきなりですまないが、この村の村長か長老に会わせてもらいたい。至急調べたい事がある」


 ザガートが早速さっそく用件を切り出す。村の実力者に会いたい意向を伝える。


「ええ、でしたらゾダック様にお会いになるのがよろしいかと……この村一番の長命で、博識なお方です。きっと実りのある話が聞けましょう。今から彼の住む家に案内しますよ」


 最初に言葉を交わした男性が老賢者の名を口にする。の者ならば魔王の期待に答えるだろうと考えて、家のある方角に向かって歩き出す。

 一行は男性の後に黙って付いていく。マイの両親も彼らの後に続く。

 他の者は魔王を見るために中断していた作業を再開すべくその場を離れる。


  ◇    ◇    ◇


 一行は男性に案内されるがまま村の一番奥にある古ぼけた小屋へと着く。中に入ると、テーブルの前に置かれた椅子いすに一人の年老いた男性が座っていた。


「おお救世主どの……よくぞ参られた。このワシに何か用ですかな?」


 魔王の姿を見るや否やゾダックが杖をついて立ち上がる。救世主の来訪を心より歓迎し、自分に会いに来た用件を聞く。


「……これを見てもらいたい」


 ザガートはそう口にすると、ふところから紙の地図を取り出してテーブルの上に広げる。その×(バツ)印が書かれた箇所を指差す。


「これは魔王軍の幹部の居場所が書かれた地図だ。俺達はこの地図を頼りに、一体ずつ幹部を倒す旅を続けている。そうする事が、大魔王の居城へ行く手がかりになるからだ」


 その地図が何であったかを詳しく説明する。地図に書かれた情報を頼りにこれまで旅してきた事を教える。


「……そして、ここだ」


 そう言いながらある一点を指差す。


「ここにも魔王軍の幹部がいる事を示す×印がある。これはアマンダの村から西に一キロ離れた場所だ。もしここにそれらしい魔物がいる伝承やウワサがあるなら、ぜひお教え頂きたい」


 バルティナ村があった廃墟を指差しながら、そこにむ魔物の情報を求める。


「フム……」


 魔王の話を聞いてゾダックが深く考え込む。あごに手を当てて眉間みけんしわを寄せた気難しい表情になりながら「ムムムッ」と声に出してうなる。何からどう話すべきか真剣に思い悩む。

 頭の中で情報を整理しながらしばらく考え込んだが、やがて答えがまとまったように口を開く。


「その×印が書かれた場所にはかつてバルティナという村があった。ワルプルギスという名の魔女が住んでおった所じゃよ」


 廃墟となった村の名を口にして、そこに住む魔女の情報を教える。


「ワルプルギスは恐ろしい魔女じゃ……村の子供をさらっては食べておった。ある日ヘンゼルとグレーテルという二人の子供を食べようとした時、まんまと騙されて返り討ちにい、命を落としたと聞く。それで全てが終わるはずじゃった」


 魔女が子供を食べる醜悪な存在であった事、騙し討ちにあって死んだ事……それらの伝承を述べる。


「じゃが彼女は不死アンデッドとなってよみがえり、またも悪さをした。そして今度は異世界から来た勇者に討伐されて、力の源である指輪ごと本の中に封印された……それが古くからの言い伝えじゃ」


 魔女が魔性の存在となって復活し、異世界の勇者に封印された経緯いきさつを伝える。


「しかし二十年前、バルティナ村は突如として謎の爆発に遭い、滅びてしまった……これは村の誰かが魔女の封印を解いたと見て間違いない。もし地図に書かれた場所に魔王軍の幹部がいるというなら、それはワルプルギスを置いて他にはおるまい!!」


 村が滅ぼされた事を告げて、復活した魔女こそが、ザガートが探し求める魔王軍の幹部であろうと結論付けて話を終わらせた。


「ワルプルギスとやら……いたいけな子供をさらって食べるとは、何とも不愉快なやからじゃのう」


 魔女の話を聞かされて鬼姫が怒りをあらわにする。弱者を食い物にする悪女の卑劣な行いに深くいきどおる。自分がかつて人を襲った鬼だった事はすっかり忘れている。


「ああ、救世主様……どうか……どうかウチの娘をお助け下さいッ!!」


 それまで後ろで話を聞いていたマイの母親がこらえきれず前に出てきて、魔王に助けを求める。ゾダックの話を聞いている内に娘の事が心配になったようだ。


「この方達は?」


 自分達の後ろに付いてきた夫婦と思しき男女の素性をルシルが問う。


「このお二方はのう……かくかくしかじか」


 ゾダックがこれまであった出来事を説明する。

 夫婦の娘マイに友達がいなかった事、マイが廃墟に住む少女と友達になった事、その少女はびとであり、魔女と関係があるかもしれない事……それらは魔王一行の知る所となった。


「このままではマイは屍人にされてしまうかもしれないんですッ! どうか……どうか悪い魔女をやっつけて、ウチの娘をお救い下さいッ!!」


 爺の話が終わると、母親がまたも強くお願いする。もう他に頼れるものが無いと涙目で魔王にすがり付く。


「……魔女を倒す事が、お宅の娘さんを救う事に繋がるというなら、出来る限りの事はしてみよう」


 しばし考えたすえに魔王が母親の願いを聞き入れる。根拠の無い安請け合いはせず、やれる範囲の努力をする事を誓う。何のえんもゆかりも無い家族であったが、目的を果たすだけで彼らを救えるというなら魔王に断る理由は無い。


「あ、ありがとうございますッ!!」


 母親が感謝の言葉を口にして満面の笑顔になる。救世主が願いを聞き入れた事に感激し、胸のつっかえが取れた気分になる。これで娘は助かるだろうと深く安堵する。


「それで、娘さんは何処に?」


 レジーナがマイの所在を問う。


「マイなら、今はおウチで留守番してます。案内しましょう」


 母親はそう言うや否や、善は急げとばかりに家の外に出る。そのまま自分達が住む家に向かってそそくさと歩き出す。

 一行は彼女の後ろに付いていく。ゾダックは一人その場に残り、去りゆく者達を笑顔で見送った。


  ◇    ◇    ◇


 一行を連れて家に戻った母親はすぐに娘の部屋へと向かう。


「マイ、救世主様をお連れしたわ。ここを開けなさい」


 そう言いながら部屋のドアをドンドンと叩く。だが返事が無い。

 物音が一切鳴らず、明らかに誰もいない雰囲気を漂わせた。

 不審に思った母親がドアノブに手を回すと、鍵が開いている。そのままドアを開けて娘の部屋へ入る。


「……ッ!!」


 部屋に入った瞬間目に飛び込んだ光景に母親が顔をこわばらせた。

 本当なら留守番していなければならないはずの娘の姿が何処にも見当たらない。部屋はすっかりもぬけのからになっていた。


 机の上に彼女が書いたと思しき置き手紙があった。ルシルがその手紙を手に取って読み上げる。


「パパ、ママ、ごめんなさい。私やっぱりカナミちゃんに会ってきます。このままずっとお別れするのはイヤだから。親の言い付けを守らない娘をどうか許して下さい……マイ」


 ……それはマイが廃墟の村に向かった事を告げる内容だった。両親が魔王と会っている間に家を抜け出してしまったのだ。


「ああ、そんな! このままだと、マイが……マイが悪い魔女の餌食えじきになってしまう!!」


 マイが家を飛び出した事を知って、母親が顔面蒼白になる。愛する娘が屍人に変えられた姿を想像して茫然ぼうぜん自失になり、ガクッとひざをついてうなだれた。この世の終わりを見たように暗い顔になる。


「まだ彼女が家を出て、そう時間がってないはずだ……一刻も早く魔女のいる廃墟に向かわなければッ!!」


 ザガートは事態の深刻さを悟り、すぐに目的地に向かう事を提案するのだった。

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