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第127話 廃墟に住む一人の少女

(……あれ?)


 ふと何かが視界に入り、帰ろうとした足が止まる。


 村の外れにあるおかに、一人の少女がひざを抱えて体育座りしていた。特に何をするでもなく、空を眺めたままぼーっとしている。マイの存在に気付いた様子は無い。

 その少女はウワサに聞いた通りマイと同じ七歳くらいの子で、長い黒髪をして、白のワンピースを着ていた。可愛らしい服装と整った顔立ちをしており、一見して美少女という印象を与える。

 だがよく見ると青白い肌をしており、生きた人間の気配を全く感じさせない。血が通っていない皮膚は、腐敗こそしていないものの、ゾンビのようだ。彼女の姿を見た旅人が幽霊だと思うのも無理はない。


 左手の薬指に赤い宝石の付いた指輪がめられていたが、マイは気にも止めない。


 マイは一瞬躊躇したものの、せっかくここまで来たのだからと、少女に話しかける決心を固める。相手に気付かれないよう、そーっと近付く。


「あの……」


 背後に回り込むと、恐る恐る声を掛けた。


「……ッ!!」


 マイの存在に気付いた少女が驚いた顔をする。一瞬うろたえた表情した後、慌てて何処かに走り去ろうとする。


「待って!」


 逃げようとした少女の右手をマイがつかむ。その瞬間ヒヤリと冷たい感触が伝わってきた。


「つめたっ!」


 想定外の肌の冷たさにビックリしたマイがうっかり手を離す。少女の肌はキンキンに冷えており、冷凍庫の中に数時間入れたマネキンに触れたような冷たさだ。そこに人肌のぬくもりと呼べるものは微塵も感じられない。


 マイの手が離れると、少女の足が止まる。逃げる事はやめたものの、振り返りもせず、背を向けたまま突っ立っている。背中から無言の圧力が伝わる。


「冷たいでしょ……だって私、もう死んでるんだもの」


 やがて意を決したように口を開く。自分が生きた人間ではない事、それゆえに体温が感じられない事、それらの事実を教える。


「……ごめん」


 マイが申し訳なさそうな顔をして謝る。相手を不快にさせたかもしれないと思い、肩を縮こませて小さくなる。


「どうして謝るの?」


 少女が胸の内に湧き上がった疑問をぶつける。彼女からすればマイの反応は意外なものだった。自分が死人である事を明かせば、相手は驚いて逃げると踏んだからだ。

 だが今背後に立っている女の子は、少女が死人である事に全く驚かない。それどころか自分に非があるように謝る。マイの態度は少女にとってとても新鮮だった。


「私、貴方とお話がしたくてここに来たの……それなのに手が冷たくてビックリしちゃったから。でも私、貴方を怖がったり、嫌おうとした訳じゃないの。本当にただビックリしただけなの。だから気を悪くしないで、ね」


 マイが村に来た用件を伝える。少女に対する敵意が無い事を説明して、誠心誠意を込めて相手の誤解を解こうとした。


「貴方……私が怖くないの?」


 少女が後ろを振り返り、マイの顔をじーっと見ながら問いかける。自分が死人である事を恐れていないかどうか、念を押して確かめようとする。


「怖くないよ。だって怖い化け物だったら、話しかけたらいきなり逃げたりしないもん」


 マイがあっけらかんとした表情で答える。少女が襲ってこなかった事実を口にして、邪悪な魔物ではない根拠とした。大人の視点であれば安全と判断するにはあまりに材料が不足していたが、マイにとってはそれで十分だった。


「……変な子」


 マイの独特のノリに付いていけず、少女があきれ顔になる。


「エヘヘ……」


 少女にけなされて、マイが舌を出して照れたように苦笑いする。自覚があったのか、変な子呼ばわりされても怒ったり悪びれたりしない。


「私、マイって言うの。ここから東に一キロ行ったとこにあるアマンダって村に住んでる。そこの村、私と同い年の子がいないから、私はずっと一人で遊んでた。そしたら貴方のウワサを聞いたの。私と同じくらいのとしの子がいるって。だから会いに来たの」


 サッと表情を切り替えて自己紹介する。自分に同い年の友達がいない事を教えて、改めて村に来た目的を明かす。


「ねえ貴方……私とお友達になって!」


 少女の手をギュッと握ると、相手の顔をじっと見ながら友達になるようお願いする。冷たい感触が伝わっても、今度ばかりは手を離さない。同じ失敗を繰り返すまいと心に決めたようにしっかり強く握る。


「……私なんかでいいの?」


 少女が上目遣いで相手の方を見ながら問いかけた。顔をうつむかせたままオドオドしており、受け入れられる事への自信の無さ、不安に感じた思いが伝わる。電柱に隠れた猫のようにおびえる。


「うん! 私、貴方とお友達になりたいっ!」


 マイが満面の笑みで疑問に答える。一切の迷いを感じさせない晴れやかな笑顔になりながら、少女の友達になりたい意思を強い口調で伝える。


「……私、カナミ。これからよろしくね」


 マイの言葉を聞いて胸の内にあったモヤモヤが晴れたのか、少女が嬉しそうな笑顔になる。不安が消えてスッキリした表情になると、自己紹介しながらマイの手を握り返す。


「うん! カナミちゃん、よろしくねっ!」


 少女の名を呼びながら、マイがまたも手を強く握る。同い年の友達が出来た感動に胸をおどらせた。

 かくして二人の奇妙な友情がここに生まれる事となる。



 ……手から伝わる感触は相変わらず冷たかったが、マイにとってそれは不思議と心地よいものだった。

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