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第118話 激突! デスナイト vs ザガート!!

 夜の街中で起きた通り魔事件……その犯人こそ、仲間の前から姿を消したアドニスに他ならない。大魔王の忠実なしもべデスナイトとなった彼は、自ら最強の戦士になったと豪語し、魔王に決闘を申し込む。昼間の汚名をそそいで、周囲に本物の勇者だと認めさせる事を固く誓うのだった。


 自身のした事に責任を感じたザガートだったが、何としても若者の腐った性根を叩き直すのだと息巻く。ここに人々から勇者と呼ばれた魔王と、勇者になりたいあまり悪魔に魂を売った魔剣士の戦いが勃発する。


「行くぞザガート……うおおおおおおっ!」


 アドニスが先手を打つように自ら仕掛ける。正面に向かって全力でダッシュすると、右手に握った剣を魔王めがけて振り下ろそうとする。


「フンッ!」


 ザガートが直立不動のまま残像を残して高速移動し、アドニスから数メートル離れた場所へと後退する。相手と一定の距離を保ったまま魔法攻撃しようと頭の中で考えていたが……。


「!?」


 魔王が次の行動に移ろうとしたせつ、彼の前にアドニスがワープしたように突然姿を現す。間髪入れず剣を横ぎに振って魔王を一刀両断しようとする。

 魔王は予想外の出来事に驚いたために一瞬反応が遅れてしまい、今度ばかりは回避行動が間に合わない。


「ぐっ!」


 咄嗟とっさに両腕を盾にして防御の体勢を取る。横一閃いっせんに振られた剣が両腕にガッと音を立ててぶつかると、魔王の体に強い衝撃が加わって、大地に両足をついたままズザザザァーーーーッと後ろに押されていく。

 さいわいにと言うべきか、魔王の両腕ははがねよりも硬く、刃を受けた事による傷は付いていない。


(……どういう事だ)


 だが魔王は心中穏やかではない。深手は負わなかったものの、それでも相手が自身の想定より速く動けた事に到底納得が行かない。

 魔王は常人の百倍以上の速さで動ける。相手は速度強化スピード・ブーストで十倍速くなったとしても、せいぜい反応が間に合うのがやっとだ。攻撃を当てるなんて事は普通では考えられない。

 アドニスは大魔王の力で身体能力を強化されたのか? もしそれで魔王と同等の強さを手に入れたのだとしたら、恐ろしい話だ。


(……確かめなければなるまい)


 ザガートがそう思いをせる。このまま考えていても仕方がなく、自身の中に湧き上がった仮説を実証するためには行動を起こすしかないと結論付ける。


「ゲヘナの火に焼かれて、消しずみとなれッ! 火炎光弾ファイヤー・ボルトッ!!」


 正面に右手をかざして魔法の言葉を唱える。男の手のひらに魔力の炎が集まっていき、圧縮されて一つの火球になる。火球は正面にいるアドニスめがけて撃ち出された。

 轟轟ごうごうと燃えさかる火の玉はグングン加速していき、やがて音速を超える速さになる。常人ではとても見てからでは回避が間に合わない速度だ。


 アドニスは自身に向けて放たれた火球を、サッと横に動いてあっさりとかわす。火球は彼の背後にある地面に落下して、音を立てて爆発する。


(……やはりそうだッ! 間違いない! 今のヤツは……アドニスは、俺とほぼ同じ速さで動けるッ!!)


 若者が自らの放った一撃を避けた動作を見て、ザガートが確信を抱く。これまで抱いた違和感に対し、もしやと頭の中に浮かんだ仮説が実証される形となった。その事に対する驚きの感情を隠し切れず、表情となって表に出る。


「フフフッ……流石さすがのお前も冷静ではいられまい」


 魔王の驚いた顔を見て、アドニスが上機嫌になる。相手に一杯食わせられた喜びで口元をニヤつかせた。


「教えてやろう……俺の右腕にめられた黄金の腕輪、これは『神速の腕輪』と呼ばれる伝説の宝具ッ! デスナイトの証たるデモンズメイル共々、大魔王から与えられた品々の一つッ! これを身に付けた者は、常に目の前にいる敵の最高速度と同じ速さで動き回れるようになるッ!!」


 一連の出来事について真相を語る。右腕に嵌めた腕輪の効力により、魔王と同じ速さで動けるようになった事実を教える。あえて自信満々に種明かしする口ぶりからは、知られても対策の取られようがない余裕がうかがえる。


 事実、同じ速さで動けるという事は、ザガートが速度強化スピード・ブーストをしても全く意味がない。かといって同じ速さの相手から力ずくで腕輪を引きがすなど、現実的な考えとは呼べない。男が余裕の態度を取るのも納得の行く話だ。


「ザガート……これで貴様は、最大の強みの一つを失った事になるッ!」


 アドニスが歓喜に満ちた表情で叫ぶ。魔王が速さにおいて優位性を失ったと自信満々に告げると、前方にダッシュして一気に間合いを詰める。速さが同じなら不用意に飛び込んでも簡単には反撃されないだろうと確信を抱く。


「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁぁぁぁああああああーーーーーーーーッッ!!」


 腹の底から絞り出したような大声で叫ぶと、それまで片手で握っていた一振りの剣を両手に持ち替えて、縦横無尽に振り回す。ブンブンと音を立てて振られた剣が魔王へと襲いかかる。


 魔王はさっきと同様に両腕を盾にして防御の体勢を取る。黒騎士の剣が男の腕に触れると、ギィンッ! と硬い何かにぶつかったような音が鳴る。男の腕はダイヤモンドの壁よりも堅牢で、簡単には傷が付かない。それでも黒騎士は剣を振り続けた。

 ギンギンギンギンギンッ、と剣がぶつかった音が楽器の演奏のように鳴り、そのたびに魔王の体が少しずつ後ろに押される。


 魔王は防御の体勢のまま、チャンスをうかがうようにじっと耐える。


(やれやれ……速さが同じになっただけで、ここまで力の差が埋まるとはな)


 相手の攻撃を受け続けたまま、物思いにふける。本来格下の相手に防戦一方になっている現状を深く嘆く。


 あくまで同じになったのは速さだけだ。大魔王に肉体を強化されたとはいえ、攻撃力は同じになっていない。現に黒騎士の一撃は魔王にかすり傷すら負わせられない。

 それでも速さという強みをたった一つ失っただけで、楽勝ムードは消し飛び、魔王は相手をめてかかれる余裕を失った。

 これは本腰を入れなければなるまい……そう思いを抱く。


 黒騎士の斬撃は数分ほど続いたが、疲れが出始めたのか、ほんの一瞬だけ次の剣を振るうまでのタイミングが遅れた。

 魔王はその一瞬のすきを見逃さない。


「フンッ!」


 かつを入れるように鼻息を吹かすと、相手の腹に渾身のヤクザキックを叩き込む。くつを履いた男の足裏がドグォッと音を立てて腹にめり込む。


「のっ……ぐわぁぁぁぁああああああーーーーーーーーッッ!!」


 アドニスが奇声を発しながら豪快に吹き飛ぶ。予想外の反撃に受身が取れず地べたに叩き付けられると、横向きにゴロゴロと転がる。最後はだらしなく大の字に寝転がる。

 剣は右手に握られたままであり、手元から離れていない。その事は見事と言うべきか。


 地べたに倒れたまま起き上がらないアドニスを、ザガートが腕組みしたまま眺める。表情に余裕の笑みを浮かべており、相手を見下すように「フフンッ」と鼻で笑う。


「アドニス……俺とここまでやれるようになった事はめてやる」


 想定をはるかに上回る健闘ぶりを見せた若者に賛辞の言葉を送る。


「だが……同じ速さになった程度で勝てるほど、俺は甘くはない!!」

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