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第104話 激闘! ギルボロス vs 鬼姫!!

「ギルボロス……鬼族の王たる我の力、とくと目に焼き付けるがいい!!」


 鬼姫はそう叫ぶと、右手に持っていた刀を地面に突き刺す。しばらく使わない事を決めたようにつかから手を離す。

 両手でいんを結んで、ボソボソと小声で呪文を詠唱する。彼女に魔力が集まっていくように全身が炎のオーラに包まれる。


「我が力よ……炎の龍となりて全てを焼き尽くせ! 火炎龍嵐かえんりゅうあらしッ!!」


 魔法の言葉を唱えると、彼女の前にある空間に炎が集まっていき、巨大なかたまりとなる。それは一匹のドラゴンへと姿を変えて、ギルボロスめがけて飛んでいく。

 炎の龍はギルボロスに巻き付いて焼死させようとする。ゴブリンを一瞬で消しずみにする超高熱の火炎が魔神を焼き尽くそうとする。


「ムンッ!」


 ギルボロスはかつを入れるように一声発すると、拳を強く握ったまま両腕を左右に大きく開く。すると彼に巻き付いた炎の龍は力ずくで振りほどかれたようにバラバラに千切ちぎれて、小さな炎となって消えていく。


「ドウシタ……モウ終ワリカ? 鬼族ノ王トヤラノチカラガソノ程度ナラ、期待外レモ良イ所ダ……」


 魔神が余裕ありげに侮蔑の言葉を吐く。首を左右に傾けてゴキゴキと音を鳴らし、グフグフと声に出して笑う。灼熱の業火で焼かれたにも関わらず、何事も無かったかのように平然とする。

 ゴブリンを一瞬で焼死させる炎も、魔神にはかすり傷すら負わせられなかった。それは両者に埋めがたい実力の開きがある事実を浮きりにした。


「まだじゃ! まだ戦いは始まったばかりなのじゃ!!」


 それでも鬼姫は諦めようとしない。圧倒的な力の差があると分かっても、なおも食い下がろうとする。


「青き光よ、雷撃となりて我が敵をぎ払え! 雷撃龍嵐らいげきりゅうあらしッ!!」


 正面に右手をかざして魔法の言葉を唱えると、女の手のひらがバチバチッと音を立ててスパークする。そこから青く光る一筋のいかずちがギルボロスめがけて放たれた。

 目にも止まらぬ速さで飛んでいった電流は魔神を一瞬にして貫く。鎖のように全身に巻き付いて、ビリビリと高圧電流で感電させる。


 魔法は自然の落雷に匹敵する威力だ。普通なら心臓が止まるし、そうでなければ全身が黒焦げになる。並みの魔物なら死はまぬがれない。だが……。


「ウイーーーッ。コレハチョウド良イ電流ジャ。オカゲデ肩リガ取レタワイ」


 ギルボロスが恍惚こうこつとした表情になる。手傷を負わせられないどころか、逆に気持ちよさそうにする。並みの生物を一撃死させる電流も、最強の魔神にとっては全身の凝りをほぐすマッサージにしかならない。

 皮肉でなく本当に肩凝りが治ってしまったらしく、魔法を受ける前よりもハツラツとした笑顔になる。


「サテ、オアソビハコノクライニシテ、ソロソロコチラカラ行カセテモラウトシヨウ」


 魔神はそう口にすると前に一歩踏み出す。自分から攻撃を仕掛ける事を決めたようにゆっくりと歩き出す。二、三歩ほど進んだ所で立ち止まる。


「ゲヘナノ火ニ焼カレテ、消シズミトナレ……火炎光弾ファイヤー・ボルトッ!!」


 女に手のひらを向けて攻撃魔法を唱える。魔神の手のひらに大量の炎が集まっていき、圧縮されて一つの火球になる。火球は女めがけて目にも止まらぬ速さで撃ち出された。


「くっ!」


 鬼姫は咄嗟とっさに両手を正面にかざして、半透明に青く光るバリアをドーム状に張り巡らす。

 だが火球はバリアに衝突しても霧散する事なく、逆にバリアを力ずくで押し破ろうとする。バリアの四方八方に亀裂が入り、バリィィーーーンッ! とガラスのようにもろく砕けてしまう。

 障壁を破ると、火球はそのまま直進して鬼姫をみ込んだ。


「ぐああああああああーーーーーーーーっっ!!」


 女が天にも届かんばかりの絶叫を発する。火球に触れた途端ダイナマイトに匹敵する威力の爆発が起こり、その身を超高熱の炎で焼かれた。爆発の衝撃により吹き飛ばされて、全身大ヤケドを負ったまま地面をゴロゴロ転がる。


「ううっ……」


 うめき声が女の口から漏れ出す。全身を駆け回る痛みに身もだえするように体をよじらせた。着物はボロボロになり、体のあちこちの皮膚が黒く焦げている。そこからブスブスと白煙を立ちのぼらせた。

 致命傷にまでは至らなかったものの、深手を負った事は明白だ。


 鬼姫が放った渾身の一撃はギルボロスにかすり傷すら負わせられなかった。魔神は結界を張る素振りすら見せず、無防備のまま無傷で耐えしのいだ。逆に魔神が放った何でもないただの一撃を、鬼姫はバリアで防ぎ切れず大打撃を受けてしまった。


 力の差は歴然としていた。鬼姫ですら大悪魔アスタロトの二倍の強さがあるというのに、その彼女が虫けらのように軽くあしらわれている。このギルボロスと名乗るグレーターデビルはアスタロトの何倍の強さだというのか。


 状況は絶望的だ。どうあがいても鬼姫に勝てる見込みなど無い。このまま戦いが続けば、彼女がなぶり殺しにされる事は目に見えている。

 村人達は自分らの安否以上に鬼姫が殺される事を心配し、みるみる悲壮感が湧き上がって胸が締め付けられるように痛くなる。


「グフフッ……鬼姫ヨ。ソロソロ降参スル気ニナッタカ?」


 ギルボロスがニタァッと不気味な笑顔になる。ボロ雑巾ぞうきんのような姿になった女を眺めて、嬉しそうにグフグフと笑う。心身共に追いつめられた女が弱気になる事を期待して、再考をうながす。


「……まだじゃ」


 鬼姫がそう言葉を発しながら、手の指先をピクリと動かす。ゆっくり体を動かして上半身を起こすと、自ら気力で奮い立たせたように、二本の足でしっかりと立ち上がる。

 相変わらず衣服はボロボロで、体の傷は治っていないままだ。両足はガクガク震えており、全力疾走したように呼吸が荒くなる。かなり体力を消耗したのが一目で分かる。

 それでも彼女の目から闘志は失われていない。何としてもこの村を守るのだという揺るぎない意志の炎がメラメラと燃えている。


 正面に右手をかざすと、地面に刺してあった刀がひとりでに抜けて、自ら意思を持つように女の手元へと飛んでいく。女は刀のつかを右手でガッとつかむ。


「まだ我は切り札を使つこうておらん……これまで数多あまたの敵をほふってきた、取っておきの技がな。ギルボロスよ……勝った気になるのは、この技に耐えてからにしてもらおうかッ!!」


 刀を手にすると、鬼姫は最後の大技を使う事を宣言するのだった。

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