第100話 強大な悪魔……その名はグレーターデーモンっ!
村を脅かす魔物を討伐すべく山へと登るザガート達一行……レッサーデーモンの襲撃を受ける。敵を返り討ちにしてわざと一体だけ逃すと、彼の後を追ってボスのいる山頂まで案内してもらう。
山頂の岩場にたどり着いた一行が目にしたもの……それは全身の筋肉が盛り上がった、ボディビルダーのような悪魔だった。
「我コソ、山ニ棲ム悪魔ヲ統率スル者……グレーターデーモン!!」
悪魔が高らかに自己紹介する。村を襲った魔物の親玉である事を包み隠さず教える。その言葉が本当なら、村に呪いを掛けたのも彼の仕業という事になる。
「お前達は後ろに下がっていろ……こいつは俺一人で相手する」
ザガートがそう口にして、右手をサッと横に振る。彼の指示に従い、少女達が数メートル後ろに下がる。
魔王は少女達の手に負える相手なら少女達に任せ、そうでない敵は自分が相手する。そうする事が少女達を危険な戦いに巻き込まず、なおかつ足を引っ張られない効率的な戦術だと考える。
グレーターデーモンは少女達が勝てる相手ではないと、魔王はそう判断した。少女達は彼の意思を尊重する事にした。
「フフフッ……無駄ナ事ダ。ドウセ貴様ヲ殺シテカラ、後ヲ追ワセテヤルノダカラナ」
デーモンが不気味に笑いながら前に一歩踏み出す。仲間を安全圏に逃がした魔王の行いを馬鹿げた愚行だと嘲る。三歩ほど進むと、グワッと開いた両手を胸の前で、互いに向き合わせる。
「大気ノ水分ヨ、氷トナレ……凍結吹雪ッ!!」
その構えのまま魔法の言葉を唱えると、両手の間にあった空間に白い光のようなものが浮かび上がり、キラキラと輝き出す。そこから冷たい風がザガートに向けて放たれた。風は大気中の水分を凍らせた雪を含んでおり、相手を凍てつかせようとする。
風の温度はマイナス五十度に達していた。バナナが瞬時にハンマーと同じ硬さになる寒さだ。
「フンッ!」
ザガートは喝を入れるように鼻息を吹かすと、正面に右手をかざす。彼の手のひらを中心として半透明に青く光るバリアがドーム状に張り巡らされた。
吹雪はバリアを破る事が出来ず、魔法の障壁に遮られる。
ザガートはそのままバリアを維持し続けたが……。
「……!?」
魔王が立っていた場所が、突然大きな影に覆われる。ふと空を見上げると、影の主である『何か』がザガートめがけて落下する。このまま動かずにいれば、謎の物体に押し潰される事は確実だ。
「くっ!」
ザガートはバリアを張るのをやめて、グレーターデーモンから離れた空間にジャンプする。次の瞬間、彼が立っていた地面に巨大な何かがドスゥゥーーーンッと音を立てて着地する。かなりの体重らしく、落下の衝撃で山全体が激しく揺れた。
「これは……ッ!!」
落下してきた物体を目にして、レジーナが驚くあまり目を丸くさせた。それもそのはず、戦場に姿を現したのは、もう一体のグレーターデーモンだったからだ。
「グレーターデーモンが二体……だと」
ザガートも思わず口にせずにいられない。
「……二体ダケデハナイゾ」
魔王の言葉に、最初のデーモンがニヤリと笑う。
「何ッ!?」
悪魔の呟きに驚いた瞬間、魔王の背後にあった地面が眩い輝きを放ち、白い光の柱が立つ。光の柱に包まれた状態で、もう一体のグレーターデーモンが、透明化を解除したようにスゥーーッと姿を現す。
最初からそこに立っていたのであれば、魔王が気付かないはずはない。どうやらテレポーテーションの魔法でこの場へ転移してきたようだ。
「フンヌッ!」
三体目のデーモンは開いた右手を高く掲げると、魔王めがけて全力で振り下ろして、横一閃に薙ぎ払おうとした。
ザガートは咄嗟にジャンプして相手の攻撃をかわす。だがそれによって敵の包囲の中心に着地してしまう。
三体のデーモンは正三角形を描くように配置しており、そのド真ん中に魔王が立っている構図だ。逃げ場は無い。
「何という事だ……敵が複数いたとは」
予想外の展開にレジーナが驚きを隠せない。一体だけでもかなりの実力を有する悪魔が三体いた事に、否が応でも不利な状況に追い込まれたと思わずにいられない。ルシルとなずみも魔王がピンチになったと受け止めて、胸をハラハラさせた。
少女達がうろたえた姿を見て、デーモン達が「クククッ」と声に出して笑う。
「ソウダ……我々グレーターデーモンハ、三体イル!!」




