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九一話 胃痛キリキリ尻もみもみ


 ゲルイド神聖国の要人に囲まれながらも、オクリーは希望を見失わない。


(――やっと、俺のやろうとしていたことが実る……。一先ずは正教の人達にも話を聞いてもらえる状況になったし、あと少しでアーロスの暴走を止められるようになるはずだ……!)


 数々の失敗を重ねてもなお諦め切れなかった夢、ケネス正教への転身。それが考えうる限り最も穏便な方法で実現しかけている。こんな嬉しいことがあっていいのだろうか。

 会議の流れはすっかり変わり、彼の生存は確定的だ。オクリーの持つ情報もとい前世の記憶の利用価値に気づいた正教幹部達は、彼を生かして邪教徒を全滅させようと息巻いている。そんな会議の終わり際、解散の直前にサレンが言った。


「この場にいる者に箝口(かんこう)令を敷く。今日の会議やオクリーに関することは他言無用とする」


 こうして散会となった地下室。再びオクリーの顔面に目隠しや猿轡が嵌められそうになった時、サレンがそれを制止した。


「オクリーと話がしたい。私がやっておく」

「……! 待ってくれ。それならクレスもここに残って欲しい、大切な話がある」


 サレンとクレスは目を見合せた。無言で頷いた大男は、続々と退出していく上層部を見送った。サレンはオクリーに対して肩を竦める。


「オクリー、先に話を済ませてくれ」

「そうか、なら単刀直入に尋ねさせてもらう。クレス、今の魔法習熟度はどのくらいだ?」

「どのくらいって……具体的に言うのはちとムズいぜ。結構使いこなせてる方だと思うけどな〜」

「脳味噌に電気を流して人を操る技術は身についているのか?」

「――お前、どこでそれを。一部の人間しか知らない極秘情報のはずだぜ」


 優男の眉間に深々と皺が寄る。空気がピリッと震えたのは気のせいではない。実際に静電気の如き魔法が奔ったのだ。クレスが異様なほどの緊張に襲われたのは、オクリーが情報通と言うには些か内部情報を知りすぎていたからだ。

 クレスからすれば、機密情報がポークのゾンビや敵諜報員に漏れていて、オクリーはそれを知っていただけなんじゃないか――とか、邪教のスパイは想像以上に正教に食い込んでいるんじゃないか――とか、色んな想定を深読みさせるには充分な発言だった。


 無論、これはオクリーの前世の記憶に基づいた発言だ。原作の流れを踏襲しているのなら、この時点でクレスの魔法技術はこのくらいだろう、と当たりをつけただけである。いらぬ心配をかけぬようオクリーは付け加えるが、やはり信用は得られそうもなかった。


「いや、この情報は邪教徒の中でも俺しか知らない。そこに関しては安心してほしい」

「……そうかよ」


 ここで、興味深そうな表情のサレンが突っ込む。琥珀色の瞳が輝いていた。


「ふむ、諜報員が仕入れたにしては些か情報の精度が高すぎるな。貴様、遮断された情報だろうが関係なく見抜く何か――断片的な真実を得られるような、我々の魔法に比べると格落ちの奇蹟――例えば千里眼のような能力(チカラ)を持っているのではないか?」

「……そう思ってくれて構わない。大事なところで役に立たないんだけどな」


 千里眼だと? 更に納得できない。全てを見通す力が邪教徒の青年に偶然宿り、しかもその青年がアーロスを裏切って正教に与するなんて、どんな偶然だ。

 訝しむクレスを見て、気まずそうに目を逸らすオクリー。「理由など求めるなクレスよ。運命の悪戯とはそういうものだ」とサレン。彼女達は知る由もないが、ドルドン神父にも似たような奇蹟じみた何かが備わっているので、あながち間違いでもなかった。


「……で、何か?」

「あぁ。セレスティアが洗脳されてアーロス寺院教団の拠点に囚われているのはさっき話したと思うが……クレスには雷の魔法を使ってセレスティアの洗脳を解消してもらいたい。もう少しのところまで来てるんだろ?」

「!」

「その技術はセレスティアを助ける鍵だ。聖都サスフェクトで『幻夜聖祭』が開催される時、セレスティアは必ず『転送』と共に姿を現す。その時までに『洗脳返し』を確実に習得(マスター)していてほしい。それが俺の伝えたかったことだ」

「…………」


 突然の宣告に言葉を詰まらせるクレス。内密に訓練していた技術――微細な電磁波をコントロールして人格や記憶を作り替えてしまう禁忌の攻撃――が思いもよらぬ場面で役立つかもしれないと分かって、己の拳を握り締める。

 アーロスの『国盗り』の野望のためには、願望の増幅器である聖遺物『天の心鏡』が確実に必要となる。その聖遺物の強奪には正教徒セレスティアの助力がマストだ。その時にセレスティアの洗脳を解消できればこの国の危機は去り、一転攻勢のチャンスとなる。


「今、アーロスの手伝いをさせられているセレスティアが一番辛いはずなんだ」

「そんなこたぁ言われなくても分かってる」

「頼まれてくれないか」

「いいぜ」

「本当か!?」

「あぁ、セレスティアを取り戻せるって希望が見えてきて嬉しいよ」

「そうか……良かった」


 オクリーはそれだけ話すと、すっかり満足したかのように目を閉じた。サレンはその様子を見届けた後、机の上に放り出された拘束器具を再び装着させ始めた。


 地下室を後にした二人は、地上へと進む昇降機の中で話す。


「奴と話すんじゃなかったのか、サレンちゃん」

「ちゃんはやめろ。そんな歳じゃない」

「で、実際のところどうしてなんだよ?」

「……奴と個人的に話をしてボロを出させようと思ったんだが、クレスとのやり取りを聞いて何も分からなくなった」


 サレンは先程、オクリーと二人で話をしたいと言ったばかりである。それなのに約束を果たさずさっさと地上へ上がってしまったのは、オクリーの心情が全く読めないからだった。


「あの男、本気(・・)だ」

「……あぁ。オレにもそう見えたぜ」

「オクリーの話には一応の筋が通っていた。邪教幹部の評価を稼ぐ傍ら、ポーメットを助けるなどして正教の肩を密かに持っていたのだからな。それに加えて、妙に納得感のあるセレスティア救出作戦の提示。……どれだけ奴を信用していいかは改めて議論の余地があるだろうが、もう少し判断材料があれば信頼しても良いとさえ思えてきている」

「うん、オレもそう思う。今のアイツは敵に塩を送りすぎだし、ちょっと揺れてるぜ」

「……本当に、最近はどうしてこうも問題続きなんだろう。心が乱れて仕方ないよ」

「今に始まった話じゃないけどな」


 最近、サレンの耳には異様な報告ばかりが飛び込んでくる。

 サテルの街の神父が実は殺人鬼で罪を裁かれることなく死亡しただの、セレスティアが気にかけていた有望株の少女が邪教徒の男に傾倒していてちょっと怪しいだとか、その邪教徒がアーロスを裏切ろうとして混沌とした状況になっているとか――サレンはそういう情報を一身に受け止め、場合によっては指示を下さねばならない。

 判断を誤れば国の滅亡に直結するかもしれないとあって、サレンは慢性的な胃痛が収まらなかった。全身が胃となってキリキリ締め上げてくる。全ての問題を不死鳥の業火によって薙ぎ払えたらいいのに、そう思わずにはいられない最高指導者サレンであった。


 数日後。再びオクリーに会おうと地下室へ行こうと教会から出てきたサレンは、己を引き止める少女の声を聞いた。


「サレン様!」

「マリエッタ? どうしてここに……」

「クレス様に偶然お会いして、オクリーさんと面会したいですって頼み込んだんです。そしたら、サレン様を見つけて聞いてこいって言われて……」

「あぁ……なるほど。却下する。君は帰れ」

「何でですかっ」

「君はオクリーのことになると冷静さを失うからだ」

「え……? 冷静でいられるわけないじゃないですか」


 逆ギレ気味に詰め寄る茶髪の少女。事も無げにハーフアップの髪の毛を撫でたサレンは、威圧感のあるつり目の双眸を細めた。

 この少女はとにかくしつこい。数十年間付き纏ってくる邪教徒並に執拗だ。なら、一度餌を与えてしまった方が良いか。サレンはクリーム色の髪の毛に指を通して、小さく呟いた。


「あの男に会いたいか?」

「はい」

「なら、目隠しと耳栓をしていろ」

「わっ分かりました!」


 マリエッタは手渡された目隠しと耳栓を装着し、終いには口を使って自分の両手を縛り上げようとしていた。

 そんな少女を担ぎ上げたサレンは、祭服をはためかせながら例の地下空間までやってきた。


 扉の内部にはオクリーがいる。ここまで来れば場所も分かるまいとマリエッタの拘束を解いたサレンは、彼女を部屋の中に導いた。


「……オクリーさん」

「会って何をするつもりでここに来た」

「……ただ単に、取り留めのない話を。ありのままに、思うがままに話をしたくて……」

「…………」


 マリエッタとオクリーはダスケル崩壊の際に知り合い、そこから続く腐れ縁だと聞いている。一度話をさせてやるのも良いだろう。サレンはオクリーの聴覚と視覚を奪っていた器具を取り外し、猿轡も外してやった。

 それを見て、セミロングの茶髪を揺らした少女は、地面に蹲るオクリーと目線を合わせ――ゆっくりと、しかし力の籠った両腕で彼を引き寄せた。


「ハァ、オクリーさん、フゥ、会いたかったです……!」

「ま、マリエッタ? ――ちょっ!?」


 突然覚醒させられたオクリーは、甲高い声を上げて身体を捩る。その視線の先には、腰を引き込むふりをして、しかと尻を揉みしだくマリエッタの両手があった。

 もちろんサレンもバッチリ目撃していたため、目を見開いて絶句していた。


 サレンはゲルイド神聖国の最高指導者であり、当然軍に所属するマリエッタの上司にも相当する。

 そんな者の前でやっていい行為ではない。二重の意味で。オクリーは邪教徒なのだ。二人の間に複雑な事情があるのは知っているが、彼に入れ込みすぎるのは危険すぎる。


 そして、こんな少女を()に上げるわけにはいかないと確信しているのに、歳の割には相当腕が立つため周囲からのプッシュも大きい。マリエッタの神輿を担ぐ人間は少女の本性を知らないのだ。

 あぁ、君さえしっかりしていれば何の憂いもないのに。頬をひくひくと痙攣させるサレンの傍ら、少女は申し訳なさそうにしながらも尻を捏ねくり回すのをやめない。


「やめないかマリエッタ。オクリーが困っているぞ……」


 彼の正体と自分の権威で以て窘めるつもりが、彼女の迫真さに気圧されてしまい、何故かオクリーの気持ちを代弁させられる形でマリエッタの暴走を止めさせられる。

 案外容易く引き下がったマリエッタは、涎を啜りながらオクリーを解放した。少女があれほど妬んできた某神父に似てきているのは、最早偶然ではあるまい。オクリーは怖気を鎮めるため、己の両肩を抱き締めるようにして摩っていた。


「失礼しましたサレン様。スゥゥ、あたし、自分でもどうしていいか分からなくて」


 マリエッタは十四、五かそこらの未熟な子供だ。親愛と嫉妬と敵意に振り回され、その上で恋心と性欲が入り交じって暴走しているのであろう。大人としては許容の心を見せてしかるべきであろう――が、マリエッタを次期幹部候補として見繕ってきたのは失敗だったなと胃が痛くなるサレンであった。


「許そう。この男は君にとっての命の恩人であり仇でもある。混乱していてもおかしくはないさ」

「申し訳ありません」

「もう気は済んだか?」

「いえ、実は話したいことがありまして」


 オクリーは突然睡眠から叩き起され、敵対する少女に臀部を揉みしだかれ、流石に状況についていけない様子だ。マリエッタは続ける。


「あたし、オクリーさんと聖都サスフェクトを観光したいんです」

「逢い引きでもするつもりか? この男にそんな自由を与えるつもりはない」

「いえ、実は――」


 マリエッタはサレンと視線を交わす。そして、部屋の隅に連れて行って小声で話し始めた。


「オクリーさんなら、アーロス寺院教団の成り立ちを知っているんじゃないかと思って……」

雄尻(デート)を愉しむついでにその情報を占有し、我々にチラつかせることで、彼の生殺与奪を決定する会議に参加したかった――この推察で合っているかね?」

「は、はい。お見通しのようですね。……この際なので聞きますが、サレン様は教祖アーロスの過去を知っているのではありませんか?」


 サレンの片眉がぴくりと反応する。


「教えたところで何になる」

「やはりご存知なのですね」


 食いつくマリエッタ。サレンは横目でオクリーを睨めつけ、「聞こえていただろう」と脅しをかける。彼は首を振って否定した。


「お、俺は知らない。邪教でもそれを知っているのは一部の人間だけだ」

「ふん。随分と都合の良い『千里眼』だな」


 その皮肉めいた言葉に、オクリーはぐっと唇を噛み締める。原作プレイヤーである彼も、アーロスの過去は詳細に知らないのだ。テキストから読み取れる情報としても、ゲルイド神聖国やケネス正教に絶望し、自死を遂げて復活したということくらい。

 設定としての過去は間違いなく存在するのだろうが、原作ゲームで語られたことがないのだ。痛いところを突かれてしまったなとオクリーは顔を顰めた。


「だ、だが、アーロスの過去を推し量ることはできる。奴はこの国の負の側面に絶望して暴走したんだろう」


 彼が『国盗り』に固執し、かつ、残虐な手段を用いて正教への復讐じみた攻撃を続けているのは、余程の過去と確執があったに違いない。

 そうして客観的に導き出された彼の結論は、サレンからすると凡庸な答えであった。


 そんなオクリーの推察を聞いて唇を噛み締めるマリエッタを見て、サレンは新たな考察に思い至る。

 生殺与奪の会議に参加したかったのは本心だが、彼女にはもうひとつの思惑があったのではないか、と。


 邪教に所属しながらも、正教に手を貸そうとするオクリー。彼に惚れてしまったマリエッタは、教団の過去を知ることで邪教徒とも分かり合えるんじゃないか――そういった類の幻想を抱いてしまい、捕らえられたオクリーがいつ殺されるか分からないという焦燥に駆られ、強引な手で会議に関わりつつ欲求を満たすためにデートを立案したのだ。


 なるほど、面白い。この少女はアーロス寺院教団と分かり合おうとしているのか。サレンは口角をゆっくりと上げるが、その瞳は全く笑っていなかった。


「――どうやら君は良からぬことを考えているようだね。まさか、邪教徒と分かり合おうと考えているのかい」

「ど――うして、それを。……そ、そうですよ! 悪いですかっ!? やっぱり今のあたし達はおかしいです! 同じ人間同士で殺し合うなんて異常ですよ!」


 マリエッタはこの場で初めて声を荒らげた。年少の頃から殺し合いの地獄を経験し、奪い奪われる恐怖を味わい尽くした。彼女だからこそ言える真っ直ぐな気持ちだった。


「あ、あたし達、歩み寄ることはできないんでしょうか!?」


 だが、対するサレンもマリエッタ以上の地獄を突き進んできた修羅である。少女の顔を見返すサレンの表情は、怒りでも悲しみでもなく深い諦めに満ちていた。


「歩み寄ったとも。分かり合おうとしたとも。だが奴らは聞く耳を持たなかった。あの男の本懐は復讐なんだよ。だから『聖遺物』に頼って一発逆転を起こそうとしている」


 話し合いをする段階なんてとうに過ぎていて、民の生命と財産を守るべく邪教徒を討滅しなければならない。そう力説したサレンに対し、マリエッタは力無く「そんな」と漏らした。


「だから何を話したところで意味がない。時間の無駄だ。あの男に従わされることになった者達は哀れに思わないでもないが――」

「そ、それ(・・)ですよ! アーロスに無理矢理従わされている人達!! その人達は、ほらっ、オクリーさんみたいに話せる人かも!!」

「……マリエッタ。俺は運良く洗脳の影響が弱く済んだだけで、大多数の信者は心からアーロスを崇拝して畏怖している。それに、アーロスは本気で理想の国を創ろうとしている。外の世界を知らない信者からすると、その夢だけが希望なんだ」

「……彼らとは分かり合えないってことですか」

「あぁ。実力行使でアーロスを止めないことには、この戦争は終わらないだろう」


 アーロスが生きていて、教団が存続する限り、犠牲者は増え続ける。正教徒だけでなく、孕み袋から生まれた無垢な命がアーロスの思考に染め上げられ、消費されていく。

 死の連鎖を断ち切るためには、もはや邪教徒を殺し尽くすしかない。そういうものなのだ。


「オクリーもこう言っている。デートは却下、面会も終わりだ。帰るぞマリエッタ」

「待っ――」


 しかし、マリエッタはオクリーを連れ出すための第二の矢を隠し持っていた。会話を打ち切ろうとするサレンの袖を軽く掴み、部屋の外まで連れ立った。オクリーから絶対に聞こえないところでサレンへ耳打ちする。

 オクリーと個別に話をするため、仲を深めるため、彼と二人きりになる時間が欲しい。マリエッタにとって大きな賭けにはなるが、決まれば有効な一手になるだろう。彼女は囁いた。


「さ、サレン様はオクリーさんのことを信頼し切れていないでしょう。他の上層部の方々だって、判断材料を欲しがっているはず。……で、ですから、あたしがオクリーさんの心を強く繋ぎ止める役割を担います」

「どういう意味かな」

「籠絡です」

「…………」

「オクリーさんは少なからずあたしに気があります。記憶を喪失していた頃にも交流していて、一緒にお風呂に入って交流した仲でもありますし。とにかく、あたしは正教陣営で一番彼と親しい自信があります。そこで寝技を仕掛けて、彼の心を完全に落とすんですよ」


 サレンは何度目か分からぬ呆れに襲われた。この少女は決定的に暴走している。というか、表向きはオクリーを正教に引き込むという建前を用意しておいて、裏でめちゃくちゃしてやりたいだけなのがバレバレではないか。歳頃の少女らしく短絡的である。

 それに、その程度で掌握できる貧弱な男なら、相当厳しい環境であろうアーロス寺院教団の中で成り上がれないはずだ。仮に快楽や情で流されてしまうならば、再度邪教徒サイドに転身してしまう恐れもあるため、生かすには値しない男ということになる。


(……が、マリエッタを使って試すのも手ではあるな)


 オクリーの腹を探って、これ以上余計な時間と手間をかけさせられるのは無駄と考えたサレンは、やや前向きに考え始めた。

 甘い誘惑に釣られるようなら、この接近もただの保身と見なして最高執行機関に報告して再度決議を行う。逆に、断固としてマリエッタを拒絶するのなら一旦は決着がつけられるだろうか。


 ただ、オクリーを野外に連れ出すには建前が必要だ。

 しばらく思考を巡らせていたサレンは、クレスの『洗脳返し』の訓練に立ち会ってもらうため護送を行う――という形で報告するのが最善と考えた。


(捕縛した邪教徒を収容している実験場は、この地下室とはまた別の場所にある。そこに移動させるという体で、クレスの修練に付き合わせるとするか)


 オクリーの言う『洗脳返し』はどのような形で完成するのかは、クレス本人でさえ分からない。実際の未完成な効果を見てもらい、助言してもらった方が、クレスからしても助かるだろう。

 そう結論づけたのは、マリエッタが「寝技を仕掛ける」と言って僅かコンマ一秒のこと。


「良いだろう」

「え、いいんですか」

「あぁ」


 マリエッタにしてみれば、渋い顔をされたかと思えば好意的な即答。意味が分からなかった。が、少女からしても好都合であった。


「ただし、暴走も程々にしておけ。有望株だの若さだの言って君を守るにも限度はあるからな」

「気をつけます」

「君が仕掛ける寝技には期待しているよ」

「任せてください。あたし、絶対落としますよ」

「…………」


 この自信である。もしかすると、寝技は寝技でも、夜伽の暗喩ではなく、本当の関節技とか絞め技なのではないだろうか。マリエッタは脳筋なところがあるから、その場合も考えておかなければならない。

 流石にそんなことはないか、と思いつつ、サレンは地上へ消えていく少女を見送った。


 少女に与えられる自由時間は夜になるだろう。召喚獣の使い手ジアターに頼んで、その間の二人の行動を見張らせておこう。

 その日が来れば全てが分かる。


 後日、サレンの企てが最高執行機関で認可された。

 オクリーの正体を暫定的に見極めるため、そしてセレスティアを救うための準備をするため、再び彼らは動き出す。




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第一巻が紙・電子版にて発売中!

そして第二巻が24年秋頃に発売予定です…!


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