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八八話 いっぱい出たね


 原作中の全てのルートを思い出した時、ヨアンヌが直接対決で勝利できていた正教幹部はセレスティアくらいなものだった。

 彼女が活躍した場面は特定の幹部戦と対モブ戦のみ。――もちろん強いのだが、分かりやすい強みを持っていないと戦いに置いていかれてしまう場合もあり、所謂ファンメイドの最強キャラランキングでは下位に位置するのが普通だった。


 ルートによって結末は異なるが、ノウンとヨアンヌの戦績は確か三勝九敗。うちノウン完全消滅一回、ヨアンヌ完全消滅二回だったと記憶している。


 ノウンが遠距離での多彩な攻撃手段を持っているため、相性的には完全にヨアンヌが不利。砂漠や船上など植物のない環境で戦うのならまだしも、戦闘になった場所が森というのもヨアンヌにとっては向かい風だった。

 しかも、ノウンは魔法ストレージ内に初見殺しの植物兵器を多数所持しているはず。ヨアンヌの勝機はかなり薄いと言っていいだろう。


(……けど、それは『原作』のヨアンヌの話。俺と混じり合ったヨアンヌはもう別物の存在に変貌している。この戦い、どちらが勝つか分からない!)


 俺はマリエッタと共に岩陰に隠れながら戦いを見守る。

 二人の攻防は俺達の反応速度を遥かに超越していた。先刻の俺に対する拘束は無意識に力をセーブしていたのだろう、ヨアンヌに対するノウンの魔法は地形を変動させるほどの威力を誇っている。


 森のあちこちに生えていた巨大な木の根が魔法に動かされ、地下でうねる。意思を宿しているかのように地面が大きく波打ち、大地が大きく破れた。

 余波で空中へ放り出されたヨアンヌは姿勢を制御しようと丸太を振り回すが、ノウンがその隙を見逃すはずもない。ノウンは敵を抹殺するため速攻を仕掛けた。


「空に逃げ場はないぞ?」


 防御不可の空中戦。巨大な葉を足場にしたノウンが、息もつかせぬ連続攻撃でヨアンヌを地面に下ろさない。

 ノウンの目にも止まらぬ攻撃がヨアンヌを襲う。己の身体を守ろうと盾にしていた丸太が死角から弾き飛ばされ、ヨアンヌの腕ごと血肉が千切れ舞った。


 大木の盾を失ったヨアンヌは、魚群のような植物の塊によって空に打ち上げられた。波濤に押し流されるようにして、肉が削られ、髪は千切り飛ばされ、華奢な身体に大穴が穿たれていく。

 嵐のような空中攻撃が止んだ後、バラバラにされたヨアンヌの残骸が重力の波に引っ張られて地面に降り注いだ。


 無論、残骸に変えただけでは言うまでもなく不充分。瞬きひとつ数える間に、ヨアンヌだったモノ達が集結し元の姿へと復活しつつあった。


「消え失せよっ!!」


 細切れになった肉片ごと粉砕するため、ローブを羽織ったノウンが岩盤と見紛うほどの巨木を顕現させる。

 その大きさにして、打突部だけで一〇メートルはあろうかという過剰なサイズ。超巨大な木槌の如き大木が、これまた過剰な振りかぶりと共に風を破った。


 陽炎に揺られたかのように風景が歪み、ヨアンヌの残り滓ごと虚空が削り取られる。

 少し遅れて、衝撃破。吹き飛ばされてきた礫や土塊が俺やマリエッタの腕を叩いた。


「ヨアンヌ・サガミクスが……死んだ……!?」

「いや――」


 ヨアンヌは転送先と言う名のセーブポイントを残しているはずだ。この森で合流したアレックスなどの邪教徒に肉片を託していると考えて良いだろう。もしくは、ほんの僅かに残留した彼女の欠片を見落としているか。

 俺と同じく「まだ決着はついていない」と考えているらしいノウンは、木槌を持ち上げて残心の構えだ。


 そうだ、それで良い。俺はノウンの油断の無さに感心した。

 今のヨアンヌに完全勝利するのは至難の業だ。以前と比べて治癒魔法の使い方に磨きがかかっているから、様々な不意打ちの可能性を考えなければならないし――


「もう出てもいいのかな……?」

「待て! ノウンが構えを解くまでは出るなっ」


 顔を出そうとしたマリエッタの腕を掴んで引き下ろす。

 まだ戦いは終わっていない。構えを解かないノウンの姿勢を見習うべきだ。


 そうして周囲に目を光らせていた時、ノウンに異常が発生した。


「ごはっ!?」


 何の前触れも無く、少女の胸から剥き出しの肋骨が生えてきたのだ。血を吐いて、僅かの間だけ意思を失ってしまうノウン。少女の身体から力が失われ、足場の上でバランスを崩していく。


「――あ、あれはヨアンヌの骨だ……」

「さ、さっきやられたはずじゃ!?」

「いや、見たから分かる。あの形に色。間違いなくあの子のものだ」

「……え?」


 恐らく肉体を砕かれる前に飛ばした肉片――例えば指の一部――をノウンの服に付着させ、油断を誘ったタイミングで肉体を再生させたのだ。

 骨格だけのヨアンヌは、鋭い刃物のように尖らせた肋骨に鋭い捻り(・・)の運動を加えることで、ノウンの身体を輪切りに切り捌いた。


 柘榴(ざくろ)のようにしてノウンの内臓がぶちまけられていく。

 後手を取ったノウン。その意思に操られて植物たちが攻撃を仕掛けるが、今のヨアンヌを攻撃するのは彼女と一体化した己を攻撃することに等しい。


 結局攻撃の手は中途半端になって、致命的な一撃を与えることはできなかった。大半の攻撃が己の身を削る結果に終わり、自在に肉体を再生させるヨアンヌを捉えることはなかった。

 そのまま二人の身体はきりもみ落下していき――互いに覆い被さるような着地。いち早く立ち上がったのは半死半生のヨアンヌだった。幹部の中で最も早く応用の利く治癒魔法を有する少女は、骨の身体に筋肉と脂肪の表層を纏い始める。


 回復した脚を薙ぎ払って地盤ごと削り取った少女は、周辺の植物を黙らせた後、そこら中に散乱したノウンの肉片を地団駄の要領で徹底的に叩き潰しにかかる。

 地鳴りのような足踏みが終わると、天を衝いていたノウンの植物たちが力なくしなだれ始めた。


 主が死んだのだ。最早、アルファ・プラントどうこうの話ではなかった。

 森からノウン・ティルティが消失した。


「そんな――ノウン様っ!!」


 ――負けた。

 せっかく正教側への架け橋が渡されそうだったのに、ここでマリエッタを殺され、俺は連れ戻されて全て終わってしまうのか?


 マリエッタの悲痛な声が実験場の森に響き渡る。

 俺も正教幹部の消滅という大事件に心が折れかけたものの、ノウンの優秀さを頼りに正気を取り戻していった。


(アルファを使う前に死んだ……? いや、あのノウンが『転送』の有用性に気づいていないわけがない。ヨアンヌのように、治癒魔法の射程範囲内にセーブポイントを用意しているはずだ。……アルファを使わなかったのは、情報の隠蔽を優先したからか?)


 例の植物兵器は、初見時に大きな効果を発揮する。しかし、二度三度と見せつけられれば、対アルファ・プラントの発送が湧いてくるかもしれぬと言うもの。

 不運にも出会ってしまったヨアンヌに対して、その場しのぎの手段として見せるべきではない。ダスケルの街で実践された移動要塞計画のように、最も効果的なタイミングでぶち上げるべきなのだ。


 この戦争は情報戦の段階から始まっている。秘策は最も有効な時に打ち出すべきだと考えて、ノウンはアルファを使うことなく戦ったのだろう。


(でも、俺はともかく、マリエッタという優秀な兵士を失うのは相当痛いはずだ。マリエッタを犠牲にしてでも守りたい情報だったのか?)


 ノウンは最良の自衛手段を使わずに殺された。アルファは素晴らしい植物兵器だ。

 匂いを嗅いだ時点で昏倒が確定するという理不尽な性能。初見でカラクリを見破るのは相当難しく、ヨアンヌといえども甘い香りを嗅がされれば少なくとも短時間の昏倒は免れないだろう。


 そのアルファを、取り出す素振りすら見せなかった。まるで、強烈な後ろ盾があるから、使う必要も無いだろうとでも言うような。


(……まさか……ヨアンヌと戦っている最中、根を通じてポーメットを呼んでいたのか……!?)


 高速で回転する思考。コマ送りの如くゆったり流れる世界の中、俺はノウンの言葉を記憶の中から探り当てる。

 彼女はこう言った。「ポーメットと連絡を取って合流するのが先決じゃな」と。ポーメットだ。あの子はこの森から最も近い場所にいる。サテルの街か、聖都サスフェクトか。どちらにせよ、全力で飛ばせば数十分と経たずに援護に駆けつけられる。


 ノウンは真正面から敵と戦うことを良しとしない。触手の如き植物やアルファ・プラントの性質から分かる通り、どちらかと言えばサポート型……面での破壊力と瞬発力が劣るタイプだ。ポーメットを呼んでいてもおかしくはない。

 そして、落下したノウンが結果的に無抵抗で殺されたように見えたのは……時間稼ぎが終わり、復活地点(リスポーンエリア)でポーメットと合流する準備が整ったからだ。


「ノウン様、そんな――あたし、どうすれば――」

「いや、大丈夫だ。戻ってくる。マリエッタを守るために」

「……!?」


 戦闘開始からしばらく。激しい戦闘が終わって息を整えていたヨアンヌの元に、新たな二つの影が襲いかかった。

 一人目は金髪碧眼の女騎士ポーメット。遥か彼方から冗談みたいな速度で跳躍してきた彼女は、空中ですれ違いざまにヨアンヌの身体を一刀両断した。


 ポーメットの魔法は精神エネルギーを刃に変える能力。実際の刀身に加算される形でエネルギーの刀身が追加され、その長さは精神燃焼の程度によって自在に操ることが可能だ。

 そして、エネルギーの刃は万物を切り裂く。切れ味が落ちることもなく、抵抗なしにあらゆる物質を焼き切ることができる。


 そんなポーメットの『最強の矛』がヨアンヌの柔肌を撫でればどうなるか、言わなくても分かるだろう。

 じう、という焦げた音を上げて、ヨアンヌの上半身と下半身が瞬く間に分離していた。


「ッ……ポーメット・ヨースターッ……!?」


 リーチの勝負では圧倒的にヨアンヌが不利だ。間合いを詰めないとまずいと考えのか、上半身だけになった少女は己の頭部を真上に引き抜いた(・・・・・)

 捻りを加えて頭部を抜き取ると、ずろろ、という籠った音を立てながら、百足の如き脊椎が姿を現す。抜け殻になった上半身だけで生首を持ち上げると、ついてきた背骨を先端にして、槍投げの要領で全力の投擲。凄まじい風切り音と衝撃波を残して、槍となったヨアンヌがポーメットへ一直線に飛んでいった。


 既に着地していたポーメットは迎撃の体勢を取る。エネルギーの刃を薄く引き伸ばし、剣を回転させる。まるでシュレッダーだ。触れるだけで一方的に焼き切られる最強の矛を防御に使っているのだ、大抵の者は彼女に近づくことすらできない。

 しかし、捨て身のヨアンヌは全く怯まない。速度も方向も変えず、勢いを増しながらポーメットの矛へ突貫していく。


 直後、激突。バシュッという呆気ない音が弾け、ヨアンヌの身体が血の一滴、細胞の一片すら残さず消滅――


取り零したな(・・・・・・)、ポーメットッ!!」


 ――しなかった。

 弾け飛んだ身体の一部――ほんの僅かな一部が残留していたのだ。


 間合いの内側、剣と胴体の間に滑り込んだヨアンヌは、再生し切っていない右腕の骨格でポーメットに殴りかかった。


「ふざけた戦い方を!!」

「これしか知らないモンでね!!」


 再生途中、(きり)のように鋭く尖った尺骨と橈骨で女騎士の左腕を貫く。攻撃を優先したためか、少女は骨格と最低限の肉だけで立っている状態だった。

 無茶苦茶な攻撃を受けて足場から落下するポーメットと、それを倒れ込みながら追いかけるヨアンヌ。ポーメットは受け身も取れずに地面をもんどり打って、瞬時に肉体を復活させたヨアンヌにマウントを取られてしまう。


 あんな芸当が可能なのはヨアンヌだけだ。それに、以前にも増して野性的で畳みかけるような戦法に磨きが掛かっているような気がした。

 だが、ポーメットも負けていない。素早く聖剣を手放して反撃に出る。ワタシにも拳はあるぞと言わんばかりに振り抜いた拳が、ヨアンヌの顎にクリーンヒット。ポーメットは人間を超越した幹部の肉体に甘んじることなく、己の身体を虐め抜き鍛え上げてきた。その拳から放たれた重い重い一撃は少女の下顎と上半身の一部を抉り取り、優位を取ったはずのヨアンヌの攻撃をほんの少しだけ怯ませた。


 ――ここまでが、ポーメット襲来から一五秒の間に起こった出来事だ。ここからは、二人目の到着によって戦局が大きく変わっていく。


「!」


 二人目の刺客はノウン。裸の上にローブのみを羽織った状態で復帰してきたようで、風に靡いたローブは危うい場所の寸前までを晒していた。

 無論、恥じらいなど、この場において最も忌避すべき感情。敵を打ち倒すため、仲間を助けるため、この場に降り立ったノウンは魔法を振り翳した。


 ノウンが『魔法ストレージ』から取り出したのは、埃のような白い塵。否、あれは胞子だ。

 手のひらに集めた胞子を、窄めた口からの吐息で風に乗せる。風が運んで、胞子がヨアンヌの元へ向かう。追い風に乗せてポーメットとの同時攻撃を仕掛けるつもりだ。


 女騎士がヨアンヌの顎を撃ち抜いた瞬間、ノウンの放った胞子が少女に着地する。

 皮下組織が剥き出しになった下顎と上半身に沁み込み、一瞬で白い根を押し拡げた謎の苔――カビかもしれないしキノコかもしれない――は、ヨアンヌの肉体を内側から崩壊させ、細胞同士の結合を解れさせて無効化していく。


 細胞ひとつひとつを殺され、ボロボロと崩れ落ちるようにして瓦解していくヨアンヌの身体。素早く頭部を切り離して決壊を止め、復活しようと画策するが、その隙をポーメットが見逃すはずがなかった。


 巴投げでヨアンヌを空中に投げ飛ばしたポーメットが、無防備になった少女へ渾身の一撃を叩き込んだ。

 空気を切り裂く聖剣の一太刀。精神エネルギーを注ぎ込まれ、全長数十メートル、厚さ数メートルにまで肥大した半透明の剣が、ギロチンの如く叩き落とされる。剣が大きすぎて回避は不可能だった。


 エネルギーの激流に肉体を削り取られ、少女の姿がぶれたかと思えば――鎖骨以下の身体が一切消滅し、胞子によって消えゆく少女の生首が地面に叩きつけられた。


 砂の城のようにヨアンヌの顔面が崩壊していく。残った生首も全て胞子に侵食され、もはや消滅するしかない運命だ。

 もちろん、そんなヨアンヌを前にしても一切の容赦はしない。脆くなった彼女の顔面に、ノウンの魔法が形作った巨大な木槌が叩き落とされた。


「次からは一〇キロメートル四方を焼き尽くさないとな――」


 水を掬うように振り抜かれた超質量が、ヨアンヌの残り滓を残さず攫っていく。その場に残留したのは、戦いの後の静寂だけ。瞬間の判断が勝敗を分かつこの状況では、身体を回復させる時間を与えないことが正しい立ち回りである。その考えに忠実だった二人が勝利し、ヨアンヌは敗れ去った。


 ヨアンヌの最後の言葉は、恐らく嫌味でも何でもない『気づき』なのだろう。

 一〇キロメートルという数字は、ヨアンヌ以外の幹部が扱う治癒魔法の射程である。やはり今のヨアンヌは、元来の彼女と比べて遥かに頭の回転が早くなっている。その事実にぞっとしながらも、俺らドルドン神父から始まった一連の流れが終わりを迎えようとしていることに安堵していた。





「……クソッ、オクリーを取り逃したか……!」


 胎盤から這いずり出てくるかのように『転送』してきたヨアンヌは、アレックスの足元で死と敗北の衝撃に打ちひしがれた。

 ヨアンヌが突然生えてきたことに驚く金髪坊主。アレックスは慌てて少女の元に駆け寄り、何が起こったのかを尋ねる。


「な、何があったっすか」

「ポーメットとノウンにアタシのオクリーが奪われた。あの女共――余計な真似をしやがって……!」


 手首が有り得ない方向に折れ曲がるほど強く拳を叩きつけるヨアンヌ。ドルドン神父の折れた手に掛けられたオクリーの服をかっ攫った少女は、すんすんと鼻を鳴らしながら彼の匂いを肺の中いっぱいに吸引した。


「最悪だ……」

「……の割には冷静っすね、ヨアンヌ様……」

「まぁ、良い情報が取れたからな」


 ヨアンヌはオクリーのシャツを吸い込みながら冷静に思考する。


(正教の奴ら、分離させた肉片を治癒魔法の射程範囲内に置いて、復活の保険をかけてた。どうやらアタシ達の作戦の有用性に気づいたみたいだが……まだ甘いな)


 攻撃的に肉片を使う邪教徒と違って、正教側の使い方は防御的だ。拠点の位置が特定されればまた違う使い方をされるのだろうが、とにかく今の正教側は『肉』の使い方が甘い。

 先んじて半径一〇キロメートル以内の領域を攻撃し、肉片を所有する正教徒ごと消し炭にしてやれば対策は完了だ。ヨアンヌによる岩石投擲の雨霰、スティーラによる熱線放射……ひと手間で大地を均す方法などいくらでもある。


 都市攻撃や戦略の幅を広めつつある邪教に対して、正教側の進化は乏しいように見えた。ノウンの防衛兵器などに磨きがかかっている面はあるが、それまでだ。オクリーの編み出した移動要塞計画には及ぶべくもない。


「オクリー先輩とはしばらく再会できないっすけど、大丈夫なんすか?」

「……『小さな世界』が実現した時、最終的にアタシの隣に戻ってこれば良いだけの話だ。その時は存分に愛してやるさ」


 アレックスの問いかけにヨアンヌは平然とした調子で答えた。

 オクリーの野望はケネス正教を勝利させ、アーロス寺院教団を滅ぼすこと。対するヨアンヌの野望は、両陣営の壊滅と夢の世界の実現。どう足掻いても二人の未来は交わらない。

 ――オクリーがケネス正教側に傾倒していくのは逃れられぬ運命だったのだ。


 オクリーとヨアンヌは己の命運を賭けて再び衝突するだろう。

 その時が来るまで、ヨアンヌはオクリーの無事を願うばかりだ。

 そして、完膚なきまでに叩きのめし、ボロボロになった彼を包み込み、蕩かして、唆して、従わせる。


 彼の命を救うため、最高の準備を。

 普通の少女と普通の少年同士で暮らせるように、最高の計画を。


 道化師アレックス、堕ちた神父ドルドン、狂愛の少女ヨアンヌは、実験場の森から去っていった。


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