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一一七話 「本当のことを言って」


 亡霊のように佇む少女を前に、オクリーは何の言葉を掛けることもできなかった。

 今までのヨアンヌとは何もかも違う雰囲気。熱気渦巻く聖都に似つかわしくないほどの冷えきった空気が流れ込んでくる。


 ――気をつけろ。次の言葉掛けを誤れば、恐らく自分はヨアンヌに殺される。

 幾ばくかの逡巡の後、ぱくぱくと口を開閉させて言葉を咀嚼したオクリーは、震えそうな声で問いかけた。


「……うそつき、って、どういうことだ?」


 呼吸で僅かに上下していたヨアンヌの肩の動きが止まる。瞳は前髪で隠れているため意思が伝わってこないが、オクリーは言葉掛けに失敗したのだと直感する。


「……オマエ、こんな時に限ってウソをつくのが下手なんだな。あはは……」


 一瞬、超高速で接近してきたヨアンヌに心臓を貫かれる幻覚を見た。実際の彼女は乾いた声で笑うだけで、何もしてこない。

 しかし、自分の言葉で彼女の怒りを募らせたのは理解できた。


 ひとしきり掠れた声で笑ったヨアンヌは、俯きながら肩を震わせ始める。

 大粒の涙が少女の頬を伝い、顎から雫が零れ落ちた。


「オクリー……何でスティーラを救ったんだ……? アタシは……? アタシのことは、どうなんだよ? 好きなんだよな? 愛してくれてるんだよな? 一人だけでいいじゃないか。寄り道なんかするなよ……」


 ヨアンヌは細い手首で涙を拭いながらオクリーの元へと接近していく。人混みの中、やっと母親を見つけた幼子のような足取りで、ぺたぺたと近づいていく。

 今のヨアンヌは、怒ってるのか落ち着いているのか、弱気なのか強気なのか掴めない。あまりにも不安定で、下手に触れると大爆発を起こすだろう。


「……お、俺が本当に好きなのはヨアンヌだけだ」


 ヨアンヌの激情がふつふつと煮えていく。

 青年は直感する。どんな受け答えをしようとも、ヨアンヌは怒り狂う定めなのだと。彼女がこうなった時点で、正面衝突は避けられないのだと。


 星空が陽炎で歪む中、熱風が二人の間を駆け抜ける。ヨアンヌの前髪がふわりと舞い上がり、螺旋状の双眸が露呈する。

 泣きながら笑っている。微笑を称えているはずなのに、目が全く笑っていなかった。激情の雫だけが滴り落ちている。

 目が合った瞬間、オクリーの心の中にヨアンヌが感じている怒りや絶望の全てが流れ込んできた。


「少しは分かったか? アタシがどれだけ辛い思いをしているかを……」


 疑念、懸念、不安、不信。最愛の人に捨てられてしまうのではないかという底無しの恐怖。一方通行の愛ゆえに、相手の本当の気持ちを踏み躙ってしまったのではないかという自責心。相手が隠していることを打ち明けられないほど信頼されていないのだという失望。落胆。

 それらが一緒くたに掻き混ぜられて、心という名の器で煮込まれて、恋敵の死に直面して、その際にかけていたオクリーの言葉が脳裏に焼き付いて――感情が爆発した。


「――アタシの救世主(・・・)になるんなら、ウソや隠し事なんてするなよおッッ!!!」


 悲壮感に溢れた絶叫の後。

 少女の右手が残像と化し、青年の顔面に向かって振り抜かれる。

 ヨアンヌ渾身の右ストレート。

 咄嗟に盾で受け流し、耳元を掠めさせる。ぱんという炸裂音が木霊して、左耳の鼓膜が破裂する。


 まともに食らっては即死だ。オクリーは真後ろに転がって、体勢を立て直しながら半身になった。

 左耳から生温かい液体が滴っている。何が垂れているんだと肩を回して服に付着させると、べったりと血が付着していた。


 痛みはない。それ以上に胸が苦しい。血と汗でびっしょりと濡れ、肌に癒着するほどの重さを持った服が動きを妨げ、胸の違和感を助長している。

 冷たい金属で鳩尾をずぶりと刺されたような感覚が付き纏っていた。ヨアンヌのうそつき(・・・・)という言葉に心を抉られてしまったが故の幻覚であった。


 心臓や背骨の芯が凍りついて、全身の動きが鈍くなる。あまりにも冷たいものを叩きつけられて、全身を駆け巡る血流すら冷え切っていた。


「ま、待て……! 何を言ってるんだヨアンヌ!! 俺は嘘なんかついてない!!」


 オクリーは鋭く痛む胸を押さえつけながら、ヨアンヌから一定の距離を置く。それはまるで、少女の悲痛な叫びから目を背け続ける現状の如く――

 言い訳じみた言葉を叫ぶオクリーに対し、ヨアンヌは本物の殺意を纏いながら追いかける。速度の差は歴然。二人の距離は一瞬で縮まり、オクリーの盾とヨアンヌの右脚が衝突した。


 オクリーが四肢を投げ出しながら吹き飛ばされる。数十メートル以上地面を転がされ、土煙を撒き散らしながらやっとのことで静止する。

 青年はがたがたと震えながら立ち上がろうとしている。ヨアンヌの攻撃をまともに食らって生きていることが奇跡だった。


「ウソをついてないって……? どこが、どこがだよ!! ずっと、ずっとずっと、隠し事してたんだろ!!? 気づいてないなんて言わせないぞ!!」

「き、気づいてないって何のことだよ……! 俺は本当に嘘なんて!!」

「――舐めたこと言ってんじゃねえ!! あの時からずっと引っ掛かってることがあるんだよ!!」


 ヨアンヌが口を開く度に、ぎくりとする。何のことを言っているのか本当に分からないのに、思い当たる節があるような気がしてしまう。

 ――まさか、前世の記憶を言い当てられているわけではあるまいな。オクリーは襲いかかる力任せな拳を紙一重で回避し続けながら、今まで経験したことのない漠然とした不安に襲われた。


 彼にとって『前世の記憶』は絶対的な秘密にして心の拠り所である。

 この世界の住人には絶対に打ち明けてはならぬ。余計な心労が増える上に、問題の種にしかならないからだ。それに、現代日本において当たり前だったことが、この世界の常識を一変させるゲームチェンジャーになりかねない。故に彼はどんなことがあっても口を閉ざしていた。


 オクリーはかつて『前世の記憶』によって手痛い失敗をした。前世の記憶に引っ張られて視野狭窄に陥り、『正史ルート』に拘って破滅寸前まで転げ落ちた。

 メタシムで散々な目に遭って以降は、知識・情報で頼る程度に留めて精神的依存を脱却し、この世界の『絶対的真理』たる情報源として活用する程度の向き合い方をしてきたわけだ。


 だが、彼は『前世の記憶』もとい『この世界の攻略法』を知っていることそのもの(・・・・)が及ぼす精神的安寧や思考に及ぼす間接的なアドバンテージを軽視していた。

 それこそがすれ違いの原因だった。


「まず、回復薬や火薬をどうやって調合していた!? 下手すりゃ事故を起こして死んじまうっていう危険な代物を、誰にもバレることなく作り上げるなんて不可能だ! 特に爆弾――まともな素材も実験場所もなかったはずのに、いつどこでどうやって完璧な代物を作り上げた!?」

「それは――本を読んだんだ。それで、爆弾は夜に洞窟の中で作って」

「だったら、いつ字が読めるようになった!? 孕み袋出身の信者は使い捨ての有象無象だ、まともな教育なんて受けさせてもらえねえ!! 余計な知恵をつけさせないためにだ! それをオマエは『本で見た』だと……? 前提からしておかしいじゃないか!!」


 ヨアンヌが今まで感じてきた疑問が矢継ぎ早に繰り出される。早口な言葉と比例して少女の攻撃は強まっていき、またそれに呼応して青年の言動への批難が過熱した。

 オクリーの足が縺れる。ヨアンヌがマウントポジションを取る。彼女からすればオクリーの脳天を打ち砕くことは容易かったものの、いつでも殺せるという状況を利用してオクリーの受け答えに聞き入った。


「字は読み書きから我流で身につけた! 使い潰されるのが目に見えてたからな……!」


 オクリーが完璧に身につけている言語は、日本語と、この大陸の言語の一種。ゲルイド神聖国を含む周辺国域で使用される共通言語だ。オクリーはその言語をこの世界に転生してから独学でマスターし、読み書きできるまでに至った。加速的な成長を与えられた孕み袋出身者ならではの学習速度が功を奏した形になる。

 ただ、ヨアンヌからすれば『体系的な学習の仕方』を知らないのが有象無象のはずである。彼の言葉はヨアンヌの疑念を拭うに至らない。


「なら、魔法使いの能力を知り尽くしていたのは何故だ?」

「…………」

「アーロス様の能力の一部を『認識阻害』と断定できたのは何故だ? そもそもケネス正教に拘りだした理由は何だ? 古城拠点っていう小さな世界しか知らないオマエが、どうして敵陣営に同情的な行動を始めた? ――オマエの何もかもがおかしいんだよっ!!」


 ヨアンヌの右手が地面を強く叩く。地に押し倒されたオクリーを檻に閉じ込めるように四肢を下ろし、出会った頃より伸びたヨアンヌの髪がカーテンのようになって、二人の視線は互いに釘付けになる。

 一つひとつ挙げられた不振な行動は、ほんの片鱗である。ヨアンヌが最も言及したいのはもっと奥底に位置している。


「オクリーには別の何かが取り憑いてるように見える時がある。どこか別の場所から行動理念や知識を与えられてるみたいな……。そんな気がしちまうのは、アタシの思い込みなのか……?」


 この世界の(・・・・・)正解を知っている(・・・・・・・・)――それ自体が言動に及ぼす影響は多大であると、オクリーは今この瞬間思い知った。


 迂闊だった。ヨアンヌの言葉を聞いて突きつけられる。『前世の記憶』を知らない者からすると、自分の合理的な行動が全て不気味に映るのだ。

 この世界はゲームではない。生きた人間だけが存在するリアルだ。あの日、痛いくらいに思い知ったはずなのに――


(俺は、そんな簡単なことにも気づかなかった……?)


 ヨアンヌの心を上書きするために、所持していたコインを全て賭けて、生きるか死ぬかの大博打に出た。

 ――テーブルの外に隠したコインがあった。その存在がある限り、ヨアンヌとオクリーの精神面の戦いはオクリーが圧倒的に有利だった。


 結局、隠されたコインの存在をヨアンヌに知らせることはなかった。あの対決に勝利した以上、ネタばらしとして打ち明ける意味も無かったからだ。


 オクリーは大一番に勝つまでのことしか考えていなかった。気が回らなかった。隠したコインの存在をヨアンヌに伝える必要が生まれたことに、毛ほども気づかなかった。

 それが尾を引き、ヨアンヌの不信を生み、『小さな世界に至る計画』を実行させるに至った。臓器を交換した直後に気づいてさえいれば、二人は本当の意味で分かり合うことができたかもしれないのに。


 側頭部をバットで殴られたかのような重い衝撃がオクリーを襲う。

 またしても致命的ミスを犯していた。しかも、この世界に混沌の種を撒いたのは他でもない自分自身なのだと突きつけられて――ショック、などという一言で形容するにはあまりにも衝撃的な過ちに、呼吸することすら止めてしまった。


「スティーラを救って散らせてやったのも、アタシの知らない『何か』の後ろ盾があったからなんだろ!? 常にオクリーのことだけを考えて行動してきたアタシよりも、スティーラの方が大事になったから、アタシより先に心を救ったんだ!」

「……!? ち、違う。ヨアンヌより大切な人なんて――」

「――だから! オマエの根本にウソがあるから!! 何もかも信じられなくなってこう(・・)なったんだろうが!!」


 『小さな世界に至る計画』が生まれた真の原因は、オクリーが抱いていた心の奥底の願望から来たものでも、ヨアンヌが生来持ち合わせていた混沌や独占欲から来るものでもなかった。

 勘違いしていたのだ。今まで一体、何をしていたんだろう。

 目を見開き言葉を失うオクリーの頬に、大粒の涙が落ちる。ヨアンヌの不安の意味が理解できてしまって、己の愚かさに吐き気がした。


 ヨアンヌが怒りに任せて大地に爪を立て、地鳴りを轟かせながら沈降させていく。膂力のみで大地を圧し潰しているのだ。

 熱された空気から火花が散りそうになって、二人の身体に力が篭もる。再度、本気の殺し合いが始まろうとしている。


「オクリーの心の中を全部見たはずなのに、そのどこかにウソが紛れてて――そのせいで、最初は言葉を、次に信念、最後はオマエの気持ちまで信じられなくなった!! どうしてくれる!!? こんなことになるんだったら、知らない方が良かった!! 怖い……怖いよ……! オマエが何を考えてるか分からないことが、こんなにも怖いなんて、知らなかった……!!」


 ヨアンヌの涙は止まらない。眉間に深々とした溝を刻み、大口を開いてオクリーに怒りをぶつけて、肩で息なんてしながら冷静さをかなぐり捨てている。

 まだ彼女の怒りは鎮まらない。それどころか加速していく。今この瞬間、オクリーの全てを暴いてしまわなければ、自分が自分でなくなってしまう。ヨアンヌはオクリーの胸ぐらを掴み上げ、今なお愛してやまない相手に拳を振り上げる。


「オマエが悪い……! 一個破綻したら、何もかもダメになった……! 全部オマエのせいだ!!」


 首の捻りでヨアンヌの攻撃をやり過ごす。襟首を掴む手首に噛み付き腱を断ち切ると、オクリーはようやく彼女の拘束から逃れることができた。


「全部……俺のせい?」

「そうだ!!」


 オクリーは地面を転げ回って立ち上がる。

 全部お前のせい。その物言いに、心の片隅を針で突かれたような不愉快な気分になった。次第にむかっ腹が立ってくる。


「全部、俺のせいだと……?」


 オクリーはヨアンヌの内面に直接働きかけて、意図した通りの行動を取らせようとした。その最中に、至らない部分は確かにあったかもしれない。

 だが、彼女を愛していたのは事実だ。

 でなければ、こんなにも惨めったらしく悩んで悔やんで苦しんだりしない。


 一方的なヨアンヌの怒りに、腹の底がふつふつと煮え滾った。

 彼女の物言いに、内なる怒りを押さえつけていた心の堰が決壊する。こめかみの辺りで糸が切れるような音がして、腹の底から怒声が巻き起こった。


「ふ、ふざけんな……! 元はと言えば、ヨアンヌ、お前が悪いんだろ!! まともな手段でコミュニケーションを取ろうとしなかったお前のせいだ!!」


 今まで気圧されるだけだったオクリーが一変、反抗的な態度で声を荒げる。

 ヨアンヌも負けじと金切り声を上げた。


まとも(・・・)って何なんだよ!? 世界基準か!!? アーロス寺院教団基準か!!? アタシ達二人の基準か!!? 心を溶かし合う方法と手段を決定したのはオマエだろ!!?」

「お前が選ばせたんだろ!!? 棚に上げるなよ……!!」


 そう。本当は内臓交換なんて嫌だった。出来ることなら言葉を尽くした(・・・・・・・)コミュニケーション(・・・・・・・・・)()ヨアンヌの心を(・・・・・・・)動かしたかった(・・・・・・・)

 当時の彼女には不可能だと思ったから――結局今もそうなのかもしれない――オクリーが折れたのだ。彼女の暴力性、権力、地位、その全てに敵わないと悟ったから、譲歩した。ヨアンヌはその事実から目を背けて己の苦しみを棚に上げている。


 だが、ヨアンヌからすれば、オクリーは頭脳のみで幹部に比肩する対等な者(・・・・)だった。このヨアンヌの男になりたいのなら成り上がってみせろと言った時、彼は首を縦に振ったではないか。了承していたのだ。

 その事実を踏み躙られた。対等だと思っていたのに、そうではないと言われてしまった上に、あの心の対話を全て否定されてしまったような気がして……オクリーの口から飛び出した拒絶の言葉は、ヨアンヌの心に大きな亀裂を走らせた。


「……あの決着を、アタシが選ばせた? 違う、違うよ……。あの時は、二人で選んだんだろ? 一緒に、そうしようって……」

「馬鹿言え、あの時はヨアンヌがハマってたプレイ(・・・)に乗っただけだ。お前、当時の倒錯を忘れたわけじゃないだろうな?」

「――え」

「その傍若無人で暴力的な振る舞い、ずっと嫌いだったよ! お前の行動が(・・・・・・)俺をこうさせた(・・・・・・・)とは一欠片も考えない、自己中心的で血の通ってないお前のことがな!!」

「ひ、酷い……。酷いよオクリー! 何も、そんなまで言わなくたっていいじゃないか!」

「お前は自分の立ち居振る舞いを見直したことがあったか? 無いだろう。お前は俺を批判してるが、結局、至らないところがあって人を苦しめてるのはお前も同じなんだよ!!」

「おっ、オマエ……オマエええっ!!!」


 言いたい言葉、言いたくなかった言葉、ここで言うべきじゃない言葉、感情のあまり認知の歪んでしまった虚実の言葉、無意味に怒りを引き出してしまうような言葉、その全てが溢れ出す。

 お互いの心の中を見透かしているから、本当に言いたいのはこんなこと(・・・・・)じゃないと薄々理解しているはずなのに、その全てが夥しいほどの怒りに塗り潰されていく。オクリーがヨアンヌの過去を批判し始めてしまった時点で、立ち止まるタイミングは消え果てた。


「オクリーッ!! オマエはさっきから分かってねえ!! 策略を練ってるフリして盤面を見通せちゃいなかったオマエが、アタシをこうさせた(・・・・・)んだよ!! 心を通わせる前にでも、隠し事を打ち明けてくれてたら、アタシはオクリーに従属したさ!! そもそも全部、ウソつきなオマエのせいなんだよ!!」

「違うだろっ!! セレスティアと戦ったあの森の時から、お前は有無を言わせない暴力性で俺を上から支配していた!! 俺が発狂したのも、世界がめちゃくちゃになったのも、全部お前のせいだっ!!」


 二人の間に致命的な溝が生まれていく。

 売り言葉に買い言葉。人間の誰しもが起こしてしまう失敗、或いは環境や生まれによって本人が望まないにも関わらず身についた個性、それらの繊細な問題への批判を含有した悪言が、相手を傷つけるためだけに飛び交っている。


「なら、テメェはそうやっていつまでも他責し続けろよ!! オマエの一貫性のなさが、結局ハッピーエンドなんて程遠い混沌を巻き起こした――その事実から一生目を背けてろ!!」

「っ……!! ヨ、アンヌっ……!!!」


 もう止まらない。

 本物の殺意が溢れ出す。


 命を脅かす敵に向けられるどす黒い感情が、愛してやまない相手に向けられる。

 これまでは愛の担保があるために半殺しまでで済んでいたところだが、今は絶対に止まらない。後々後悔するとしても、今の感情は冷静さを超越した激情を獲得している。簡単に息の根を止められるだろう。


「ぶっ殺す!!」

「お前だけは許せない!!」


 その言葉は、愛によるものか、敵意によるものか。

 限界線(ボーダーライン)を超越した二人の感情が、脳幹の攻撃命令を下した。


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