一〇三話 ランゲルハンス島旅行券
「急患だ! どいてくれ!」
オクリーを運ぶ兵士達。彼らを先導していた兵士サンフレームは実験場の扉を押し開いた。ホセ達は包帯で蓑虫のようになったオクリーを大広間のソファに下ろす。
建物の奥からジアターとノウンが小走りでやってくる。二人は瀕死のオクリーを見下ろして、痛ましげに表情を歪めた。
「これは酷いのう。……ジアター、おぬしがムスコの処置をしてやれ」
「わ、わたしですかぁ? ……その、おちんちんについてよく知らないので無理ですよぉ……」
「わらわもちょっと自信なくて。座学だけではどうにも」
「二人とも何やってんですか! オクリーさんのおちんちん使えなくなったらどう責任取るつもりです!?」
ノウン、ジアター、マリエッタが言い争う。早急に局部の接着を行わない――というより知識不足により行えない――魔法使い二人を見て、業を煮やしたマリエッタが激昂。怒りのあまり、後生大事に布で包んでいたオクリーの一部を床に叩きつけてしまった。
べしゃりという音がして、トマトを床に落とした時のように体液が弾ける。何てことをするんだ、という男性陣の悲鳴が部屋の中に木霊した。
「いいから! あたしが扱い方を教えてやるから早くくっつけろって言ってんですよ!」
「ええい、もうやけくそじゃ! 上下反対にくっついても知らぬぞ!!」
「うぅ、ぶにぶにして気持ち悪いですぅ……」
女性陣の言動に男性陣が色んな意味で凍りつく中、魔法使いによる治療が始まった。
見ていられなくなって、彼女達の後ろで男性陣が細かく指示を出していたが、やはり持つ者と持たざる者では理解度が違うものだ。男性陣からすると「これって大丈夫なのか?」という形で局部への処置が完了し、全身の傷が薄らと塞がる程度には魔法の効果が付与された。
「うん。オクリーさんのおちんちんはやっぱりこうでなくっちゃね」
「もうお嫁に行けないですぅ……」
「オクリーも同じ気持ちじゃろ……」
「傷を治してるところを見てただけなのに、最悪の気分ですよ」
マリエッタ以外の者が意気消沈する中、スラムへ向かっていたクレス・ポーメット両名が帰還する。
クレスはよく通る声で全員に挨拶したが、幹部二人の恨めしそうな視線を受けて若干たじろいでいた。
「な、何だよジアターちゃん、ノウンちゃん。オレの顔に変なモンでもついてるか……?」
「い〜や、何でもないわい。さて、報告を始めようぞ」
この場に居合わせる唯一の男性幹部に念の籠った目を向けつつ、ノウンが場を取り纏める。
こうして騒乱の夜は終わりを迎えることになった。
☆
全裸の美少女(蟲入り)と戦っていたと思ったら、いつの間にか意識がなくなっていて……気がつくと、俺の意識は全身を駆け抜ける激痛に魘されていた。
少し身を捩るだけで焼き鏝を当てられているかのような熱が走り、少し遅れて骨まで響くような痛みが全身を擡げる。とどめには股間の違和感だ。形容し難いけれど、とにかく辛い。
そんな時、柔らかい声が俺の耳朶を揺らした。
「オクリーさん……右から失礼しますね……」
右耳を誰かの吐息が擽る。すぐ近くにいる。身体は動かないのだが、五感が敏感になっていて、右隣に誰かが寝転んだのがはっきりと分かった。布団の下に潜り込んできて……抱き着かれているのか?
「わっ……オクリーさんの身体、すっごく硬い。じゅるっ!」
全身に柔らかく温い感覚が押し付けられたまま、胸の上にそっと手が置かれる。控えめに言ってかなり気持ち悪い触り方の指が、胸筋を存分に揉みしだいた後、どんどん下の方へ。はたと止まった手が、執拗に腹筋を撫で回す。ぞわりとした。
そして、へその穴に指一本を突っ込まれ、弄ぶように掻き回された時、妙に身体が痛くなって、淀みに沈んでいた意識が引っ張り上げられた。
意識を瞼に集中させ、目を開く。ぼんやりとした視界の焦点が定まってくると、すぐ近くに俺を見つめる双眸があった。瞬きひとつしないで、こちらをじっと捉えていた。
「あ……起きたんですね。……チッ」
卵型の小さな顔に、可憐な美少女と言って差し支えない端正な顔。でも、よく見たらマリエッタだ。
意識が覚醒してきたので、俺は意地悪っぽく笑う少女の頬を抓った。
「何やってんだよ、お前」
「ひゃ、ひゃめへくらさい。身体を温めてたんですよ」
「いらない」
「ねえ! いくら何でも酷いです。あたしが添い寝してあげなかったら、血を流しすぎたあなたの身体を誰が温めるっていうんですか」
「…………」
割と本気っぽく言われて、初めて己の身体を見下ろす。
包帯ぐるぐる巻き、生きてるのが不思議なくらいの大怪我だ。でも、ヨアンヌと遊んだ時の方が酷かったかな。あの時はちんちん切ったりしなかったけども。
「ほんとにくっついてますか?」
俺の思考を盗んだみたいな言葉を漏らすマリエッタ。俺は深々と肯首した。
「なら確かめます。おちんちん見せてください」
「おい、ふざけんな」
「見ないと分からないじゃないですか」
「お前見たいだけだろ……まぁ、心配してくれてありがとうな」
「その気持ちがあるなら見せなさいって言ってるでしょ」
「やめろって」
「ちょっとくらい良いでしょ」
「誰か助けてくれ!!」
「あ、ちょっと!」
悲鳴を上げて廊下に呼びかけると、何だ何だと入室してきたポーメットが顔色を変える。
「生きて……いたのか」
「ピンピンしてる」
「フッ、ウソを言うな。二度と使い物にならないと聞いたぞ」
「冗談にならない。やめてくれ……」
女騎士は口元を手で隠しながら、俺の半身に掛けられた布団を引っ掴む。不自然に盛り上がった布団が引っペがされると、そこに隠れていたマリエッタは「あ!」と声を上げた。
少女は女騎士にぶん投げられて放り出され、床に派手な尻もちをついた。そして、そのマリエッタのお尻の音で更に人が集まってくる。共に風俗街を調査した面々だった。
よく生きてたなぁ、股間大丈夫かよ、等の様々な労りや祝福を受けつつ、俺は窓の外を見た。
「あの夜から何日経った?」
「六日だ」
「は……? そ、そんなに?」
「もうじき前夜祭が終わり、本祭が幕を開ける。全て順調だよ」
「街は……聖都はどうなっている」
「何も起こっていない。地下水路、スラム、風俗街に潜んでいた邪教徒の先遣隊は霧散した。脅威となる敵は聖都にいないだろう」
「そんなはずは」
「お前は何でもかんでも疑り深すぎる」
ポーメットの発言に、ぐっと言葉を詰まらせてしまう。
過去の経験則から来るネガティブ思考が悪く表出しているのだろうか。とにかく、正教優勢の状況が信じられなかった。
「それに加えて第二位――エヌブラン・ガララーガが聖都に向かっているとのことだ」
「あのババアが来るのか」
思わず口から飛び出してしまった失言に、ポーメットが片眉を吊り上げる。
「お前、知っているのか」
「……まぁ」
「あの方をババアとは怖いもの知らずだな」
ケネス正教幹部序列二位、エヌブラン・ガララーガ。
歳は五〇だったか六〇だったか……まさしく豪傑といった感じの、クソ強いババアだ。原作ゲームの個別ルートでは、エヌブランとアルフィーは祖母と孫のような関係を築くことになる。かなり強烈なキャラクターだったから、忘れられるはずもなかった。
「それと、聖水入り小瓶も上手く処理できた」
「大抵の心配事が片付いたのか」
「まあ、聖水は魔法の産物であるから、成分がバレたところでどうにかなる代物ではないのだがな」
兵士達は顔を見合せて活気な笑みを浮かべる。どうだ、やってやったぜと言わんばかりの誇らしさだ。
「……報告はこんなところか。長居するのも憚られるし、これで失礼する。お前ら、オクリーを一人にしてやれ」
「いだだだだ! 引っ張らないでください! ポーメット様、最近あたしへの扱い酷くないですか!」
「最近分かってきたんだ」
ポーメットは暴れるマリエッタの足を引きずって部屋から出ていった。
どうやら、俺がホイップと戦っている間に色んなことが起こっていたらしい。スラム街に向かったクレスとポーメットによって敵の臨時拠点は破壊され、風俗街の伏蟲隊やその他の先遣隊は壊滅。これで聖都襲撃作戦の緻密さは幾らか失われただろう。俺は股間を確認しながら虚空に語りかけた。
「第三ラウンドは俺の勝ち……これで二勝一敗。通算で俺の勝ち越しだな、ホイップ」
ベッドで横になりながら、傷だらけの身体を見下ろす。
「ッ……ゴホ、ゴホッ!」
痰が絡んだ。熱い塊が出たと思って手のひらを開くと、そこには粘ついた血が収まっていた。
傷の治りが遅い。無茶は必ずぶり返す。この身体なら尚更だ。『幻夜聖祭』が始まる前だというのに、寿命を減らしすぎたか。
震える手で血の塊を握り潰すと、ドアがノックされる。どうぞと声をかけると、さっき出ていったポーメットが顔を出した。
「少し話したい。個人的な話だ」
「うん? 何かな」
「…………」
やけに緊張した面持ちの彼女は、前髪を気にする素振りを見せながら、ぎこちない動きで椅子に腰を下ろした。気のせいか、頬っぺたから耳たぶの辺りまでが紅潮しているように見える。
透き通った黄金色の髪を指先で弄っているだけで、何も話さない。透明感のある白い肌が、より彼女の上気した朱色を強調させた。
「ローブの件は助かった」
ポーメットは俺に目を向けないまま、上擦った声で言った。いつもの堂々とした態度はそこにない。ローブとは何のことかと思い返すと、アレックスが襲撃してきた時にそんなことをしたような覚えがある。
「あぁ、まぁ、どういたしまして。……ポーメットが生きていて本当に良かった」
俺のローブを掛けちゃう癖は、意識しても抑えることのできない悪癖である。このせいでヨアンヌに執着されることになったのだ。
こうして感謝されたのだから褒められるべき行為なんだろうが、心の底からは喜べない。
「口下手だから上手く伝わっているかは分からないが、嬉しかった。……ありがとう」
アメジストの如き美しい碧眼が俺に向けられる。今までに見たことがないくらい柔らかな表情を見せた後、彼女は唇を綻ばせる。
「……あの夜、お前には本当に助けられた。銃撃の直前、伏せろと言ってくれただろう? それを聞いたワタシは身を捩ったのだ。判断が一瞬でも遅れていたら、ワタシの身体は残らなかった。そして、ワタシが助かったことで、結果的に皆を救うことができた……」
ポーメット・ヨースターの、アメジストの如き美しい碧眼が俺に向けられる。彼女は洗練された美しい所作で片膝を折り、恭しく頭を垂れた。
「――仲間を代表して、心からの感謝を」
ベッドの上の俺は唖然とする。
言葉が詰まって、口をぱくぱくとさせてしまう。
だって、俺がここに来れたのは、みんなのお陰だ。ポーメットやクレスが生きていてくれたから頑張ってこれた。
感謝するのは俺の方だ。むしろ、役目をやり通すまでは、感謝される謂れなんてない。
「顔を上げてくれ」
鎧の軋む音がして、ポーメットはそのままの姿勢で顔を上げる。普段から憮然とした仏頂面、もはや鉄面皮と言えるほど表情を変えないあのポーメットが、俺に潤んだ目を向けている。
こちらが照れてしまいそうになるくらい、真っ直ぐな感謝と好意が伝わってくる。泣きたくなるくらいに嬉しかった。
正教の仲間として認められた時も溢れんばかりの気持ちが湧いてきたものだが、今、正教幹部から心底の感謝を受けて、気持ちが爆発しそうだった。
いつか思い描いていた、「正教のみんなと肩を並べて戦いたい」という願いが脳裏をよぎる。今この瞬間、彼らと本当の仲間になれた気がした。
今まで頑張ってきて本当に良かった。少し、目の奥が痛い。堪えていたものが鼻の奥につんと沁みてきたので、俺は窓の外に視線を逃がした。
「つ、次は俺にマントを掛けてくれよ。俺、よく裸にさせられるから」
「ふふっ。善処するよ」
照れ臭くなったのを下手な冗談で誤魔化して、鼻を啜る。きっとバレていた。
けれど、ポーメットは何も言わずに立ち上がって、踵を返して部屋を出ていった。
「では、再度の入室失礼した。今は戦いのことを忘れて、ゆっくり休んでくれ……」
――翌日。三日後から本祭が始まるとあって、いよいよ聖都の熱気は異様なまでに膨れ上がり、表通りが人で埋め尽くされていた。
人の行き来は相変わらず止まらない。それでも、地下、スラム、娼館の拠点を破壊したことで、邪教徒の潜伏先はかなり絞られて、敵の検挙が続いていた。
未だに幹部の肉片を所有した信者は見つかっていないが、可能な限りはクレスの『洗脳返し』を付与し、更なる情報確保ができている。幹部の肉片を発見し、『転送』を未然に阻止できるのも時間の問題だった。
窓の外を眺めていると、隣室で療養しているダロンバティが尋ねてきた。
「やあ、オクリー氏。調子はいかがです?」
「そこそこですよ」
「その……戦いの中で男性器を切断されたと聞いたのですが……」
「……まあ、根元からガッツリいかれましたね」
「ヒッ……」
「蟲に食べられちゃったんですよ。何とかくっつきましたけど」
長髪を後ろ手に縛った男は、顔をくしゃくしゃに歪めて身震いした。同じ男性として、想像するのも恐ろしい幻肢痛が彼の陰部を襲っているのではなかろうか。同じ男として痛いくらいに分かる。
「ダロンバティさんも右腕は大丈夫なんですか?」
「切断面が綺麗だったらしく、ほとんど完治しています。しばらく剣は振らないで……と忠告されているんですけど、まあそういうわけにもいかないでしょう」
「医者泣かせですね」
「どっちがですか」
ふと己の手を見下ろす。聖都襲撃作戦から外された時に、俺の左手の人差し指、中指、薬指は没収されている。よくこんな状態で勝てたものだ。
ダロンバティもそう思ったのか、俺の左手をまじまじと見つめてくる。
「……小指と親指だけで、『伏蟲隊』のリーダーと渡り合ったのですか?」
「そうなりますね」
「聞いた話だと、敵の三刀流に対して、性玩具や鞭、草刈り鎌で渡り合っていたとか……」
「はい。何で勝てたんですかね?」
「こっちが聞きたいくらいですよ」
「はははっ――あ痛っ!」
「だ、大丈夫ですか……? ウッ!」
ちょっと動いたり笑ったりすると全身が痛む。特に下腹部がヤバい。繋がったばかりだから、排尿をする時なんかは本当に苦しい。沁みるなんてもんじゃなくて、内側から抉られるのだ。尿管結石って、きっとこんな痛みのはずだ。
そして、俺を労わろうとしたダロンバティも、怪我した右腕で俺を支えようとして激痛に喘いでいた。俺達は顔を見合せてからからと笑った。
「まぁ、オクリー氏の回復力なら、きっと聖祭を巡る暇を作れますよ。その時は、思いっ切り気分転換してくださいな」
ダロンバティは言う。
彼の言う通り、太陽がもう一度昇った時、俺はベッドから補助なしで立ち上がれるようになった。
聖祭二日前。俺はマリエッタに手を引かれながら、人気のない場所を通って表通りの見回りをしていた。
見回りと言っても、今の俺は介助を必要とする怪我人だ。見回りという体で俺とマリエッタに休息を与えてくれたのだろう。彼女もそれを分かっているのか、フリルブラウスのワンピースを着ているだけだ。護身用のナイフはきちんと持っていると思うが、それ以外はオフ同然の格好である。
ポーメットあたりが腕を組みつつ「これ以上お前に身体を張らせるわけにもいかん。元より幹部を迎撃するのは我々の仕事だ」とか何とか言っているのを思い浮かべて、頬が緩んだ。
「オクリーさん、どうして笑ってるんですか?」
「いや、ちょっとな」
「あ。あたしが香水つけてるの分かりました?」
現在、『幽明の求道者』本編開始から約三年半前といったところ。
俺のちょっとした行動のせいで、何もかもが変わってしまった。移動要塞化計画なんて思いつかなければ、理不尽な難易度の対策を強いられることもなかった。ヨアンヌと軽率に関わるべきじゃなかった。一時の思いでローブをかけなければよかった。
そうしたら、もう少しマシな人生だったのかなあ。
「藤の花の香水なんですよ!」
マリエッタが頬を擦り寄せてきたから、やっと香水の匂いが分かった。良い香りだ。柔らかい。癖はあるが、彼女らしいなと思う。
「上手く言えないけど、いいな」
「でしょ?」
「自信満々だな」
「聖祭の雰囲気で浮かれてるのかも」
「煌びやかだもんな。その気持ちも分かるよ」
今日のマリエッタは明るい。数日前までは性欲の滲んだ薄ら寒い気持ちの悪さがあったけれど、今はそういう澱んだものがない。傷心と錯乱で変わっていた彼女本来の、表情豊かな性格を垣間見た気がした。
「あ! チュロスありますよ! チュロス!」
「うん、食べてみるか」
「おいひいれす」
「ふ、ふふ……食べすぎだろ……ふふふっ」
マリエッタは露店から購入してきたお菓子をハムスターのように頬張って味わっている。
見ているこちらが嬉しくなるくらいの食べっぷりに、身体の傷が開くかと思うくらい笑ってしまった。だって、五〇センチはある揚げパンを一口で頬張ってしまうのだ。しかもまだ呑み込んでいないのに、「美味しいから」とか言って次のひと口を食べようとする。食い意地が張りすぎだ。
今まで関わってきた女の子が居丈高だったりトンデモ性癖だったりしたので、マリエッタのこういう一面には癒される。
「あ、綿あめ!」
「俺も食べたいな」
「いいですよ〜欲しがりさんめ」
マリエッタに押し付けられるようにして、ふわふわの甘味を食べる。二人でシェアだ。俺が口をつけた部分に血走った目を向けていたような気もするが、マリエッタもよく味わってくれている様子である。
「あ、射撃の出店ですよ!」
「見たことないものが沢山あるなぁ」
その他にも、俺達は戦いのことなんて忘れるくらいに聖都を観光した。いや、街を巡っている間は本当に忘れられたのだ。
夕暮れがやってきて、夜が近づいてくる。薄い青のような闇が空に満ちていくと、まだ見ぬ明日のことを想起させられる。幻夜聖祭があと二日で始まるのだ。俺は現実に戻ってきて、全身に緊張が満ちていくのを感じた。
「なに、弱気になってるんですか」
俺の後ろ向きな気持ちを敏感に感じ取ったらしく、マリエッタが勝気な笑みを浮かべる。
「全力でぶつかって、未来を勝ち取るんですよ。今までもそうやって、生き残ってきたんじゃないですか?」
マリエッタはガーリーなワンピースに似合わぬ仁王立ちで腕を組む。
「あたし達が目指すのはただ一つ! 完全勝利です!!」
そして、沈む夕陽を背景に、拳を突き上げる。後光を受けて輝く彼女の姿に、不安や後ろ向きな気持ちが吹き飛ばされる。
「勝つ!! あたし達が、あいつらにっ!!」
曇りかけた俺の表情が晴れたのを見て、少女は繰り返す。
不敵に笑ったマリエッタは、肩を上下させながら何度も宣言した。




