ひざのピザ
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<MAGNET MACROLINK 会話文短編コンテスト・優秀賞を受賞しました>
「どうもー。"ひざのピザ"でーす。ご注文の品、お届けに上がりました」
「……遅えよ」
「はい?」
「遅えって言ったんだ。俺が注文してから商品が届くまで、どんだけ時間かかってんだよ」
「えーっと……9日と25分ですね」
「遅すぎだろ! しかも9日じゃなくて10日だしよ」
「申し訳ありません」
「いや、1日のずれとかもはやどうでもいいんだけど……っていうか、なんでそんな時間かかるわけ? 丁寧に焼いても1時間以内で来られるはずだろ」
「材料の仕込みとかがありまして。チラシの方にも書いていたはずですが」
「チラシ? ……あっ、確かに書いてる」
「ほらやっぱり」
「へへへっ。ごめんね。これは俺のミスだ……ってなるわけねえだろ。っていうか、このチラシについても文句言いたいんだけどさあ」
「何でしょうか?」
「2週間くらい前にこれが郵便受けに入ってたわけよ」
「はい」
「そのとき、400枚くらい同じの入ってたんだけど、あれは、何?」
「……さあ?」
「いや、おかしいだろ! 400枚って! 郵便受けパンパンだったわ!」
「すみません。僕は配送係なので、チラシ係の話を聞いてみないと」
「聞いてくれ、今すぐ」
「わかりました。えーっと……あっ、もしもし。アルバイトのマリリンです」
「マリリン!?」
「もしもし? もしもーし。……あっ、すいませんお客様」
「どうした?」
「これ携帯じゃなくて、冷凍イカでした」
「冷凍イカ!」
「ここに捨てていいですか?」
「いいわけあるか! っていうか、なんでイカ?」
「ピザ屋の店員たるもの。いつでも冷凍イカを取り出せるようにというのが、うちの店長の教えなので」
「変わった店長だな! ああ、もういいもういい。帰ってから伝えてくれ。うちの近所でチラシを大量に突っ込むのやめろって」
「わかりました」
「ところで気になったんだけど。マリリンって呼ばれてんの?」
「はい」
「へえ。随分がっちりした体つきだけどね。年も俺より上っぽいし」
「年は38です」
「あっ、じゃあ上だ。俺33だもん」
「よっ、後輩」
「急になれなれしくしてんじゃねえよ。客と店員だろ」
「すいません」
「ったく。まあいいや。ちょうど晩飯がまだだったから」
「そんなに太ってるのに?」
「うるせえよ! 少しは気にしてんだ」
「体型を気にしてる人がピザを頼むかなあ?」
「まあいいから。で、料金は?」
「24万円です」
「24万!? 高すぎるだろ」
「ああすみません。24万は僕の月給でした」
「結構もらってるね。アルバイトなのに」
「時給は40円です」
「時給安っ! 完全にブラックな職場だな!」
「はい。なので僕はここの配達が終わって、お客様が扉を閉めた瞬間に過労死します」
「やめてくれ。俺が何かしたみたいになっちゃうから」
「今はもう心臓が止まっています」
「せめてチラシのやつに文句を言ってから死んでくれ」
「チラシ担当のゴンザレス由紀子に文句を言って、お客様の家の玄関前でということでしょうか?」
「そのゴンザレス由紀子の前でいいから」
「わかりました。あっ、でも彼女は1か月前に亡くなってるんですよね。過労で」
「お前の職場どうなってんだよ。っていうか、1か月前なら、ここいらでチラシ配ってるやつ誰だよ」
「それはピザ小僧・静江ですね。御年104歳で、現在18万連勤です」
「よく生きてるな」
「そうですねえ。あ、それでは商品の確認です」
「お、おう」
「海鮮デラックスひざひざが1枚」
「ひざピザね。お宅の商品のこだわりネームなんでしょ。よくわからないけど」
「くるくるフライドポテトが――」
「あのくるくるにカットしたポテトのやつね。俺、好きなんだよ」
「1トン」
「1トン!?」
「ん? ああ、間違えました。1本です」
「だろうな。持ってる感じ、1トンもないし」
「ドリンクが、静江の経血」
「静江の経血!? なんでそんなもんがあんだよ」
「ああ、すいません。シェイクのMサイズですね」
「どんな間違いだよ」
「すいません。過労死寸前なもので」
「ああ、そうだったな」
「お代は620円です」
「ずいぶん安いな。バイトの給料上げてやれよ……ほい」
「ありがとうございます。宅配ピザ"ひざのピザ"、またのご利用をお待ちしております」
「この後すぐに死んじゃうけどねえ」
「それでは失礼します」
「……よしよし。とりあえず、玄関前で死なれなかったし、腹もすいてきたから、さっそく食べますか。おっ、うまそう。いただきまーす。……イカが凍ったまんまだな!」