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突如として出現した奇怪な小銭

作者: 鉄火市


 それは仕事の終わりも近付いた二十二時五十五分頃に起きた出来事である。

 私が働いているスーパーは先日セミセルフレジを導入し、改装も行い、新しいスタートを切ったばかり。その為、ここ数日は真新しくなったスーパーを利用しようとする客で賑わい、我々は嬉しい悲鳴を上げていた。


 この日は雨が振りそうな天気であり、WBCの中国戦と重なったこともあり、ここ数日に比べれば客の入りも少なく、少し暇なひとときを過ごしていた。

 日課の店内清掃を終え、外の片付けを行おうとしたタイミングで、それは起こった。

 突如として鳴ったエラーを報せる機械音。

 レジを行うことが多かった私は、それがお釣りを取り損ねた時に鳴る警告音だとよくわかっていた為、急いでセルフレジのお釣りの部分を確認した。

 しかし、小銭もお札も見つからない。

 誤報かとも思ったが、警告音は鳴り響き続けていた。

 何が起こっているのか理解出来なかった私は、とりあえず耳をすませた。

 すると、どうやら二番レジから音は鳴っていた。

 だが、先程も明記したように、お釣りは見当たらない。

 そして、ふと私は小銭を入れるところを覗いてみた。

 私の働いているスーパーのセミセルフレジには小銭を入れる場所が見えないようにカバーがされており、覗きこまなければ全体を見ることは叶わない。

 当然、私もその場所を覗きこんだ。

 すると、そこには五円玉が入っており、私は急いで鍵を使ってその五円玉を救出した。

 偶然入りこむにしては挿入口が狭すぎる為、私達は前のお客さんが千五円を入れて、五円玉がうまく入らず、そのまま会計を終えて立ち去ったのではないかという結論に至った。

 お釣りが軽くなるようにすること自体は珍しく無い。

 だが、五円玉が入らなければ当然小銭の枚数は多くなる。

 そんなことなどありえるのか?

 そう思いはしたが、お釣りを忘れる客も珍しく無い為、そういうこともあるのだろうなと我々は深く考えることなく、その五円玉を上司に渡し、その場を解散した。


 そこで終われば、私が今回のことをこうして小説に書き記すことなど無かっただろう。


 それから十五分が経ち、二十二時五十五分、私は二番のレジを閉めるべくレジの傍にいた。

 大谷に満塁の状況でもう一度打席が回ってきたなどの世間話をするほど、その場には客という存在はいなかった。

 そして、突然、再びエラーを報せる機械音が鳴り響いた。


「はぁっ!?」


 私は思わず声が出てしまった。

 当然だろう。

 かれこれ五分以上客は来ておらず、お釣りの取り忘れなど起こったものなら五分も前に報せが来ていないとおかしいだろう。

 同僚と目を見合わせ、私は警告音を報せる一番レジの方へと向かった。

 だが、お釣りの姿は見当たらない。

 意味がわからず混乱し、私はもしやと思い、小銭の挿入口を確認した。

 そこには、一枚の十円玉が入っていた。

 あり得なかった。

 客が小銭を入れて入り損ねることなど、これまで無かったうえに先程の仮説だってほぼこじつけに過ぎない。

 そう思う以外、他に起こりえる説明がつかなかった。

 だが、今回はその仮説は成り立たない。

 何故なら客という存在が来ていないからだ。

 一番レジに立っていた同僚が入れることも位置的に不可能であり、回り込めば私が気付く。

 誰かが投げた十円玉がその中に入るなんてこともあり得ない。


 つまり、その十円玉は、人の手によって入れることの出来ない突如として現れた十円玉なのである。

 理解しがたい現象ではあるが、現場がそれを証明していた。

 残念なことに、私はこういった事態に遭遇したことがあまり無い為、恐怖を覚えることができず、むしろ興奮して筆をとっている次第だ。


 未だに何故そのようなことが起きたかわかっていない。

 だが、実際に起こった奇怪な出来事として、私はここに記すことにした。


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