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振り向いたら座敷わらし  作者: 日野あべし
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【第八話】

「ただいま。」

「しゅうすけ、おかえり。」

日もすっかり沈んでもう夜。今日は平日だったので仕事帰りである。

座敷わらしちゃん改め福ちゃんは、私が家に帰ると玄関までお出迎えに来てくれる。

福ちゃんもここの生活にも慣れてきて、家でお留守番する時は自分でご飯も用意できるようになった。

まだ料理をするところまではできないが、炊いたご飯を自分でよそったり、お湯を沸かして即席みそ汁を作ったりぐらいは出来るようになった。

私も福ちゃんが毎日同じ食事にならないよう、朝一でコンビニのお惣菜を買ってきたり、パンと色々なジャムやマーガリン等を用意しておいたりと工夫している。

問題はないはずなの…だが…。

「福ちゃんは今日何して遊んでたの?」

「お空を眺めてた。」

「…昨日は何してたんだっけ?」

「座ってた。」

「…。」

そう、福ちゃんには圧倒的に娯楽が足りないのである。

一応家にも本がないことはないが、ビジネス書や哲学書など、福ちゃんぐらいの子が読むにはまだ早い本ばかりなのだ。

ゲームの購入も検討したが、福ちゃんがハマってしまってゲームばかりするようになってしまうのを危惧してなかなか踏ん切りがつかない。

なので現在児童書の購入を検討中だ。

本当は外で友達でも作ってもらって遊んでほしいのだが、他の人から見えない以上、友達を作るどころか話すらできないのである。

(ふーむ…。)

「しゅうすけ、どうしたの?」

「いや、何でもないよ。お風呂入ろうか。」

福ちゃんはコクンと頷いた。


福ちゃんが湯船にゆっくり浸かっていて、私は横で頭を洗っている。

「福ちゃんはお友達欲しい?」

「しゅうすけがいればいい。」

「そっかぁ…。」

そういって貰えるのは嬉しいが、でもやっぱりと考えてしまうのは私の悪い癖だろうか。

休日は私が福ちゃんとお出かけしたりして福ちゃんと過ごすことは出来る。

ただ平日となると私は仕事があるので朝と夜の少しの時間しか一緒にいられないのである。

(他に福ちゃんのことが見える人がいればな…。)

まぁそんな都合のいい話はないだろう。


「いただきます。」

「いただきます。」

今晩の夕飯は鮭の塩焼きにみそ汁にご飯、それに漬物である。

自炊をするようになってわかったことは、大変だが案外楽しいということ。美味しそうに食べてもらうと多幸感を感じるということだ。

「美味しい?」

福ちゃんは口に食べ物を頬張りながらコクンと頷いた。

それを見ながら私はついニコニコしてしまった。

「今度またカレー作ろっか。」

「うん。」

福ちゃんは目をキラキラさせてそう答えた。

なんだかこうしているとこのままでもいいんじゃないかと思えてくる。

しかし実際はそんなはずもなく課題は山積みだ。

ため息が出そうになるが、しかし先の心配をして今の幸せを台無しにするのもまた違う気もする。

今は素直にこの幸せを享受しよう。と考えていると外で車が止まる音がした。

(タクシーかな。)

すると今度は大きな荷物を持ってアパートの階段をどたどた上がってくる音が聞こえる。

(嫌な予感がする…。)

「しゅうすけ、どうしたの?」

「いや、何でもないよ。食べよう。」

ご飯を食べることに集中しようとしたが、今度は玄関の前でカチャカチャしている音がする。

流石に心配になって玄関を見に行くと福ちゃんもついてきて不思議そうに玄関を眺めている。

(あぁ…そういえば帰省してたんだっけな…。)

そう思うや否や玄関のドアがバーンと思いきりのいい音で開かれる。

福ちゃんはポカーンとしていて、私はげんなりしながドアをあけ放った人物を見つめている。

「修介!帰ってきたぞ!結婚だ!!」

お隣さん、河城夏樹さんのご登場である。

人の部屋の扉を壊れるんじゃないかという勢いで開けた非常識人。

それこそがこの河城夏樹さんである。

「河城さん、今もう夜ですから大きい声だすのはやめて下さい。あとおかえりなさい。」

「今戻ったぞ!修介!寂しかっただろう!」

河城さんは私の注意を完璧に無視して両手を腰に当てて、どうだと言わんばかりの表情をしている。

(この人は…。)

はぁ、とついついため息が出てしまいそうになる。

「む!ところでこの可愛いお嬢ちゃんはどこの子だ?」

「あぁ、これは色々ありまして…。」

ただでさえ人に説明するのが難しいのに、この人になんて説明すればいいのかと辟易する。

あれ?ちょっと待てよ。

「河城さん…この子…見えるんですか?」

「何をおかしなことを言っているんだ!…ん?あぁ、そっちの類の子か。」

私は取り合えず河城さんに部屋にあがって貰うことにした。


河城さんに一旦自分の部屋に荷物を置いてきて貰った。

そして河城さんが夕食を済ませているということで、三人分のお茶を入れた。

「まずは初めましてだな!私は河城夏樹!修介の将来のお嫁さんだ!」

「やめて下さい。違います。」

福ちゃんは相変わらずポカーンとしていたようだが、ハッと我に返ってご挨拶をした。

「わたしは福。修介のともだち。」

「おぉ!とても可愛らしい友達だな!」

(友達って感覚だったんだな…)

なんてどうでもいい感想を抱いたが、そんなことよりも大事な話がある。

「河城さん、福ちゃんのことが見えるんですか。」

「うむ!見えるぞ!私は小さい頃からこの子のような存在が見えていたからな。」

「たまにこういう人、いる。」

これは初耳である。確か河城さんは神主さんの家系だったとかなんとか聞いていたが、それも関係あるのだろうか。

「それはありがたい。この子は最近私についてきた座敷わらしなんです。」

そこから私は河城さんに事の顛末を話した。

福ちゃんがある日突然ついてきたこと、うちに住むようになったこと、人には見えないこと。

この前のデパートのことも話したら大笑いされてしまった。

「はっはっはっ!そいつは傑作だな!私もその時の修介を見てみたかったぞ!」

「居なくてよかったです…。」

「その時のしゅうすけ、まっしろになってた。」

また河城さんが大笑いするので、夜ですからとまた注意をしたが聞いてくれなかった。

「それで福ちゃんは人には見えないので色々考えあぐねていまして…。」

「そういうことか!なら私が力になろう!」

「え!本当ですか!?」

珍しく少し大きな声が出てしまった。これは非常にありがたい。

「私は基本的に家にいるし!何なら一緒に遊びに出かけることも出来るぞ!」

「おぉ、ありがたいです。」

「何を言っている!私と修介の仲じゃないか!」

仲ってどういう仲なのか一瞬危機感に近いものを感じたが言わないことにした。

「なつき、福のともだちになってくれるの?」

「うむ!宜しくな!」

「よろしく!」

福ちゃんが今にもその場でぴょんぴょんしそうな勢いで喜んでいた。

「仕事の方とか大丈夫なんですか?」

「うむ!私の仕事は基本的に家で出来るものだし、時間も好きに出来るしな!」

「ありがとうございます。」

そういえば河城さんとお隣さんになってから暫く経つが、この人がどういった生活を送っていて生計を立てているのかよく知らない。

だが、そんなことを気にしている場合ではなく福ちゃんと一緒にいてくれる人が出来たのは私も心の底から嬉しかった。

「まぁ結婚したらいずれこうなっていただろうしな!」

「いや結婚はしないです。」

何はともあれまた一歩前進したかのような気持ちだ。

後日、近所の公園で大声で笑いながら一人で遊んでいる女性が目撃されるようになったと噂がたっていたが、本人が気にしていないようなので聞かなかったことにした。


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