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振り向いたら座敷わらし  作者: 日野あべし
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【第六話】

私はコーヒーが好きなのだが、子供にはさすがに苦いだろう。

確か日本茶があったはずだ。しかし座敷わらしだから日本茶…というのは少々安直だろうか。

お茶請けはないので今回は我慢してもらおう。

台所をガサゴソ探していると座敷わらしが台所にきて、また私をジーっと見つめているのでやっぱり何だかやりづらい。

「あのー…居間で待っててくれるとお兄さん嬉しいなぁ…。」

「わかった。」

そういうと座敷わらしはとととーと居間の方にかけていった。

このジーっと眺めてくるところは正直どうにかしたい気もする。

日本茶を見つけ、比較的最近買ったものだったので、そのまま淹れた。

「はい、おまちどおさま。」

座敷わらしは言われた通り居間で待っていたようだ。

(素直な子なんだなぁ…。)

私もこれから定位置になるであろう座敷わらしの向かいに座り、お茶を飲む。

座敷わらしもずずっとお茶を一口のんだ。

お互いふぅっと一息ついた。

「座敷わらしちゃんは座敷わらしなんだよね?」

座敷わらしはコクンと頷いた。

「座敷わらしって人間と違う…何か必要なものとかあるの?」

座敷わらしは頭を傾げて目をぱちくりさせていた。どうやらこれが考える時のポーズらしい。

「たぶん…ほとんど一緒。」

「あぁそうなんだ。何だか少し安心したよ。」

「でも、お供え物とかがないと、多分消えちゃう。」

「…え?」

一瞬思考がついていかなかった。消えちゃう?

「お供え物とか、人から忘れられると消えちゃう。そうやって消えってった子もいた。」

座敷わらしの濁りのない不思議な目は、私の目をまっすぐ見つめている。

たぶん、嘘ではないだろう。

「そうなんだ…。」

私は目線を落とし、日本茶を一口啜った。

「座敷わらしちゃんは…消えていくのが…怖い?」

座敷わらしはまた目をぱちくりさせた。

「わからない。でも、しゅうすけと会えないのはさみしい。」

私は胸が締め付けられるようだった。消えてしまう。そんなことがあるのか。

こんな年端もいかない子が消えてしまう?

もしかしたらこの子は座敷わらしなので年齢なんてものはないのかもしれない。だが子供が消えていってしまうことが、私にはとても受け入れられなかった。

「しゅうすけ、どうしたの?なんだかかなしそうな顔してる。」

そういうと座敷わらしは私の方に近づいてきて、私の頭に手を伸ばし、頭を撫でてくれた。

その撫でる手は、本当にやさしさの籠った手だった。

正直私は涙をこらえるので精いっぱいだった。

まだ出会って二日目だが、それでもこの子が消えるかもしれないという事実は、私が涙を流しそうになるほど悲しいものだった。

「しゅうすけ、大丈夫。大丈夫だよ。」

そういって座敷わらしは、私の頭を撫で続けてくれた。


「…よし。」


私は顔を上げた。

「座敷わらしちゃん。出かけよう。」

「どこに?」

座敷わらしは不思議そうに頭を傾げた。

「うーん、そうだなぁ。散歩と買い物かな。」

座敷わらしはコクンと頷いた。

「いく。」

「よし、そうと決まれば支度しよう。あ、でも座敷わらしちゃんは着るもの他にないんだっけ。」

「ない。」

「そしたら洋服も買いますか。」

そういって私は支度をし始めた。


この子は忘れ去られていくと消えていってしまうという事実はあるかもしれない。

ただそれに抗えないかと言われればそうではない。

私が、忘れなければいいのだ。

私が、この子と暮らしていって、色んなところにいって、色んなものを食べて、色んなことをして沢山思い出を作って。

私が忘れなければいい。私はそういう結論を出した。

ならばあとは行動を起こすのみである。


「草履は履いた?」

「うん。」

「よし、行こっか。」

私は普段より少し元気に、玄関のドアを開けた。


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