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振り向いたら座敷わらし  作者: 日野あべし
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【第五話】

目が覚めすといつも通りの部屋の天井が見えた。

いつも通りの朝である。

もしかして昨日のことは夢だったんじゃないか。改めて考えてみれば、座敷わらしがついてきて、そして何故か同棲するなんて荒唐無稽である。

まさかね、そんなことあるわけないよね。

「しゅうすけ、おはよう。」

夢ではなかったようだ。


座敷わらしは眠そうに目をこすっていた。

やはり夢ではない。

正直まだこの現実を受け入れられていないでいた。昨日はとりあえずうちに来るように言ったが、よくよく考えてみると見ず知らずの子供をうちに泊める、いや住まわせるなど正気の沙汰ではない。

まぁしかし他に行くところも無いようであるし、しかも他の人には見えないようであるし、このまま突き放すのも何だか気が引けるし致し方なし、と言ったところか。

というかそういうことにしよう。

「朝ごはん食べようか。」

座敷わらしはコクンと頷いた。


相変わらず座敷話わらしにジーっと見つめられながら布団を畳み、テーブルを部屋の中央に持ってくる。

そして冷蔵庫の中身を見てみると、辛うじて卵、ウインナーがあった。食パンもあるが、昨日の炊いたご飯の残りがあったのでそれにすることにした。

幸い即席みそ汁もあったので、卵焼き、焼いたウインナーにご飯にみそ汁、という朝食である。

キッチンでウインナーを焼いていると、座敷わらしがキッチンに入ってきた。

そして私ではなく、フライパンで焼かれているウインナーをじっと見つめている。

ちょっとよだれが垂れていそうな顔をしていた。

「ウインナーは好き?」

「ういんなー…食べたことない。」

昨日もカレーの話をした時にも感じたのだが、なにやら知らない食べ物が多い気がした。

「今までご飯ってどうしてたの?」

座敷わらしは目をぱちくりさせて、一瞬きょとんとした様子だった。

「おまんじゅうとか、おかしを食べてた。」

「もしかしてそれってお供え物?」

座敷わらしはコクンと頷いた。

(お供え物ってちゃんと食べてくれてるんだ…。)

などと言うどうでもいい感想が頭に思い浮かんだ。

何だかこの子には美味しいものを食べさせてあげなければという使命感が湧いてきた。

「もうちょっとでできるから、ちょっと待っててね。」

その後も座敷わらしはキッチンで私の焼いているウインナーや目玉焼きをジーっと眺めていた。

朝食が出来上がりテーブルに並べられると、座敷わらしは昨日と同じ場所に座った。

「いただきます。」

そういうと昨日と同じく座敷わらしもいただきますと言った。

座敷わらしはパクパクとご飯を食べている。どうやらお口に合ったらしい。

「おいしい?」

「うん。」

口にほおばりながら座敷わらしはそう答えた。

作ったものを美味しそうに食べてもらえるって幸せなんだなぁと感じいってしまった。

そしてご飯を食べていたらお風呂に入れてあげようとしていたのを思い出した。

(お風呂かぁ…、お風呂…、お風呂!?)

そう、私は見ず知らずの子供、しかも女の子かもしれない子をお風呂に入れてあげなければならないのである。

(えっどうする…。一緒に入ってあげるべきなのだろうか。それともここは一人で入ってもらうべきなか…。どうする…。)

よくよく考えてみれば、子供に対してそこまで意識する必要はないとも思うが、なんだか意識している辺り私も大概である。

果たしてどうなのだろうか。このくらいの歳の子は一人でも風呂にはいれるのだろうか。

子供に接する機会をほとんど持たない私には判断がつかないのである。

職場でお子さんが居る同僚との話を思い出してみても、写真を見せてもらいながら、いや半ば強引に見せつけられながらうちの子可愛いだろーとかデレデレして話しているところしか思い出せない。

「ちなみに…お風呂は一人で…入れる?」

「しゅうすけと一緒に入る。」

ご指名である。もう腹を括ろう。


朝食を食べ終わり、テーブルの上を片づけるとお湯を沸かす。

バスタオルは二人分あるので問題はない。

着替え…をどうするか。着替えといっても子供用の服などあるわけもなく、仕方がないので今は同じ服を着てもらうしかない。


心頭滅却すれば火もまた涼し。

私は風呂が沸くまでの間、座禅を組んで精神統一をはかることにした。

私は少女趣味ではない私は少女趣味ではない私は少女趣味ではない。

「…しゅうすけ、変な顔してる。」

座敷わらしは暇なのか私の顔を覗き込んでいるようだった。

私は必死に目を閉じて精神統一に集中する。

そして私はカッと目を見開くと風呂場のお湯を止めに行った。

「さぁ…入ろうか…。」

「しゅうすけ、ちょっとこわい。」

「えっ。」

どうやら精神統一は本末転倒だったようだ。


そこからは特別何かがあったわけではなく普通に風呂に入ることになった。

私の悪い癖で少々考えすぎてしまっていたようだ。

「これが頭を洗うやつでこっちが体を洗うやつね。」

「わかった。」

「自分で洗える?」

「大丈夫。」

私は先にシャワーを浴びて湯舟に浸かり、その間に座敷わらしに体を洗ってもらうことにした。シャワーの使い方だけ説明したら、あとはどうやら体を洗うのに特に問題はなさそうだ。

最初はシャンプーやボディーソープなどと説明しようとしたが、首を傾げられてしまった。

どうやら横文字をほとんど知らないらしい。

少々不便ではあるが、徐々に覚えていってもらえばいいだろう。

なんだかこうしていると、一緒に生活することになったのを実感する。

結婚をすっ飛ばして子供と生活することになるとは夢にも思わなかった。

しかし、悪い気はしない。

「しゅうすけ、洗い終わった。」

「了解っと。」

そうして私はさっさと体を洗い終えた。

私はここまで敢えて座敷わらしの方を見ないで風呂に入っていたのだが、もう思い切ってあの事を聞くことにした。

「座敷わらしちゃんは女の子なの?」

座敷わらしはコクンと頷いた。

「そっか。」

これで少しすっきりした。

今に至るまであれやこれやもんどりうっていたが、なんだか一緒にこうして普通に風呂に入ったことで何だか憑き物が落ちた気がする。

(まぁそうだよなぁ…子供だしなぁ…。)

それにどこか他所の子供ではなく、これから一緒に生活していく子供なら、過剰に気を遣わない方がいいだろう。

「じゃあ上がろうか。」

座敷わらしはまたコクンと頷いた。

そうして風呂から上がり、今度は生活するにあたって聞きたいことがあるので、お茶を入れることにした。

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