パーティから追放されたEランク冒険者の俺を、Sランク冒険者たち(全員美少女)が取り合っている
「アレス。お前を俺たちのパーティから追放する」
王都にある酒場。
そこで俺、アレス・リュートはそう言われた。
「え?」
「なんだ? 意味が分からなかったのか? 相変わらず愚図だな。お前はこの冒険者パーティ『暁の翼』にはもう必要ない。さっさと出ていけっていうことだよ」
「いや、待てよ。そんな急に。どうして俺がパーティから出ていかなきゃいけないんだ」
「理由? そんなの簡単だよ。お前が戦えない役立たずだからだ!」
リーダーであるノイマンがそう言う。
冒険者パーティ『暁の翼』。
それが俺の所属するパーティの名前だ。
一年ほど前に結成した、当時の駆けだし冒険者五人が集まってできた冒険者パーティ。
苦労したこともあったが、今までなんとかやってこれた。
努力のおかげもあって、現在はBランクという評価を貰っている。
Bランク。
これはかなり高評価だ。
冒険者ランクはA~Eランクまで存在している。
Eが最も低く、Aへと行くほどランクが高い。
Bランク以降は一部の才能のある者しか到達できない領域と言われている。
そしてそれにたった一年でたどり着いた『暁の翼』は新進気鋭の才能ある若手パーティと呼ばれていた。
今ではAランクへと昇格するという話まで持ち上がっているくらいだ。
誰もが認める優秀な冒険者である。
ただ最近、俺以外の暁の翼のメンバーが天狗になっていると感じる。
夜の店で豪遊したり。
ランクの低い冒険者をあしざまに扱ったり。
碌な準備もせずにダンジョンへ向かったり。
人としても冒険者としてもどうかと思いつつある。
最近では、俺は彼らのしりぬぐいに忙殺されつつある状況だ。
若くして功績を積みあげ、冒険者の最高峰へと手を届きかけているのだからしょうがないとは思うのだが。
もうすこしきちんとしてもらいたい。
そう思っていたところで出たのが、先ほどの発言だった。
「俺たちはもうすぐAランクに届くんだ。お前みたいな雑魚は俺たちには要らない」
「そうよそうよ!」
「使えない役立たずの癖など不要だ」
「悲しいですがこれも定め。才能のない者はさっさと去りなさい」
パーティメンバーがやかましく騒ぎ立てていた。
「みんなもこう言っている。戦いについてこれない役立たずは切り捨てるしかないんだ」
ノイマンが言う。
「だが、俺はきっちりパーティ役割をこなしているぞ」
「役割? 戦いもしないお前が?」
彼は顔を見にくくゆがめて不快そうに告げた。
「なあ、アレス。君以外の他の皆の職業は魔術師、格闘家、治癒師だ」
「ああ」
「でも、お前の職業はなんだ? ポーターだ。わかるか? 僕たちの荷物や魔物の素材を運ぶだけの、戦闘に参加しない役職。戦うこともしないで報酬をかすめて取っていく卑しいクソ野郎。それが君だよ」
ノイマンは侮蔑の混じった顔でこちらを見つめる。
「治癒師は戦闘に参加しないが、それでも怪我や毒を治してくれるから重要だ。現にこれまでの戦では何度も助けられてきた。報酬を得る権利がある。だけど君みたいなポーターは荷物を運ぶだけ。それじゃ、報酬を得る権利はないよ」
そう、俺の職業はポーターだ。
主な役割は仲間の荷物の運搬や倒した魔物の素材の運搬である。
他の職業と違って直接戦闘には関わらないが、しかし荷物を運ぶことで負担を減らす大事な職業だ。
運ぶのはただの荷物じゃない。
冒険に必要なものを大量に運んでいる。
武器や防具の予備や薬草・ポーションなどの回復アイテム。
ダンジョンや森のなかで夜を明かすためのサバイバルアイテムや保存食も運んでいる。
さらにはパーティの皆の私物や私服まで運んでいるのだ。
正直言って、かなりの大荷物である。
その大荷物をみんなの代わりに運搬しているのだから、他の人の負担を減らしているという役に立っているはず。
「アイテムボックス」という物を一定量だけ収納できるスキルをもっているからこそできるのだ。
「いや、荷物を運ぶ以外にも俺は支援魔術でお前たちを支援しているじゃないか」
支援魔術。
それは攻撃魔術でも治癒魔術でもない、前衛を支援するための魔術だ。
前衛の攻撃力や防御力を上げるなどのバフをかけたり、攻撃魔術の威力や治癒魔術の効能を高めたりする重要な役職だった。
それに危機察知でモンスターを予期したり罠感知を行えるため事前に罠への対応ができる。
決して働いていないわけじゃない。
戦うことができないから、戦う以外のことをやろうと努力した結果だ。
「はっ! そんなもんに何の意味があんだよ?」
しかし、そんな努力は彼らにとっては大したことではなかったらしい。
「僕たちにはそんなもの必要ないんだよ。バフなんてなくとも十分強いし、モンスターなんて君がいなくとも察知は簡単にできるさ。罠? そんなもの、駆け出しの馬鹿が引っかかるものだろう。Bランクの僕たちには関係のない話だね」
俺の今までの行動を小馬鹿にしながらノイマンは吐き捨てる。
「グダグダと言い訳ばかり言う。まったく、戦うことのできない君をこのパーティにおいてやっただけでも感謝してほしいくらいだ」
「そうよ、アレス! ノイマン君は無能なあんたをここまで世話してやったのよ! ほら感謝して頭下げろよ!」
「フン。雑魚に用はない。俺様はさっさとこんな荷物持ちは追い出したかったのだ」
「ノイマン様の優しさに漬け込み、楽をするなどということは神が許しません。恥を知りなさい」
「どうだい? お前以外は追放に賛成みたいだよ」
彼らの言葉を聞き、得意げにこちらを見るノイマン。
そうだったのかと俺は残念な気持ちになる。
戦うことはできていなかったが、俺なりにこのパーティに貢献していたと思っていた。
しかし、そう思っていたのは俺だけだったようだな。
「……そうみたいだな。わかった。それがパーティの総意なら、俺はそれを受け入れるよ」
こうなったらもうしょうがない。
俺は役割をこなしていたのだが、しかしみんなにとってはそれは評価されていなかったというだけ。
彼らに俺が必要ないというのなら、出ていけと言うのなら、おとなしくそれに従おう。
「おい、荷物は置いて行けよ」
「わかってるよ、ノイマン。お前達の荷物は出すさ。ただ、かなりの量だから持っていくときは大変だぞ」
「いいからさっさと出しなさいよ! いちいち行動が遅いんだから。ほんっと役立たず!」
メンバーの一人がやかましく叫ぶ。
「わかったよ」
酒場のテーブルにアイテムボックスで収納していた荷物を出す。
しかしテーブルだけでは収まりきらないから、酒場の床にも置き始める
テーブルに山盛りに出され、そして酒場の床の一角を占領するほどの量の装備や私物などなど。
かなりの量だった。
この量を俺無しでどうやって運ぶつもりなのだろうか?
わからないが、まあ彼らは俺の仲間ではないから、それを俺が心配する必要がないだろう。
「それじゃあ、俺はもう行くぞ」
彼らの荷物を出し切ったあと、俺は酒場を後にした。
そして、俺は自分のパーティを追放されてしまった。
その日のうちにギルドに行き、パーティから外れたことを申告する。
これで正式に、俺は『暁の翼』から除名されたというわけだ。
「……帰って寝るか」
正直、かなりショックが大きい。
気持ちが沈んで、なにもしたくない。
ただただ寝たい。
明日からどうするのか。
それを考えなければいけないが、今日はもう何も考えたくない。
宿屋に行き、俺はそこで一晩眠ることにした。
翌日の朝。
俺は冒険者ギルドに出かけていた。
昨日パーティから追放されてしまったからな。
冒険者を続けるために、新しくパーティに加入しなければいけない。
基本的に冒険者はパーティを組むものだ。
なかには一人で冒険者として活躍している人もいるらしいが、それは例外だ。
少なくとも俺はその例外ではない。
残念ながら。
ギルドで他のパーティに入れてもらうように頼み込むか。
パーティメンバーを探している人がいればいいんだが。
そうして俺はギルドに行ってみると――。
「あ、アレス君!」
ドアを開けてギルドの中へ入ったら、一人の女の子が俺の顔を見るなり呼びかけてきた。
動きを遮らない程度の防具を身に着けており、腰には剣を帯びている。
赤くて長い髪を一つにまとめてポニーテールにしている少女。
彼女のことはよく知っている。
有名人だし、ちょっとした知り合いでもある。
彼女はSランク冒険者のリリア。
王国でも三つしかないSランク冒険者パーティのリーダーである。
Sランクとは、この国でも有数の実力者にしかつけられない特別なランクである。
『暁の翼』はAランクを目指していたのだが、Sランクはそれとはくらべものにならないほどの実力と功績が必要になっていた。
ランクが異なるとはいえ、同じ王都にいる冒険者どうし。
俺はリリアと交友を持つこともあり、ちょっとした知り合いだ。
「おはよう! 今日は君に会いたくて、ずっと探してたんだよ?」
「探していたって。俺に何か用か?」
俺の質問に、リリアは「うん」と頷く。
「昨日たまたまねー、聞いちゃったんだよ。君が元いたパーティから抜けたって」
「まあ確かに俺はパーティから抜けたけど」
抜けたというか、抜けさせられたというか。
追放される形だ。
「冒険者登録はそのままだったんだから、まだ続ける気はあるんだよね」
「ああ」
「もう誰かほかの人とパーティを組むか、決まっちゃってる?」
「いや。何も決まってない。っていうか、パーティを組むために今日はギルドに来たんだ」
「そうなんだ! ならさ、私たちのパーティに入らない?」
「……え?」
俺は何を言われたのかわからず、呆けた顔をする。
「ふっふっふ。つ・ま・り! 私たちのパーティに勧誘しに来たんだよ!」
じゃじゃーん、とにこやかに笑いながら告げるリリアさん。
それにしても……。
「か、勧誘って。誰を?」
「君を」
「どこに?」
「私たちのパーティに」
「えええ!?」
彼女の言葉をやっと理解した俺はギルドの中で大声を上げて驚いた。
「そ、そんな! Sランクのパーティに誘うって、正気なの!? だって俺はBランクパーティにいた男だよ。いや、Bランクからすらも追い出されたんだけど」
「正気も正気、もちろん正気。むしろ私としては君を手放した元のパーティの方の正気を疑うくらいなんだけど。……ていうか、追い出された? なにがあったの?」
「あー、それはね。話せば長く――はないか」
俺は昨日の顛末を彼女に話す。
罵倒され、パーティから追い出されたことを。
俺の話を聞いた彼女はとても憤慨していた。
「なにそれ、ひっどい! 確かに冒険者パーティから抜ける人が出るのは珍しくはないけど、ある日突然いきなりそれをやるなんて非常識だよ。アレス君の意見も聞かずにやるなんてさ! 今までアレス君のお世話になっていたのにね! それにアレス君に酷いことまで言うなんて、ほんとひどい!」
リリアさんはまるで自分のことのように怒ってくれている。
プンプンと擬音が聞こえてきそうだ。
「アレス君。私たちと一緒にパーティを組もう! そんな人たちのことなんて忘れて、一緒に冒険者として活躍しようよ!」
「一緒に……」
その言葉に心を動かされる。
「俺で本当にいいの?」
「むしろ君がいいんだよ。ぜひ私たちのパーティに――」
「お待ちなさい」
しかしそこに割り込む声が一つある。
「その誘い。少しお待ちになっていただけます?」
俺たちに話しかけてきたのは、金色の髪をした美女だった。
優雅な立ち姿に凛とした顔立ち。
そして豪華な防具を身にまとった女性の冒険者。
彼女もリリアに負けず劣らずの有名人だ。
Sランク冒険者のシャーロットさん。
王国に三つしかないSランク冒険者パーティの一つのリーダーである。
「シャーロットさん」
「ごきげんよう、リリア様」
「何の用? 私はいまアレスさんを勧誘していたんだけど」
「それを待ちなさいと言っているのですわ」
「なんで待たなきゃいけないのかな?」
「理由なんて簡単です。わたくしがこれからアレス様をパーティに誘うのですから」
「ええ!」
「というわけで、アレス様。ぜひわたくしたちのパーティに入っていただけないかしら。貴方様の実力ならば素晴らしい待遇をご用意いたしますわ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。いま私がアレス君を勧誘していたんだから邪魔しないで」
「邪魔は貴方ですわ。密かに注目していた人物がパーティから抜けたと聞いて来てみれば、とんだハイエナがいたものです」
「ハイエナはそっちじゃん! 私が誘おうとしていたのに!」
「そんなことは関係ありませんわ」
バチバチとにらみ合い、言い争う二人。
しかし、話はそれだけでは終わらなかった。
「待ってください」
言い争う二人の間に、割り込む声。
「見たところ、アレスさんのパーティを求めて争っている様子ですが。しかし彼が次に所属するのは貴方たちのパーティではなくではなく、私です。貴方たちは他の人を当たってください」
その場に現れたのは黒髪の凛とした雰囲気の少女だ。
どうやら彼女も俺とパーティを組みたいと望んでいるらしい。
「ちょっと、またなの? この展開さっきもあったんだけど!」
「いったい誰ですの、あなた? 人が勧誘しているところに横から割り込むなんて非常識ですわよ?」
「シャーロットさんがそれ言う?」
再度言い合いを始める二人を無視して、黒髪の少女は俺の元へ来る。
「やっと見つけました。アレスさん」
そして俺に抱きついてきた。
「「ああー!」」
その様子をみて叫ぶリリアさんとシャーロットさん。
「えっと、だれ?」
いきなり抱き着かれて、俺は困惑して固まってしまう。
リリアさんとシャーロットさんはこの街で活動する冒険者だった。
だから互いに知り合いであるのだが、しかしこの黒髪の少女は知らない。
いったい誰なんだ?
「私です。忘れてしまいましたか?」
忘れてしまいましたか、ときかれても……。
そもそも知らないんだよなあ。
「私のことは覚えていないのですか? ではこのブレスレットのことも忘れてしまったのでしょうか?」
不安げに呟く少女が見せたのは、銀色のブレスレット。
「あ! もしかしてクラリスか!」
「! はい、そうです。クラリスです!」
そのブレスレットには見覚えがあった。
あれは一年前、俺が暁の翼に加入する前の話。
冒険者になるために王都に向かっていた時だ。田舎から出てきて旅の途中、魔物に襲われている女の子がいたから偶然助けたのだ。
相手はゴブリン一匹だったから俺でも倒すことができた。
そのとき助けたのがクラリスだ。
彼女を助けた後、妙になつかれてしまって彼女の家で何日か過ごしたのを覚えている。
王都に行くために別れたのだが、そのときにブレスレットをお守り代わりにあげたのだった。
「見違えたよ。ずいぶん背が伸びたね」
それにずいぶんと美人になって。
「懐かしいです。アレスさん。私、冒険者になりました。昔は一緒にはいられませんでしたけど、これで一緒にいられますよね。二人で一緒にパーティを組みましょう」
「二人で、って。クラリスは他にパーティメンバーはいないの?」
「いません。これまではずっと一人でした」
クラリスは心底嬉しそうに笑顔になり、
「これからは違いますけど」
とにこやかな顔をして呟いた。
「そ、そうなんだ」
「ちょーっと、お二人さん、いいかな」
会話していると、リリアさんとシャーロットさんが俺とクラリスを引き離す。
「そろそろ離れないかな? ていうか離れて?」
「そうですわ。わたくしのアレス様にくっつぎすぎですわよ」
「シャーロットさんのものじゃないよ。アレス君は私の!」
「誰ですか貴方たち。アレスさんは私と二人っきりのパーティを組むんです」
「二人っきり!? そ、それはだめだよ。二人っきりなんて、絶対にダメ!」
「そうですわ。それにアレス様はこのSランク冒険者であるわたくしの仲間になるのです。張り合いたいなら、同格のランクになってからお願いします」
「同格ですよ?」
「「はい?」」
「だから貴方たち二人と同格だと言いました。私はSランクです」
クラリスは自分の冒険者カードを見せる。
そこには名前の隣にランクが書かれていた。
冒険者ランクはS。
「ほんとにSランクだ」
あれ、でもクラリスは一年前にはゴブリンと戦うこともできない弱々しい女の子だったはずなのだが。
「あれから猛特訓して強くなったんです。少しばかり才能もあったみたいで、Sランクにあがることができました」
「たった一年でSランクとは。すごいな……」
Bランクのパーティを追いだされた俺とは大違いだ。
成長率がハンパない。
「でしょう? 私がんばったんですよ」
ふふん、と得意げに胸を張るクラリス。
「アレスさんの隣に立てる人になりたくてがんばったんです」
隣にたつも何も。
頑張りすぎて俺を追い越してしまっているよ。
「さあ、私と一緒に二人でパーティを組みましょう!」
「だめだよ。私と組んで! アレス君!」
「お黙りなさい。アレス様、わたくしと是非冒険者パーティを組みましょう」
三人が俺に向かって手を差し出してくる。
「一つ訊きたいんだが」
そんな三人に対して質問する。
さっきからずっと気になっていることがある。
それは――
「お前らは俺の何がいいんだ?」
リリアさんの時からずっと疑問だった。
「俺は戦う力をもっていない。もっているのは、物を運ぶアイテムボックスというスキルと支援魔術だけだ。正直、みんなの役に立てるとは思えない」
「それがいいんだよ!」
「貴方はご自分の価値をわかっていないようですわね」
「もう、自分のことには鈍感なんですから」
「えっ?」
「アイテムボックスっていうのはね、とってもすごいスキルなんだよ。迷宮に行くためには重い荷物やたくさんのポーションをもっていかなきゃいけないのに、それを持ち運ばずにいられるんだから」
「それに、アレス様の支援魔術はかなりのものだと聞いておりますわ。当人の能力を十倍にまで上昇させるとお聞きしました。それほどの支援魔術の使い手は貴方意外に聞いたこともありません。十分誇っていいものです」
「私はそもそもアレスさんの能力よりも人柄に惹かれてきてますから。一緒にいたいだけです」
「そ、そうなんだ……」
クラリスはともかく、リリアさんとシャーロットさんが大袈裟までにほめてくれる。
正直照れくさい。
「「「それで」」」
その三人の視線がこちらを向く。
「「「誰と組むの!?」」」
全員からそう訊かれる。
「俺は――」
そう、俺の出す答えは。
「ごめん。保留で」
「「「……はい?」」」
全員がポカンとする。
Sランクの3人だけでなく、ギルドにいた全員が呆けた顔をしていた。
「い、いまなんとおっしゃいましたの?」
「保留で」
「……なぜ?」
「だって、三人とも境遇的にはあんまり変わらないし。正直誰を選べばいいのか判断つかないよ。もっとお互いに人となりを知ってから判断したいな、と」
誰か一人のみから誘われていたならホイホイ勧誘に乗ったかもしれないけど。
でも三人から一気に誘われると、誰の勧誘を受ければいいのか考えなくてはいけない。
でも今のままじゃ、それこそ判断できない。
クラリスとは一年前少し関係があっただけだし、リリアさんやシャーロットさんは話すことはあっても共に冒険に出だことはない。
冒険者として合っているのかはわからない状況だ。
正直、三人ともそんなに印象に差はないのだ。
三人のうちから適当に決めることもできたが、それこそ失礼というものだろう。
優柔不断だと言われようとも、真面目に判断しておきたかった。
そして、その意見を聞いた三人は。
「ふうん、ならアレス君が誰とパーティを組むか、今後のアピール次第で決定するってことね」
「望むところですわ」
「アレスさんに追いつくために一年も待ったんです。あと少しくらいなら全然待てますよ」
と、待ってくれることになった。
こうして、3人のSランク冒険者の美少女たちにアピールされる日々が始まるのであった。
●
一方そのころ。
アレスを追放した『暁の翼』のパーティメンバーは、迷宮でモンスター相手に苦戦していた。
「くそ! なんで勝てない!」
相手はCランクのモンスターだ。
Bランク冒険者ならば、苦戦どころか瞬殺してもおかしくはない。
いつもならば簡単に倒すことができる相手だった。
「あの程度のモンスターなんて、何度も倒したことあるはずだろう!?」
実際ノイマン達はこのモンスターを何度も倒した経験がある。
ただし、アレスがパーティ内にいた時の話だが。
「嘘でしょ、私の攻撃魔術が効かない」
「なっ! くそう! 俺の拳も全く効かないぞ。皮膚が固すぎる。拳が割れてしまった」
「わかりました。すぐに私が治療いたします」
そう言って、治癒師が治療魔術を施す。
しかし――。
「あ、あれ? 治療が全然うまくいかない」
「おい! さっさと治さんか! 俺の拳が怪我しているのだぞ!」
「治りが遅い……。どうして!? いつもならすぐに治るのに!」
パーティの皆の攻撃は通じず、そしていとも簡単に怪我を負っている状況。
さらには治癒魔術もなぜかいつもより効果が遅くなっている。
そしてたかがCランクモンスターに悲鳴を上げるパーティの面々。
その状況を見たノイマンは、嫌な予感がしてたらりと冷や汗を流す。
「く、くそ! お前ら一旦引くぞ!」
ノイマン達はBランクであるにも関わらず、Cランクのモンスターに勝てず逃げることになった。
「はあ、はあ。ここまでくればもう大丈夫か」
Cランクモンスターから全力で逃げたノイマンたち。
「あのモンスターはいったい何だったんだ」
「Cランク、のはずだよね?」
「う、うむ。たしかに何度も倒してきたCランクモンスターだったのだが」
「きっと特殊なモンスターだったのですよ。そうに違いありません」
「そ、そうだな! 分類としてはCランクモンスターだが、突然変異の個体なんだ。なぜかAランクなみの力を持っていたに違いない」
「そうだよね。Aランクなみの力をもっていたんだよきっと。そうじゃなきゃ、私たちが苦戦するはずないし!」
自分たちを納得させるかのように言い訳を述べる。
「あの突然変異にはビビったが、大丈夫だ。いつも通りにやっていけばいいんだよ」
パーティメンバーを励ますように告げるノイマン。
それに頷くパーティメンバーたち。
しかし彼らは気づいていなかった。
モンスターが強かったわけではなく、自分たちが弱いのだということに。
それを証明するかのように、その後の暁の翼はさんざんだった。
「なんでだよ! なんで昨日まで勝てた奴に勝てないんだよおおおおおお!」
出てきたモンスターに敗走するか、倒せたとしてもEランクのモンスターのみだ。
アレスがいたころには倒せていたはずのBランクやCランクのモンスターには勝つことはできない。
Ⅾランクモンスターも、ギリギリの戦いをしてようやく引き分け程度であった。
理由は簡単だ。
昨日まではアレスによる支援魔術があった。
しかし今はそれがなくなったせいである。
本人も自覚していなかったが、アレスの支援魔術はかなりの腕である。
それこそ、|大した腕のない冒険者たち《・・・・・・・・・・・・》をBランクにあげることができるくらいに。
つまり、これまでの暁の翼のメンバーの力はほぼすべてがアレスの支援によるものが大きかったのだ。
ノイマンの剣の鋭さや、格闘家の岩をも砕く拳。そして女魔術師の攻撃魔術は、全てアレスの支援によって威力が向上している。
本来の彼らの実力の数倍の性能を発揮することができていたのだ。
それをノイマンたちは気づかず、自分たち実力だと過信していた。
アレスがいなくなり本来の実力に戻った彼らは、良くてⅮランク程度の実力しかなかった。
治癒師の治癒の効能が低いのもそれが理由だ。
本来は大した実力がないため治癒師の回復が遅い。
そのためノイマン達は怪我や体力の回復をポーションに頼ろうとしたのだが――。
「おい、回復ポーションが足りないぞ!」
「なんでお前ら持ってきてないんだよ」
「しょうがないでしょ! あのバカがいつも持ってきたはずなんだから! 私だって魔力回復ポーションもないのよ!」
そう。
暁の翼のメンバーはポーションの類を全く持ってきていなかった。
いつもはアレスがアイテムボックスというスキルを用いて大量のポーションや薬草などの必需品を持ってきていた。
アレスがいない今、それらはかさばるため暁の翼のメンバーは持ってきていない。
回復ができないため、体の調子も維持できずモンスターに苦戦していく。
さらに、問題はモンスターだけではない。
「な、罠だと!?」
「こんな簡単な仕掛けに引っかかるなんて」
「助けてええええええ!」
ノイマンたちは迷宮内の簡単な罠にも引っかかっている。
これまではアレスが魔術によって罠感知を行ってくれていた。
そして罠の解除までアレスに頼り切っていたのだ。
だから彼らは罠を感知する方法を知らない。
解除する方法も知らない。
普通の冒険者ならば知っているような罠も知らず、駆け出しでも引っかからないような罠に引っかかる。
その様子は、Bランクの冒険者とは思えない。
まるきり駆け出しの冒険者。いやそれ以下だった。
その日の夕方。
王都に帰って来たノイマン達は、冒険者ギルドに来ていた。
「くそっ! なんでだ! なんで」
役立たずを追いだしただけ。
昨日までと違うのはそれだけなのに、さんざんな結果になってしまった。
彼らはギルドの受付で討伐したモンスターの素材を金銭に交換する。
「一日迷宮にもぐってこれだけかよ……」
討伐したモンスターはEランクのみ。
それも数体しか倒していない。
それで得られる金は大して多くない。
正直、一日どこかで肉体労働でもしていた方がよっぽど稼げる。
しかもそれを四人で割っているから、もっと少ない。
一人当たりの収入は、昨日までの稼ぎの数十分の一程度だった。
「暁の翼の皆さんですよね」
ギルドの受付嬢が話しかける。
「いつもはBランクのモンスターを狩っているのに、今日はどうかしたんですか?」
「い、いや。その……」
「なぜか不調だったの。そう、なぜか……」
「そうだったんですね。ダメですよ、体調管理はしっかりしないと」
受付嬢が注意してくる。
そして暁の翼の面々を見て、違和感に気づく。
「そういえば、今日はアレスさんはいないんですね」
「アレス? あいつはいないよ」
「いないんですか。用事でもあったんですか?」
「いや、もううちのパーティにはいないってことだ。あんな荷物持ちの雑魚はもういらないから追い出したんだよ」
「え!? アレスさんを追いだしたんですか!?」
受付嬢は驚きのあまり大きな声を出した。
「ちょ、ちょっと待ってくださいね」
そして、名簿を確認する。
「ほ、ほんとだ。昨日の夜にパーティ脱退の申請が受理されてる……」
「な、なんだよ。あいつを追いだしたことがそんなに驚くようなことかよ?」
「驚くことですよ。だから今日は不調だったんですね」
「あ、あいつの不在と、俺たちの不調は関係ねえ!」
「そうですか? というか、そもそもどうして追いだしたんですか。あんなに優秀な人を」
そして受付嬢はアレスがどれだけ役に立っていたのか、説明し始めた。
彼の支援魔術の卓越した腕やアイテムボックスというスキルの有用性を述べる。
「そもそも、アイテムボックスというスキルは破格の性能のスキルなんですよ。アイテムボックス持ちが一人いるだけで持っていく道具の量が何倍にも跳ね上がりますから。アイテムボックス持ちの人は、それだけでどこのパーティからも求められる人材です」
それに加えて、と受付嬢は続ける。
「アレスさんは類まれなる支援魔術の使い手です。それこそ本職の支援魔術の使い手と遜色ない、いえそれ以上の使い手ですよ。あの人は他人の身体能力や魔術効果を十倍にまで向上させることができるんです。そんなこと、支援魔術師の9割以上ができません」
「…………」
「皆さんもアレスさんの支援魔術で助かっていたはずなのに、どうして彼を追いだしてしまったんですか?」
知らなかった事実を聞き、ノイマン達はサーッと血の気が引く。
「すぐに……。すぐにアレスを探せ!」
●
「アレスゥゥゥぅ!」
酒場で料理を食べていると、聞きなれた声が聞こえてきた。
ノイマンの声かなと思ったら、当の本人が酒場に入ってくるのが見える。
他のパーティメンバーも一緒に来ていた。
俺を見つけるやいなや走ってこっちへ来る。
昨日俺を追いだしたばかりなのに、何の用事だろうか。
「おいアレス!」
「な、なんだよ。そんなに急いで」
ノイマンがすごい形相で俺のところに来る。
「ちょっとちょっと、急に何?」
「誰ですかこの人たち?」
「アレス様の前のパーティの方々ですわ。たしか昨日アレス様をパーティを解消したと聞いたのですが」
一緒に来ていたリリアさんたちが困惑していた。
「僕たちのパーティに戻ってこい!」
「……は?」
「昨日のことは水に流して、パーティに戻してやるって言ってんだよ!」
「水に流すって」
なんだその言葉。
それ、言うとしたら俺の方じゃないか?
いや言わないけれども。
「パーティに戻してやるってなんだよ。昨日は俺のことを必要ないと言って追いだしておいて。ずいぶん勝手だな」
「……ひょっとして君たちさ」
リリアさんがジトーっとした目でノイマン達を見て言う。
「アレス君がいなくなって、まともにモンスターを倒すことができなくなったんじゃないの? それで困り果てて、またアレス君に戻ってくるように説得しに来たんだ」
リリアさんからのその指摘に、ぎくりとノイマンが反応する。
「うるさいうるさい! 別にいいだろう! 君だって悪い話じゃないはずだ。この暁の翼で、栄光を掴むチャンスをもう一度得られたのだから。戦えないから迷宮に潜ることもできずにこうして酒を飲んでいる君にを誘ってやっているんだ」
得意げにこちらを指さす。
「どうせ他に組んでくれるパーティもいないのだろう? その証拠に、まだギルドには他のパーティ申請がなされていなかったぞ」
「確かに他の人とパーティは組んでいないが、俺はもうリリアさんたちに誘われてるぞ」
「な、なに!?」
「まあまだ保留しているんだが、そうでなくてもお前らともう一度組むことだけはしねーよ」
さすがに、一方的に追い出された後にもう一度やっぱり組んでくれなんて頼みを受けるほどお人よしではない。
頭を下げて昨日の態度を謝るのならまだしも、こいつらは偉そうな上から目線の態度のままだ。
人にものを頼む態度じゃない。
例えリリアさんたちに誘われていなくても、こいつらの頼みは聞くことはないだろう。
しっしっと、手で追い払う。
ノイマンたちは顔が真っ青になりながら懇願し始めた。
「た、頼む! お願いだ! お願いだから僕たちのパーティに戻ってきてくれ!」
「無理だな。他を当たってくれ」
その後、やかましく騒ぎ始めた彼らが追い出されるまで時間はかからなかった。
そしてその日以来、冒険者パーティ『暁の翼』はどんどん落ちぶれていった。
まともにDランクモンスターも倒せないためランクもEまで下がった。当然こなせる依頼も少なくなり、収入が減って以前のような贅沢ができなくなった。
色々と苦労しているらしいが、あのパーティを追い出された今の俺には関係ない。
というかそんな余裕はない。
なぜなら今の俺は。
「それで、結局誰と一緒にパーティを組むの?」
「当然わたくしですわよね?」
「一緒に来てください……」
俺は自分の今後のことで精一杯だったから。
というかこれ、マジでどうしようかな。
やれやれ。
どうやら俺の冒険者生活も大変になりそうだった。
面白かったならば、ブックマーク・ポイント・感想をお願いします。