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5:予知夢で知っていたか?ーーいいえ。

「王妃殿下は、予知夢でラナとゼスの事をお知りになられていたのですか?」


 ロゼルさんの問いにわたくしは「いいえ」と首を左右に振る。


「わたくしが視る予知夢は、外れが有りませんわ。対策をした結果、防いだから外れた事は有っても対策をしなければ当たっているのですから、外れた事は有りませんの。ですが、予知夢はわたくしが見たいと思うものが視られるわけではないものです。例えば今日から半年後の事を教えて欲しい、と言われても答えられません。視たものがいつ、どこで、どのような状況で、誰が居るのかなども答えられません。視た通りの事を話すだけ。ですから、ロゼルさんが夢に出て来たのでロゼルさんの存在は知っていても、ラナとゼスの存在は夢に出て来なかったので知りませんでした。ましてや入れ替わっているなんて考えてもいなかったですわ。ロゼルさんが休みを取っているのに、ラナとゼスが取らない事から観察をしていた。そして気付いた。それだけのこと」


 それ以上の事を教えてあげる必要も無いので黙りました。ロゼルさんも尋ねて来ないからこれで終わり、だと思っていたのですが。


「王家の加護が無いから観察する癖が付いた……か?」


 どうやらゼスが護衛に付けられた理由は、感情が表に出易い事を差し引いても、プラスになるから、といった所でしょうか。まさか、このように勘が鋭いとは思っていませんでした。物事の本質を捉えられる部分がゼスの長所で有り、護衛に向いている所なのでしょうが……。今回に限っては、寧ろ当てて来ないで欲しかったですね。


「その問いに答える程、あなたとわたくしには信頼関係など有りませんわね」


 皮肉を溢しましたが、まあこう答えた時点でゼスの問いに正解だと言っているようなものです。




 ーーわたくしが人を観察するのは、正しく王家の加護が無くなったから。





 だって、わたくしの身を守る術ですもの。でも人を観察する癖がついた事で、武器が一つ増えましたし、寧ろ、王家の加護が有るから、と、安堵していた人生の方が恐ろしかったですわね。

 王女で有りましたから、王位継承争い云々関係無く、誘拐も命を狙われる事も有りました。だから身の回りに気を配って用心はしていたはずですが。14歳で王家の加護を失うまで、心の何処かで瀕死の状態に陥っても大丈夫だ、と思っていたのは確かです。王家の加護を失って初めて、自分がそうやって油断をしていた事に気付きましたから。

 そういった意味では、王家の加護を失った事は、わたくしに不利では有りませんわね。


 でも。わたくしが王家の加護を失う事になったあの出来事は、わたくしから人を信じる事の難しさと愚かさを教えてくれました。


 わたくしが王家の加護を失っている事を知っているのは、この国では、此処に居る3人とおそらく3人から報告を受けている陛下……一応の夫のみで、我が国でもお父様である国王陛下と限られたお方のみ。切っ掛けを作ったあの方もご存知無いでしょう。別に話したいとも思わないですし、誰かがあの方に話してくれる事を望んでもいませんけれど……。


 あの方も貴族達も国民達も。

 わたくしを影で悪女と呼んでいた事を知らない程、世間に疎くは無かったので。およそ1年の後に離婚して帰国しても、悪女だから離婚された、と思うのでしょうし、領地経営か国政に携わって余生を生きたいけれど国民達はわたくしに関わって欲しくないでしょうから。


 この1年で死ぬ事になるなら、それもまた運命だと思って潔く死にたいですわね。


 生きて帰国出来るのなら、それはそれで当初の予定通り生涯独身でお父様と次代の国王陛下の為に尽くしましょう。


「王妃殿下」


「……何か」


 いけない。物思いに耽って少しだけ反応が遅れましたわ。その少しが命取りにならないとも限らないのに。油断してはいけません。

 呼びかけて来たロゼルさんは、それでいて何か躊躇うようで、わたくしは尚更警戒します。この1ヶ月。この方ははっきりと物を申す性格らしい事を把握しました。それなのにあからさまに言い淀むなんて、余程の事が起きたのか。それともロゼルさんが実は偽物だった、ということなのか。いえ、偽ロゼルさんの可能性は無いですわね。1ヶ月見続けて来たロゼルさんに変わり有りません。


「もし、もしも、王家の加護を失った件について、陛下が直々に下問される事が有ったならば……」


「その際はお答え致しますが。ロゼルさんには同席して頂きましょう」


 ロゼルさんの問い。まぁその問いは予想の範囲内でしたから、肯定はしましょう。此処は我が国ではないのですから、この国の最高位の方に尋ねられてお答えしない選択は有りません。その選択を取るのなら、死を賜るのと同義。さすがにそんな理由で死にたくないですからね。問われたならお答えしますわ。


「この年寄りを同席させる、と?」


 わたくしの返答に驚いたのか珍しく目が丸くなっていますわね。


「ええ。だってわたくし、陛下が偽物かどうか、判断が出来ませんもの。ロゼルさんは長らくお仕えされているわけですから、陛下が本物か偽物か判別が付きますでしょ」


「ああ……そういった理由ですか」


 ロゼルさんは納得したように何度も首肯しています。

 ですが、大事ですわよ?

 だって、嫁いで来てご挨拶をして以来、1ヶ月間お会いしていないのですもの。王家の加護が無いわたくしでは、顔もうろ覚えの一応の夫が本物か偽物か判別が付きませんから、仮に偽物から命を狙われても、本物だと思っているわたくしでは、咄嗟に対処が出来ないかもしれなくて、うっかり命を落とさないとも限りませんからね。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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