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4:予知夢の内容を伝えます。

「そういえば、一つ。ロゼルさんにお伝えします。信じる、信じないは貴方次第ですし、陛下にお伝えするかどうかもお任せしますが」


「何か」


 信じていない、と言い切った人間に信じられるか解らない内容を話すというわたくしを、警戒するような目をしながらロゼルさんは穏やかに微笑んだ。


「わたくしのギフトが何かご存知です?」


「陛下が調査した所によれば……予知夢、だと」


「ええ、その通りですわ。わたくしのギフトは予知夢。ですが、制限は国内のみですので、この国で予知夢は無理です。そして国境を越える直前に泊まった宿で視たのが」


 わたくしは一旦言葉を切ってから、ロゼルさんの目を覗き込んで放ちました。


「陛下が、暗殺者に狙われる、というものでした」


 ロゼルさんの目が揺れましたが、それだけ。眉一つ動かさない。とても良く出来た執事です。陛下の信が篤い方かもしれませんね。少なくてもわたくしの予知夢を一笑に伏すような事はしないでしょう。


「詳しく、というよりは。視たのがそれだけなのですが。わたくしが陛下と共に居た事から、離婚するまでの1年間のどこかで、陛下とわたくしが少なくても同じ場所に居る時が来るのでしょう。それがいつ、どこかは分かりません。暗殺者の顔も分かりませんわ。わたくしが陛下と共に同じ場所に居て、陛下は暗殺者から“王太子でも無い出来損ないの王子だったくせに”と罵倒されていました。わたくしが視たのはそれだけですわ。ですから暗殺者がその場で死ぬのか、捕らえられて背後を探られるのか、その他なのか。全く分かりませんの。ただ、信じるのであれば、わたくしと陛下が同じ場所に居る事が無いように対策をするとか。暗殺者が剣を持っていた事から、陛下に謁見する方、皆に剣を所持したまま王城へ来させない、とか。どうぞ心ゆくまで警備をして下さい。わたくしにも監視役を山程付けて下さって構いませんわよ。そもそもこの予知夢自体、嘘かもしれませんものね」


 その言葉を最後に、わたくしは黙る事にしました。お茶を淹れたいですが、お湯と茶葉を準備してもらえるとは思いません。ロゼルさんに話しかけていましたが、ラナとゼスもずっと聞いていたわけですから。ラナは表情には出さないけれど、目に警戒心が浮かんでます。ゼスは単純……いえ、素直な方なのでしょう。表情も目も不快げなものでした。あらあら。そのように表情に出してはいけないですわ。ちなみに、その不快げなものは、予知夢に現れた暗殺者というよりは、そのような予知夢を見たわたくしに対してといったところでしょうか。


 ロゼルさんとラナはともかく、ゼスは陛下とお会いした時からわたくしの事を嫌っているように時折不快そうな目を向けていましたものねぇ。陛下と相思相愛のお方との間を裂く女、とでも言いたいのかしら。


 そういえば、陛下が……書面上の夫が、初対面で有りながら、そして一応王妃として迎えたはずで有りながら、わたくしに堂々と女性を連れて挨拶に来ましたが。その腕に抱いていたあの女性が相思相愛の相手だというのは、愚か者でも分かりますけれども……あの方は正妃なのかしら。まぁ、わたくしの立ち位置やあの方の立ち位置など、わたくしには関係有りませんし、尋ねる必要性も感じませんわね。


「かしこまりました。陛下にお伝えします」


 他の事まで考えてしまう程に時が経ってから、ロゼルさんはそう言ったので、わたくしは頷いてそれ以上は何も話す事もなく、1日を終えました。





***

 なんだかんだで、わたくしがこの国に来て1ヶ月が経ちました。最初に宣言した通りの生活を送っています。この1ヶ月の間にロゼルさんは4回休まれました。でも、ラナとゼスは1日も休みを取っていません。大丈夫なのかしら。そう、思ってましたがよくよく観察すれば、どうやら偽ラナと偽ゼスが居るみたいですね。偽、というのは変な言い方ですかね。

 おそらく双子或いはそれ以上かもしれませんが、そういう人と交替しているようですね。でしたらロゼルさんのようにお休みしてくれて良いのですが、そういうわけにはいかないのでしょうか。


 そんなわけで、本日はラナではなく偽ラナです。現在は朝食を終えて読書中です。

 偽ラナが部屋の隅で控えているのですが、ふと髪の毛を触った瞬間に、顔色を変えました。あらあら、やっと気付いたのかしら。今朝から無かったですのに。


「ラナ。今朝から無かったですわよ」


「えっ」


 わたくしが急に言った所為でしょう。偽ラナが慌ててわたくしを見ました。


「いつも髪を留めているバレッタでしょう?」


「ご、ご存知でしたか。今朝から無かった、と仰られましたか」


「知っていたわ。髪結い紐で纏めて、その上からバレッタを使っていますわね。あなたが使う方のバレッタは、アクアマリンの宝石が付いてますわね。離宮に来るまでの間に別の場所に行きませんでしたか?」


「え、えと、はい。そう、ですね」


「では、その辺りを探してご覧なさいな。此処にはロゼルさんとゼスが居ますから、ラナが探して来る間、何も問題は起こりませんわよ」


 わたくしの勧めに、偽ラナがロゼルさんとゼスを見ます。2人が頷くのを見てラナがこの部屋から出ました。わたくしはそれを見てから読んでいた本に視線を戻します。現在読んでいるのは、ロゼルさんが持って来てくれたこの国の成り立ちに関わる歴史書。とても面白いですわ。


「あ、あの、有りました。王妃殿下、お側を離れて失礼致しました」


 暫く読み耽っていると、偽ラナが声をかけて来ましたので視線をそちらに向けます。髪に留めず、手に持っている所を見るに、壊れてしまったのかしら。


「留め具の所が壊れたのかしら。修理に出してね」


 わたくしの言葉に、偽ラナが目を丸くしますが、ロゼルさんも目を丸くしました。あら、何故かしら。


「王妃殿下。何故、そのようにお考えに?」


「えっ。だって、ラナはいつもそのバレッタを使っているわ。毎日。という事は見つかった時点でやはり使用するでしょう? でも手に持ってわたくしに見せた。それは、壊れているから、と考えられる。見つかった事を報告するだけで良いのですから。それともう一つ。わたくしは、今朝ラナと会った時からバレッタが無い事に気付いてました。ただ、わたくしがそれを指摘しなかったのは、ラナがバレッタを使わない、と決めたのかしら? と思ったまでですわ。今日のラナの方は、多分ラナを演じない時はバレッタ以外も使ってオシャレしているのではないかしら? と思ったので、別の物を使用するのかと思いましたの」


「王妃殿下、今日のラナ、とか、ラナを演じない時、とか、気付いておられたのですか」


 ロゼルさんだけでなくラナとゼスも顔を強張らせます。


「ええ。知っていましたわ。ラナとゼス。2人共、何度か入れ替わっていますわよね? 何故入れ替わっているのか不明ですけど。お休みが欲しいなら、ロゼルさんのように休みを取れば宜しいのに、と思ってましたの。お2人共、よくよく観察すれば違いが判りますので、双子或いはそれ以上でお生まれになられたのかと思いましたけれどね」


 わたくしがアッサリと答えれば、ロゼルさんが声を少しだけ震わせました。


「何故、入れ替わっている事を気付かれたのに、何も仰らなかったのです?」


「休養を取る事に反対は無いですもの。寧ろ入れ替わる必要性が不明ですわね。最初にラナと偽ラナが違う事に気付いたのは、そのバレッタですわ。偽ラナが使用するのはアクアマリン。対して本当のラナが使用するのはターコイズ。でも最初は偶には違うバレッタを使用しているだけだ、と思ってましたわ。ところが。本物のラナはターコイズを使用。そして偽ラナはアクアマリンを使用していた。という事は気分なんかじゃない。それと同時に確信しましたの。ラナはわたくしに頭を下げる時、自然に若干頭が右に下がりますの。本当に微かですが。でも偽ラナは微かに左へ頭が下がる。それと、ラナには左人差し指に何も有りませんが、偽ラナには左人差し指にホクロがある。それで偽ラナだ、と確信しましたの」


 わたくしの説明に、ロゼルさんは眉を動かしただけ。ラナは目が揺れています。これ以上無いほどに。ゼスは両目が丸くなり、心底驚いた、という表情です。だから、ゼスはもう少し表情を隠す術を身に付けなさいな。


「ちなみにゼスの場合は、もっと分かり易いですわ。ゼスはそもそもわたくしがこの国に来た事が不快げな様子。陛下にお会いしてご挨拶をした時に立ち会っていましたけれど、その時からわたくしを睨んでいましたものね。相思相愛のお方との間を裂く女、とでも思っているようでしたわ。別にそれはゼスの感情ですもの、とやかく言う気は有りません。ただ、表情に出すことはどうかと思いますけれど。一応、わたくしは持参金という名目で支援金を出すために嫁いで来た身ですのよ? ゼスはその事を頭に入れて、わたくしを嫌いでも顔に出さずに護衛をするべきですわ。それと、わたくしはこれでも他国の王女でした。それもこの国より建国は古い、他国からはそれなりに敬意を払ってもらう大国の位置に値しますの。その国の王女だったわたくしに、そのような目つきで護衛をしている事を誰かに知られてみなさいな。貴方自身の身どころか陛下自身の身を危険に晒しますわよ? ですから表情に出さない事を覚えなさい。ああ、話がズレましたわね。ゼスは、わたくしを嫌っているため、こうしてわたくしが読書をしている事も不快げですわ。今もこの国の歴史書を読んでいるわたくしを、睨みながら見ていましたものね。でも、偽ゼスは、わたくしが読書をしていても、全く表情を変えませんの。最初は表情を隠す事を覚えたのかしら? と思いましたが、翌日はいつものように睨まれましたわね。それで偽ゼスだと理解しました。ちなみに偽ゼスは、わたくしに対して何の感情も無いのか、それとも本当のゼスより余程表情を隠すのが上手いのか、目にも感情を乗せませんので、冷静さが必要な護衛は、偽ゼスの方が上でしょうね。偽ゼスなら何が起こっても冷静でいると思いますもの。わたくし付きの護衛任務が終わった時に、感情を隠す癖を身に付けておかないと、苦労するのは貴方ですわよ、ゼス」


 さて。喋り過ぎて喉が渇きました。お湯は冷めてしまっていますからお茶を淹れても美味しくないでしょう。そうね、冷めたお湯を飲むというのも良いですわね。喉を潤せれば良いのだから。


 ロゼルさんがゼスの指摘を始めた辺りで、ゼスをジッと見ていました。あらあら、後で叱られてしまうのかしら。ちなみに、夜になるとこの3人以外の方が護衛という名目上の監視に着くらしく、人の気配が増えます。まぁ昼夜問わず、休み無しでわたくしの監視は疲れますものね。寝室には、内側からはかけられませんが、外側からは部屋に鍵がかけられますからわたくしが部屋を出る事は不可能ですわ。

 窓も有りませんし、ね。万が一、火災が起きたら、誰かが鍵を開けてくれない限り焼け死ぬ事は確定ですわ。まぁそれでも良いかもしれません。


 死にたいわけでは有りませんけれど。生きる理由もあまりないですし。帰国して民のために生きるくらいしか無いわたくしですもの。でも彼らにとって、わたくしは居なくても大丈夫な存在ですからね。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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