表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/17

3:監視付きも予知夢通りです。

 離宮に案内してくれたのは、執事であるロゼルさん。今の背筋が伸びたキビキビした動作を見るに、お若い時は女性達の憧れだったのではないか、と思います。この方も予知夢通りの人。それからロゼルさんの紹介を受けてラナという私よりいくつか年上に見える侍女とゼスという陛下と同年代くらいの護衛がわたくし付きだそう。ラナとゼスは予知夢では視ませんでしたね。でもきっとロゼルさんと同じく、陛下に命じられてわたくしの行動を監視する監視役でしょう。


 この事にわたくしは何の感情も抱きません。寧ろ正しい、とすら思えます。いくら支援金を持ってやって来たわたくしでも、何の信用も築いていないのに監視も付けずに離宮に押し込めるだけなのは、感心しませんもの。わたくしの偽物として陛下の命を狙っている者、とか、わたくしが本物でもお父様の命を受けてこの国に争いを起こすとも考えられますからね。


 それに、わたくしは予知夢で少しだけ陛下の……書類上の夫の事を知りました。夫はどうやら望まれた国王では無いようです。わたくしが予知夢で視たのは、わたくしが結婚してこの国に来てから、夫が命を狙われる所。その時に暗殺者から「王太子でも無かった出来損ない王子だったくせにっ」と罵倒されていました。わたくしが視たのはそれだけで、その後は分かりませんけれど。


 という事は今までも夫は命を狙われる事が有った事でしょう。夫が国王である事を皆が望んでいないのですから。となれば、夫がわたくしを……いえ、自分が信じている者以外を警戒するのは当然なのです。ですから、監視が付く事に何の感情も沸きませんわ。


「王妃殿下」


「はい」


 正妃か側妃か知りませんが、わたくしが“王妃”なのは確かですから、ロゼルさんにそのように呼びかけられる事もおかしくないのです。


「王妃殿下にはこの離宮と、離宮前の庭以外は出られません。宜しいでしょうね?」


 確認しているようで命じている。年齢から察するに、きっと夫である国王陛下の信用を勝ち得た方なのでしょう。おそらくこのような対応が上手いのでしょうね。長年こういった対応をしていると思います。という事は、ベテランを付けて下さったようなので、夫はわたくしを支援金の分、尊重してくれるのでしょう。


「分かりました。構いませんわ。では、わたくしからもお伝えしておきます」


 何時に起きて、それから散策。その後何時に朝食を食べて、午前中は勉強をしたいので本を読ませて欲しい、昼食は何時で午後からは庭で散策若しくは花壇の手入れ。夕食は何時で何時に湯浴みをして何時に就寝。


「これがわたくしの生活とします。国では国政に携わっておりましたが、執務も公務もしなくていい、という陛下のお言葉に甘えまして、午前中に本を読むという事でお願いしたいのです。本は何でも良いですわ。この国の歴史書でも構いませんし、庶民の生活が書かれた本でも、外国語で書かれた他国の歴史書でも」


「かしこまりました。それから花壇の手入れというのは」


「庭の片隅にわたくし専用の花壇をもらえればいいのです。庭師にわたくしが好む花を植えたい事をお願いして頂けましたら、それで。ああ、支援金が必要なくらいの災害続きであるこの国で、毎日湯浴みをしたい、と我儘を言う気は有りません。ですから花壇の手入れは湯浴みが出来る日に限りで、その他は散策で構いませんわ。朝の散策とは違って長めのつもりですが」


「かしこまりました。他には?」


「好き嫌いは有りませんから、食事は楽しみにしていますわ」


「その、その他は……」


「その他? 何か必要です?」


「ドレスとか装飾品とか」


「公務を行わないなら人前には出ないですわよね? でしたら持参したワンピースとドレスで充分ですわ。装飾品も持参した物だけで構いませんもの。それこそ国民が貧しているでしょうに人前にも出ないのにドレスだの装飾品だの宝石だの、と買い漁るなんて王妃のやる事では有りませんわ。それと、花壇の手入れには、自国の庭師の古着を譲り受けましたので、汚れても大丈夫ですわ」


 わたくしの滔々とした説明に、ロゼルさんとラナとゼスが口を大きく開けていますわね。


「口を閉じた方が良いと思いますわよ?」


 わたくしの突っ込みに3人がハッとして慌てて口を閉じましたわ。


「あ、もう一つ有りましたわね。わたくしは食事もお茶も自分で配膳しますわ。料理は作れませんがお茶は淹れられるから、茶葉と湯をお願いしますね」


「自ら配膳? 自ら茶を淹れる? 王妃殿下が?」


 ロゼルさんがまた口を大きく開けました。あらあら。


「そう、ですわね。少しだけわたくしの事を話しておきましょうか。ロゼルさんとラナとゼスがわたくしに仕えて下さるのなら、直ぐに気付いてしまいますものね」


「どういう事でしょう」


「どの国でも国王陛下及び王妃殿下とその子ども達……つまり王子・王女と王子妃殿下は、王家の加護が有るでしょう」


 王家の加護。ギフトとは違う、王族だけがもらえる神の加護で、一度だけ瀕死の状態から生還出来る、というもの。どの国の王家でも王族として生まれた時から授かります。世界が始まった時から、王族は暗殺やら内乱やら様々な事で命を狙われる事を憂いた神が、その加護を与えた、とそう言われているもの。直ぐに死んでしまう人間にそのような加護を与えるという事は、国の存続を永く願っているからなのか、或いは早逝してしまう人間程、優れている者が多いからなのか。他の理由が有るのか。神のお考えは解りかねますが、そのような加護が有るのは確かなのです。


 但し、この加護は王族に限り、ですから、降嫁した王女や爵位を戴き臣下になった王子等には加護が消えます。そういうもの、なので仕組みなどは分かりませんが。


「ええ、左様でございますね。その証としてどの国の王族も左右の目の色が違う、と。結婚により王族入りした貴族令嬢も王族入りしたら目の色が変わる……王妃殿下は、同じ、ですね?」


 ロゼルさんが滔々とした口ぶりで話しながら、おもむろにわたくしの目を見て、唖然とした物言いに。


「ええ、そうですの。つまり、わたくしには王家の加護が有りませんの。ですから、毒による暗殺の可能性を低くするために自ら配膳し、自ら茶を淹れるのです。その間は毒を入れられないでしょう? それでも入っていたのなら、料理を作った者や茶葉を準備した者が毒を混入した、と判断出来ますものね」


「王妃殿下は既に、一度、瀕死の状態に陥った、と? 故に加護が無い、と?」


 あらまぁ。わたくしの説明を聞いていたのかしら。配膳前に毒が混入していたら、料理人等の仕業だ、と言っていますのに。まぁ気になるのは仕方ないのかもしれませんわね。ですが。


「詳しい事を話す程、あなた達と信頼関係を結んでいませんわ。あなた達がわたくしを信用出来ないのと同じようにわたくしもあなた達を信用出来ませんの。それは当然、あなた達も理解している、と思っておりましたけれど、違いますの?」


 わたくしの堂々とした信じてない宣言に、ロゼルさんもラナとゼスも言葉が出てこないのか無言でした。でも、夫がわたくしを信用していないのに、何故わたくしが夫を、夫に選ばれた者達を、簡単に信用すると思われていたのかしら?

お読み頂きまして、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ