エピローグ
すみません。19日のつもりで予約投稿しておいたら間違えて本日(20日)の20時の予約投稿にしていました。本日8時に切り替えました。昨夜の20時を待っていた方、すみません。
「シアノ様」
「お久しぶりにございます」
わたくしは、久しぶりにアルザス様と真正面から顔と目を合わせました。アルザス様と目が合うのは……どれくらいぶりでしょうか。婚約期間中も、最後の方はもう目も顔も合わせてもらえませんでしたものねぇ。
「シアノ様、先ずは私が如何に愚かだったのか、それについて」
「いいえ。真実を知って直ぐに頂いたあの時のお手紙でアルザス様のお気持ちは充分ですわ。もう、良いのです。あなた様が罪悪感を背負って生きていく必要も有りませんわ」
アルザス様が涙を一筋溢して深く頷かれました。
ーーあれから……わたくしがお飾りの王妃として嫁いでから3年の月日が経ち、わたくしは21歳を迎え。アルザス様も25歳を迎えられました。婚約者として言葉を交わせていたあの頃よりも甘えが抜けた精悍な顔立ちになられたアルザス様。わたくしも少し大人になれているでしょうか。
わたくしとアルザス様が居るこの場は、アルザス様のご生家である公爵家の領地。アルザス様がソイーナ様とご結婚されていた頃、そして3年前に離婚してから後も住まわれているお家です。
「シアノ様、体調はどうですか?」
「お手紙に記しました通り、そして今アルザス様がご覧になられている通り、すっかり元通りですわ」
あの謝罪の手紙を頂いてから、わたくしとアルザス様はお手紙のやり取りを時折しておりました。そうしてお互いのタイミングが良かったのでしょう。本日こうして再びお会いすることになりました。
「それは良かった。……思えば、あなた様は私と婚約している時から周囲に気を配り、周囲の人の幸せを望んでいるようなお方でしたね。私は、そんなあなたを可愛く思っていたのに……いつの間にか忘れていた。再び思い出せたことは嬉しいと思いますよ」
そんなことを話しながら、互いの近況を報告してそろそろ時間切れだという頃合いに、アルザス様が仰いました。
「また……お会い出来ますか?」
「友人付き合いをしていくのですもの。またお会い出来ますわ。ただ、今度は夫と一緒になると思いますが」
「もちろん、そうなさって下さい。シアノ様が幸せで、私も嬉しい。本日は……夫君は母国に用が有るのでしたか?」
「いいえ。夫の母国からの要請でわたくしのお父様にお会いしているのですわ」
「ああ、そうでしたね。馬車までお見送りしましょう」
何年ぶりかでわたくしはアルザス様のエスコートを受けて、馬車まで歩きます。思えばこうしてアルザス様の隣で一生歩いて行くのだと思っていた幼き頃を振り返れば、なんだか今がとても不思議です。アルザス様は愛した女性とご結婚出来たのに、結局お別れしてしまい。わたくしはお慕いしていたアルザス様との未来が分かたれて、別の方の妻に。
「アルザス様」
「はい」
「わたくし、幼いながらもあなた様に精一杯恋しておりました。あの頃は、あなた様の妻になれる事を思う度に幸せでございました。今はもう懐かしい思い出ですが……終わりが綺麗では無かったですが、それでも、あなた様と過ごした日々は良い思い出ですわ」
「……っ。あり、がとう、ございます。どうかお元気で」
アルザス様がまた涙を流されましたが、わたくしは見ないフリをして馬車に乗り込みました。王都へ馬車を走らせてもらい、アルザス様との思い出を懐かしく振り返ります。やがて王城が見えて来てもうすぐ王都入り口、というところで。馬に乗った方がこちらに駆けて来ます。馬上の人影は……
「まぁ、わたくしを迎えに来て下さったのね」
夫であるパフェム様です。
「シアノ」
「あなた」
「迎えに行こうと思っていたが、すれ違いにならなくて良かった」
「はい。あなた、お疲れ様でした」
「ありがとう」
馬車から降りたわたくしと馬から降りたパフェム様は、抱きしめ合ってお互いの心音に耳を傾けます。
わたくしがあの国の陛下を庇い毒の刃により倒れ……パフェム様から再び求婚された時は、お受けする気は有りませんでした。実際2回目の求婚もお断りさせて頂いたのです。あの国の陛下に側妃の件を打診されてお断りした後、体調が回復するまでの間のみ、ロナ様・ラナ・ゼスと陛下に他国についてのお勉強会は開いておりました。外交で気をつける部分や、あの国の特産品を他国と売買する時の方法など。それでも半年くらいでしたから、あまり教える事は出来ませんでしたが。
半年くらい経ち、体調が回復した頃に、陛下とロナ様から再び側妃として力を貸して欲しい、と打診されました。陛下のことは嫌いでは無いですが、別にどうでもいい存在でしたが、ロナ様にお引き留め頂く事は心が揺らぎました。ロナ様をお支えするために側妃として改めて過ごすのも有りだったかもしれませんが……。
やっぱり未来が解らないこその自由への憧れの方が、わたくしは強くて。他国との付き合い方を記した手紙を月に1度出すことで、お断りさせて頂きました。あの国は陛下とロナ様が周りの力を借りて頑張ることでしょう。そして。離婚予定よりだいぶ遅れたものの晴れて離婚したわたくしは、母国へ帰りました。
いえ。正確に言えば……
母国へ帰る旅路に出ました。
でしょう。あの国からわたくしの母国までは1ヶ月掛かります。その間に他国も1つ通り過ぎます。あの国と母国との間にある国に入国したところで、わたくしの帰国を知っていたパフェム様がわたくしを待っておりまして。
「シアノ様、私の国へいらっしゃいませんか」
と、お誘いが。何度でもわたくしに求婚する、と仰るパフェム様のお気持ちは嬉しいものの……嫌では無くて嬉しいと思えるのですから、わたくしはパフェム様を好ましく思っていたのでしょう……わたくしではパフェム様のお子を産めません。それをご存知のはずなのに、と困惑したわたくし。
「子どもは居なくても構いません、と伝えましたよ。平民でも一代限りの爵位でも王族のままでも大丈夫です。シアノ様が望む生活を共に送りましょう」
3度目の求婚に、わたくしは折れまして。好ましく思うパフェム様と結婚することに致しました。それからパフェム様の母国へ向かい、国王陛下ご夫妻に結婚の許しをもらったわたくしとパフェム様は、一代限りの伯爵位を賜ったのです。領地が無い代わりに、パフェム様の母国とわたくしの母国との繋がりを強固にする結婚ということで、パフェム様は外交官として働く、と。ここまで手筈を整えて、密かにわたくしのお父様とも連絡を取り合い、わたくしが受け入れれば、パフェム様との結婚を許可する、と言質を取っていたそうです。
ですから、パフェム様のご両親であらせられる国王陛下ご夫妻もわたくしのお父様も反対など無いのだそうですわ。とはいえ、わたくしは離婚された身ですから、直ぐにパフェム様と結婚するのは、一貴族のよりも余程スキャンダルですので。わたくしが離婚してから1年後の結婚、ということで両国間の話し合いが進み。
およそ半年前にわたくしはパフェム様と結婚致しました。
普段はあちらで暮らしていますが、パフェム様は外交官ですし、わたくしも外交官夫人としてパフェム様と共に外交分野で働いておりますの。女性には女性の外交が有りますもの。
婚約者とは婚約解消の憂き目に遭い
最初の結婚は予知夢で知っていたとはいえお飾りの王妃という憂き目に遭い
ですが。2回目の結婚は、まだ半年しか経過しておりませんが、今のところ順調で、尊敬する夫との日々は笑顔になることが多い日々を送っております。
お飾り王妃だったことも今の日々に繋がっているのなら、悪いものでは有りませんでしたわね。
お読み頂きまして、ありがとうございました。
予約投稿ミス失礼しました。




