『パラレルワールド』
やっと、大きなプロジェクトが一段落した。
今週も忙しかった。
明日は、土曜日で休みだ。
久しぶりのオフ。
しかも、彼女も別の用事があるらしく、1人の休日だ。
格別に、今日のビールは美味しい。
…ん? 電話?
あ、呑んで、そのまま、寝てしまったのか。
休日の朝から、誰だ?
美由紀か?
あれ? 田上次長からだ。
ピッ
「はい、猪井です。次長、どうしました?」
「おい、猪井!何やってる!今日は、明日のクライアントにプレゼンする最終ミーティングだろ!さっさと会社に来い!」
「え? 次長、プレゼンは、昨日終わってますが。」
「何、バカな事言ってる!プレゼンは明日だ!」
ピッ 電話を切られた。
何なんだよ。
次長、ボケてるのか?
切った携帯を覗くと、7月29日(木)と表記されていた。
「はぁ?何で、木曜日なんだよ!土曜日じゃないのか?」
ヤバい、とりあえず会社にいかないと。
確実に遅刻だ。用意してる間にタクシーを呼ぼう。
急いで用意し、迎えに来たタクシーに乗り込む。
「すみません。新橋駅まで急いでお願いします。」
「はい。」
ん? 運転手、マスクしてないな?
俺は、閉まりきっている窓を少し開けた。
「お客様、夏風邪? 私もね。タクシー乗ってエアコンばかりだと、体調崩しそうですよ。」
何を言ってる?コロナ禍でマスクは普通だろ?
「運転手さん?マスクはしないのですか?」
「え?そこまでは。ははは」
「す、すみません。運転手さん。黙ってもらってもいいですか?」
「は、はい。」
俺は、おかしいと思いながら、いつものようにスマホで経済ニュースを開いた。
「…?」おかしい。コロナ関係のニュースがない。オリンピックもない。ど、どういうことだ?
他のサイトも開いてみたが、まったくコロナの記事が無かったのだ。
会社につき、受付にマスク姿を心配され
会議室に入った。
おいおい、ソーシャルディスタンスは?
会議室は混み合って激しく意見を交わしていた。
「し、失礼します。遅れました。」
一礼して、席についた。
「猪井、遅いぞ! 明日のプレゼンは、お前が要なのに、気が緩んでいるぞ!それになんだ!そのマスクは?」
「はい。高野部長すみません。少し体調が」
タブレットから、会議資料を確認すると、
「???」なんだ!こんな企画書見たことがないぞ!
俺が、プレゼンするのは、コロナワクチンに代替できる人工ウイルスの最終プレゼンだろ?
「な、何なんだ!」
「どうしました。猪井?」
皆が、こっちを向く。
や、やめろ。人が近すぎて気分が悪くなる。
「も、申し訳ありません。やはり体調が悪くて早退させてください。」
急いで会議室を出る。
「猪井、明日頼むぞ!」
逃げるように、会社を後にした。
家に戻り、何もわからないまま、ベットに入った。
「寝れば、元通りになる。きっと悪い夢だ。」
なかなか、眠りにつけなかったが、いつの間にか寝ていた。
「は! 何日だ!」飛び起きて、スマホを確認する。
「7月28日(水)だって?」
戻ってる?
何なんだ?
テレビを着け、SNSを確認する。
7月28日だ。テレビの首相が天然パーマだ。
落ち着け。とりあえず、普段通りにしよう。
用意をし、時間通りに会社に向かう。
駅は、人混みだ。マスクをしてる人など、俺ぐらいだ。
吐き気がしそうだ。
2年で、こんなにも、他人と 0距離になるのを拒絶するようになっていたなんて。
会社につくと、昨日の会議室での事や、遅刻の事など無くなっていた。
本当に、昨日に戻ってる?
俺にとっては、明日の感覚…気が変になる。
とりあえず、自分のスケジュールに合わせて
適当に仕事をこなした。
夕方には、皆が心配するようになっていた。
早く帰ろう。
携帯がなり、美由紀の表示が出てた。
「…」
ピッ
「はい。」
「悟、今日 少し遅くなるから先に店に行ってて。」
店? 美由紀とは、1年前に知り合ったばかりで、コロナのおかげで家デートばかりでだから行き付けの店なんてないはずだぞ。
「美由紀、ゴメン。体調悪くて、今日は帰るよ。」
「え、大丈夫?」
「ゴメン。」
ピッ。
寝れば、元に戻るのか?それとも…
俺は、起きていることにした。
………。
もうじき、日付が変わる。
………。
0時にな、
なんだ!瞬きくらいの短い時間で確実に変化があったと感じた。
スマホを確認する。
「あぁ、7月27日だ。」
1日づつ、過去に戻ってる。昨日になってる。
俺には、明日の感覚で未来がわからない昨日。
どうやって、戻る?
どうして、こうなった?
……ま、まさか、あの人工ウイルス?
ここではない、俺がいた元の世界では、私が勤める医薬品会社は中国の医薬品会社と共同でアメリカのコロナワクチンに対抗するための新型ワクチンを開発していた。
人工的に作ったコロナウイルスをワクチンで接種し抵抗力をつけるものだ。副作用がほとんど無いワクチンを目指し、コロナにかかる率を90%押さえるものにしたはずだった。
そして、非認可だが、その薬を俺が接種していて、その効果を金曜日のプレゼンで発表したのだった。
大成功のはずだった。
元の世界はどうなっているんだ?
昨日(明日)の世界はどうなっていくのだ?
俺が通りすぎた世界はどうなって変わるのだろう?
かなりの月日に戻った。
美由紀とは、出会ってない時はとうに過ぎた。
2020年10月 こちらの世界で東京オリンピックも見た。
閉会式から見て、結果を知っているオリンピックは、感動が半減したが…
こちらの生活にも慣れてきた。
俺も若返ってきた。
しかし、今 俺は死んだ方がいいのじゃないかと、思っている。
俺が向かっているのは、中国 武漢市に向かう車の中だ。
今日は、2020年、1月 新年の挨拶に武漢の例の研究所に向かっている最中だ。
読んで頂き誠にありがとうございます。
今日のTwitterトレンド『パラレルワールド』です。
昨日の『人工ウイルス』も入れてみました。
本当に過去の生活に戻れるのでしょうか?
過去が違和感だらけになったりして…
それでは、またお会いいたしましょう。(._.)ペコッ