追放
僕こと一ノ瀬一夜は朝、教室の喧騒の中で居眠りを満喫していた。
何時も通りの睡眠タイムだ。僕は学校ではほとんどの時間寝ている、入学当初は先生方も注意して来たのだが注意が聞かなくずっと居眠りしていたから一ヶ月ぐらい経つともうこいつはほっておけということになった。
◇ ◇ ◇
僕は教室のざわめきに、僕は意識が覚醒していくのを感じた。居眠り常習犯なので起きるべきタイミングは体が覚えている。その感覚で言えば今はお昼休みのようだ。
僕は、突っ伏していた体を起こし、十秒でチャージできる定番のお昼をゴソゴソどリュックから取り出す。
なんとなしに教室を見渡すと購買組は既に飛び出して行ったのか人数が減っている。それでも、僕の居るクラスは比較的、弁当組が多いので三分のニくらいの生徒が残っており、それに加えて四時間目の数学担当の教師である水瀬玲奈先生(二十三歳)が教壇で数人の生徒と談笑していた。
ーーじゅるるる、きゅっぽん!
早速午後のエネルギーを十秒でチャージした僕はもう一眠りするかと机に突っ伏そうとした。その瞬間に教室内に光り輝く紋様ーー俗に言う魔法陣らしきものに気付き金縛りにあったかのように硬直する。
その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室を満たすほどの大きさに拡大した。
自分の足元まで異常が迫ってきたことで、ようやく硬直が解け悲鳴を上げる生徒達。未だ教室にいた玲奈先生が咄嗟に「皆!教室を出て!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのと同時だった。
◇ ◇ ◇
両手を顔で庇い、目を閉じていた僕は、ざわざわと騒ぐ無数の気配感じてゆっくりと目を開いた。そして、周囲を呆然と見渡す。周りには、十二人のいかにも騎士という感じの人と、どこかの国の王女と言われても納得してしまうほどの美貌を持つ、同い年の少女がだだっ広い空間に立っている。
騎士に守られるようにしている少女は、肩で息をしながらこちらに視線を向け、声を上げた。
「ようこそお越しくださいました。勇者の皆様。こちらへどうぞお越しください。国王陛下が全てを説明してくれますゆえ」
執事っぽい服装をしたお爺さんが恭しく僕達に礼をして、無駄に大きな扉を目指す。
質問しようとしていたクラスメイト達は一人も漏れずお爺さんの視線に黙らされた。とりあえず僕達はお爺さんに付いて行き、豪華な扉の向こうには玉座に座っている、ブクブクと太った身体に脂ぎった肌に指にはギラギラ光る高そうな指輪を付けていた。ラノベなどで良くある傲慢そうな国王だった。
国王に説明されたのは、まさにファンタジー小説によくあるような展開だった。
この世界は“イグラシヤ”と言い、魔王が復活して魔族に好き放題されているらしい。そこでこの国、グラシヤ王国がこの国に伝わる秘伝魔法の勇者召喚を実行した。勇者召喚された勇者達は強力なスキルーーエクストラスキルーーを貰えるため、僕達に魔王討伐をしてほしいと言うことだった。
僕は実際この国がどうなろうと知ったこっちゃない。僕は元の世界に、漫画やラノベの最新刊が気になる程度の未練しかないので、魔王討伐は陽キャ達に任せて、僕は心の中で「異世界スローライフを満喫しよ!!」と歓声を上げた。
しかし、クラスの人達の反応は別れていた。オタクグループは「よっしゃぁぁー!!チートきたぁぁぁ!!」と俺と同じ歓声を上げ、陽キャ達は「早く!!俺達を家に返せよ!!」や「誘拐だぞ!!」と怒声を上げていて、女子に至ってはほとんどの人が「家にかえしてよぅ~!」と泣き崩れているか、不安げにあたりを見渡している者が少数いた。生徒が騒いでいると、厳ついガタイのいいオッサン一歩前に進み、謝罪の声を上げた。
「すまない。この世界の都合で君達の日常を壊してしまい、本当にすまなかった!!そこで、無理を承知でお願いする!この世界を救ってはくれないだろうか」
「「「お願いします!!」」」
オッサンの謝罪に合わせて、多くの騎士のような人達が一斉に願いを口にした。その声に生徒達は困惑し、目を見合わせ国王の方を向いた。
どうやら生徒達は国王達の話を聞くことにしたようだ。
「では、宰相頼む」
王はそれだけ言って宰相に丸投げし、そして水晶を持って登場した宰相さんが引き継いでステータスの説明をしてくれた。
「皆様、こちらの水晶に順番に手をかざし、心の中で“ステータスオープン”と唱えてください。」
宰相はそれだけ言うと、意味ありげに微笑んだ。生徒の中で天上優斗が声を張り上げた。天上優斗はサラサラの茶髪と優しげな瞳、百八十センチメートル近い高身長に細身ながら引き締まった体。誰にでも優しく、正義感が強い。少々思い込みが激しいところがあるが許容範囲だ。
「みんな!混乱していると思うけど、だけど僕はこの世界や人々の為に魔王を討伐に協力しようと思う!!」
優斗が魔王討伐に賛成の声を上げると、他の生徒達は「優斗がやるってなら、俺はお前について行くぜ!」「ああ、そうだなお前がやるってなら俺も行くぜ!」その声に便乗し、多くの生徒が賛成した。
「みんな、ありがとう。」
「決まりましたかな?」
「はい、僕達はこの世界や人々の為協力しよと思います」
「では、こちらの水晶へ」
宰相に言われ、優斗が宰相の持っている水晶に手を触れて言葉を唱えた瞬間、水晶から光が溢れ出てきて、頭上にRPGのような光るボードが出現した。
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【天上優斗】
職業:勇者
種族:人族
レベル:1、性別:男性、年齢:17
魔力:400/400
生命力:300/300
攻撃力:550
防御力:520
俊敏力:450
知力:300
運:500
BP:10
SP:10
スキル:《剣技II》《体術II》《速読III》《算術V》《魅了V》
ユニークスキル:《聖剣召喚》
称号:《異世界人》《勇者》
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「流石は勇者様。素晴らしい数値とスキルでございます。この世界の一般人は攻撃力一○○が限界。戦闘向きの職業でも五○○が限界です。英雄などでも限界は五○○○です。なのに勇者様は初期ステータスから五〇〇。これならば、成長すれば必ずや魔王をお倒しになられることでしょう。ほかの方々にも期待が出来ますね。それでは他の人達も順番にどうぞ」
その後、順番に他の生徒達のステータスを確認していった。
「それでは、最後の人は前へ」
「はい、〝ステータスオープン"」
宰相に言われ、前へ進み水晶に触れた。
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【一ノ瀬一夜】
職業:――
種族:人族
レベル:1、性別:男性、年齢:17
魔力:100/100
生命力:10/10
攻撃力:10
防御力:10
俊敏力:10
知力:10
運:10
BP:10
SP:10
スキル:《速読IV》《算術VI》
エクストラスキル:
ユニークスキル:
称号:《異世界人》
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ステータスを見た瞬間に宰相の僕を見る目が変わった。最初は尊敬の視線だったが、次に瞬間には蔑みの視線に変わっていた。
◇ ◇ ◇
全員のステータスの確認が終わり、宰相に部屋を案内された。他の生徒達は豪華な部屋だったが、僕が案内された部屋は何というか牢獄みたいな部屋に案内された。
「あの、ここが僕の部屋ですか」
「いいえ、ここはあなたの部屋ではありませんよ。まぁ、とりあえず中に入ってみてください」
宰相に言われ、部屋に入ると教室で見た時と同じような光が部屋を白く染め上げた。
目を開くとそこは森の中だった。