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「これですぐるは私のもの」
そう呟いた女はゴミ捨て場のように腐臭漂う部屋で、ゴミに塗れて古びたパソコンを見ていた。
画面に映るのは、遠い過去に自分が逃した鯛と愚かだった自分。
女は自らの若さに鼻をかけ、未成熟な若者をからかい、逃した獲物の大きさを後になって知った。
そして、腐った現実とおさらばするために、女は過去を変える手段を手に入れた――少年の夢に潜り込み、過去の自分を説得する手段を。
碌に睡眠もとらず、少年を手に入れるためだけに時間をつぎ込んだ。
あとはこの醜い現実から解放されるだけ――。
女は眠気を覚え、ゴミの中に寝転んだ。
「目が覚めれば、こんな生活からおさらばできる。すぐるの隣にいるのは藍野あおいなんていう子娘じゃなくて、この私、赤井茜なんだから」
女は輝かしい未来を胸に眠りについた。
過去を変えることなど出来はしないのに--。
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