32
茜色に染まる空を見つめながら、ぼくはお姉さんと河川敷に腰掛けていた。
静かな夕刻だった。
太陽が沈み、暗闇の世界が訪れるとは思えなかった、思いたくなかった。
目の前に広がる茜色がすべてを支配し、孤独から永久に切り離してほしかった。
二人だけの世界でいいんだ。
こうやっていつまでもここに二人でいたい。
それ以上は望まない。
ぼくを愛してほしいだとか大それたことなんて言うつもりもない。
ただ二人で一緒にいたい。
彼女もそれを望んでいたらの話だけど。
ぼくの身勝手な考えを彼女に押し付ける気はないんだ。彼女が孤独を愛し一人でいたいのなら、もしくは、ぼく以外の誰かと一緒にいたいのなら、ぼくはそれを受け入れる。孤独から救ってくれた恩人へのせめてもの恩返しだ……。
そんな結末なんて考えたくもないけど――。
茜色はより深まっていった。夕日は息が詰まるほど切迫し、物悲しげでどこか冷たかった。だけど、ぼくと彼女の吐息は自然と溶け合い、これから訪れるであろう孤独な時間など意に関してはいなかった。
二人でいれることを心から感謝し、これから訪れる未来を切実に願っていた……。
彼女は何も言っていなかったけれど。
ぼくは感覚的に感じ取っていた。
彼女がぼくと一緒にいることを望んでいると、根拠はないけどわかったんだ――彼女の吐息や、仄かに伝わる暖かさの中にそれを感じた。
それなのにぼくは彼女の顔を見ることができなかった。初めて彼女の存在を認識し、お互いに顔を見合わせてから、長い時間が経ったのに。
ぼくに勇気がないのかもしれない。
今とは違う、何かを求めたのかもしれない。
少なくともぼくは今、はっきりと何かということはできない。
そんな状況で彼女の隣にいる。
彼女に相応しくないんじゃないかと不安になる。
ぼくなんかじゃなく、もっと立派で向上心溢れる素晴らしい人がいるんじゃないかと……。
不安がよぎったのを察知したように、彼女はぼくを見つめた。
ぼくの悩みを受け入れ、全てを受け入れるような笑顔だった。
お互いに言葉はいらなかった。
彼女が瞬時にぼくの思いを受けとったと確信した。
ぼくらに言葉は必要なかった。
ぼくらは言葉もなく繋がっていた。
ぼくは今抱いている悩みを彼女に伝えた――瞳を通して。
彼女はぼくの悩みを余すことなく聞き入れ、ぼくを受け入れてくれた。
初めてぼくらは直接触れ合った。
長いこと思い描いた感触が体中から伝わり、脳が弾けるほどの刺激が駆け巡った。
孤独に付け入る隙を与えないようにお互いの温もりを一心不乱に貪った。
お互いを求め続けた。
これ以上、ぼくに望む物はなかった。
いつまでも、どこまでも、彼女と二人でいればそれでよかった……。