表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
茜空の下であなたに会えたら  作者: 谷中英男
31/38

31

 放課後になって、図書室にもよらずに学校から逃げ出した。

 暗闇のように真っ黒な憎悪を、藍野さんでさえ向けてくるんじゃないかと不安になったんだ。

 藍野さんはそんな人間じゃないのに。

 ぼくの不安なんて大海の如く大きな心で受け入れてくれる人なのに。

 ぼくは誰かといるのが怖くなっていたんだ。

 沈黙に凍り付き、真っ赤な敵意渦巻く教室で半日も過ごしたせいだ。もはや誰も信じられない。ぼくを知るものは誰もが敵で、ぼくを傷つけるとしか思えない。

一人になりたかった……。

 どこか遠くへ行って、誰に何を言われることもなく静かに暮らしたい。

 ぼくみたいなただの高校生には無理な話だけど……。

 ぼくの足は自然と家に帰るのを避け、どこへ行くでもなく彷徨っていた。

 歩みを進めれば進めるほど、見慣れた景色はいなくなっていく。ぼくの心に巣食った暗澹たる不安も墨汁を水で薄めていくように希釈されていく。

 ぼくを知らない見知らぬ景色が微笑みかけてきた――優しい微笑みだった。ぼくの過ちなど気にも留めないような暖かな微笑みが傷んだ心に染み渡っている。

 さっきまで一人になりたいと思っていたのに、もう誰かに会いたかった。名も知らぬ誰かでいい。お互いに微笑み、二言三言、言葉を交わすだけ。それだけでぼくは満たされるはず。教室での辛辣な出来事や、みどりとさくらとのいざこざも乗り越えられる。またいつもの日常に帰れる。そんな気がしたんだ――。

 どこからか誰かの気配が風に乗って流れてくるのに、いくら歩けども誰とも出会わなかった。曲がり角を見つけるたびに、出会いが訪れると期待はするけど、曲がった先には乾いた風が吹き通るだけ――猫一匹いない。

 まるで、暗闇の中を歩き続けたあの夢のようだ。不安に苛まれ、どこからか聞こえる足音に縋るしかなかったあの時、ぼくは歩くのをやめなかった。歩き続ければ、いつか誰かに出会えると心の中でわかっていたから。

 ぼくは歩き続けるしかない。

たとえ今日、誰かに会えなくても、いつの日か絶対に会えるはずなんだ――あの夢が教えてくれた。

 太陽が沈み、夜が訪れ、辺りに暖かな家族の団欒が零れ出るまでぼくは歩き続けた――。

 愛しの我が家には家族の団欒は見当たらず、冷めた夕食だけが無愛想にぼくを待っているだけだった……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ