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茜空の下であなたに会えたら  作者: 谷中英男
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 楽しい時間はあっという間に過ぎ去るように、優しい時間は気づけば終わっていた。

 ぼくは喧騒渦巻く動物園に放り込まれて、閉園を待つしかない。

 誰からも好奇の目を向けられ、ただ時間を無為に過ごすだけ。

 ぼくがパンダだったなら、これが運命だとさっさと諦めて、喧騒を受け入れていたと思う――ストレス云々は置いておいてね。

 ぼくは残念ながらパンダじゃない――名前も知られず、存在を認知されていない地味な動物だ――当然、ぼくのために莫大な金額が使われているわけもない。どこにでもいて、どこでも見られる平凡の塊だ。

 そんなぼくはあたかも背景かのように過ごすのが日常なんだ。

 ぼくはそういう人間なんだ。

 だけど、今日は様子がおかしい。

 あんなことがあったわけだから、みどりが話し掛けてくるわけなんてもちろんないけど、ぼくが席に着くなり教室に沈黙が降り立った。

 それはほんの一瞬だったはずだし、気に留める必要もないほど些細な出来事のはずだ。

 誰でも経験しているはずだ。

 自分が話した時に限って、示し合わせたわけでもないのにみんなが黙って、自分の発言だけが虚しく響く――。

 そんなのはよくあることだろ?

 取るに足らない出来事なはずなのに、ぼくにはわかった――恐ろしいほどの確信だ。

 みどりかさくらが、もしくは両方がぼくとのいざこざを暴露したんだ。そうじゃなければ、こんな都合よくみんなが一斉に黙りこくるわけもない。それに、教室に入ってきてから感じていたけど、見るからに空気が重いのがその証拠だ。普段なら、ぼくが教室に入ったところで、我関せずとばかりに誰もが思い思いにさえずっているんだ。

 ここまで言えば、もうぼくの言いたいことはわかるだろ?

 クラスメイトはぼくが抱えている問題を知って、ぼくを批難しているんだ……。

 なんて嘆かわしいんだろう。

 人間はなんでこんなにも愚かで軽率なんだろう。

 ぼくの主張を聞きもせずに、ぼくを悪者と決めつけるなんて。

 これじゃ魔女裁判と同じだ。

 狂気に満ちた弾圧だ。

 だけど、ぼくはこの一方的な殺戮を受け入れるしかない。

 愚鈍な世界では声が大きいものが正義で、声の小さきものは箸にも棒にもかからない。ただ無視され踏み潰されるだけだ。

 つまるところ、ぼくはこの言われなき糾弾を素直に受け入れるしかない。

 どこにいて、どれだけ叫んでもぼくの声は届かないのだから。

 でも、ぼくは大丈夫。こんなことは日常茶飯事なんだ。いつでもどこでも誰かからのけ者にされているからね。最終的にぼくの味方でいてくれるみどりがいないのは幾分堪えるけど、これも結局は些細なことで、いつの日かこの感情も砂塵のように消え去っていく。

 いまのところは津波のように憎悪と悲哀が終わりも見えずに押し寄せているわけだけど。


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