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茜空の下であなたに会えたら  作者: 谷中英男
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 まだ見ぬ誰かを探し求め、ぼくは歩き続けていた。いつ終わるかもわからないし、本当に誰かいるのかもわからない暗闇の中を。

 虚しい行軍だ。空想上の生物を探し求めるように滑稽だ。

 だけど、足を止めることはできない。ぼくはまだ諦めていないんだ。いつかはこの暗闇が終わりを告げ、誰かに出会えると信じているから。だから、歩き続けるしかない。どんなに恐怖がぼくを痛めつけようとも。

 ぼくは幻想にしか過ぎない希望に縋りつき、歩き続ける。それはある種の人間の性だと思う。希望を失えば絶望に飲み込まれ、生きることをやめてしまうんだ。

 ぼくは絶望に飲み込まれる気なんてさらさらない。希望がある限り歩き続けるんだ。

 そう思った時に、今まで虚しく響き渡っていたぼくの足音以外の何かが聞こえた気がした。それは夜風のように微かな音だった。待ち望んだぼく以外の何かの音だった。

 ぼくは歩みを止め、微かに聞こえた音に集中しようとした。でも、緊張と興奮で高鳴る心臓が邪魔をして、ぼくの求めた音が聞こえない。いくら耳をすましても、高鳴る鼓動といつもの静寂しか聞こえない。

 ぼくはしばらく佇んでいた。

 微かに聞こえたあの音は幻聴なんじゃないかと思い始めていた。あれだけ希望に縋っていたのに、今さら何が聞こえるっていうんだ。

 軽く考えればわかるはずなんだ。こんな真っ暗闇の世界にぼく以外の誰かがいるわけがない。仮にいたとしても、声を上げるか、延々と歩きまわっているわけだから出会っていてもいいはずだ――。

 人は信じられないことはたやすく信じると言う。

 ぼくはそんな安易なロジックを躊躇なく受け入れていたようだ。

 つまるところ、この真っ暗で静寂に包まれた世界には誰もいないんだ。

 そんな簡単なことを、ぼくは受け入れられていなかった……。

 事実を受け入れたおかげで、ぼくを支配しかけていた緊張と興奮は朝霧みたいに消え去った。恐怖が隙を逃さず、ぼくの心を支配し返したのは言うまでもない。しかも今までよりも恐怖は頑強で残酷になって、ぼくの心から希望を奪い去っている。

 もはや、歩みを進めるという考えさえ、ぼくの心から消え去っていた。

 このままここで恐怖に蝕まれるしかないと諦めるしかなかった。

 誰かの足音がはっきりと聞こえ、恐怖が煙みたいに消えなければ――。


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